ゴルゴダ村に迫りくる脅威
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―――翌日の朝
「おはよう~♪ メイスンさん!」
イェンリンは約束していたメイスンの手伝いのために家を訪れた―――
そこには荷馬車に荷物を載せていたメイスンと、その手伝いに励むマルクがいた。
「おはよう、イェンリン。ちゃんと約束が守れて偉いじゃないか♪」
「イェンリンがちゃんと約束通りに来るなんて、明日は矢でも降ってくるんじゃないか?」
二人から信用のない言葉を掛けられてイェンリンは顔を顰めると、
「そんなことないわよ!マルクは私のことを何だと思っているの!!」
憤慨してマルクに突っかかる。
「イェンリンが約束を忘れていないことの方が数えるほどしかないって思っているけど?」
ニヤリと馬鹿にしたような笑みを浮かべながら答えると、
「酷い!―――でも確かに昨日の夜、母さんに言われるまで忘れていたわ……」
「ハハハッ! それじゃあカリオラに礼を言っておかないとな!」
メイスンが笑い飛ばすとイェンリンも気恥ずかしくなって、
「そ、そんなことより何を御手伝いすればいいの?」
此処へ来た本来の目的に立ち返る。
「ああ、今日は職人団の造った物を買い取りに来てくれる商人がコノ村から来てくれるんだ」
「コノ村の商人さんが!コノ村はおっきな村だったわ♪ 宿も三つあってお店も多かったのを憶えているわ!」
イェンリンが思い出を語るように二人に告げると、
「それって、この前メイローズまで行った時のことか?」
マルクがイェンリンに問い掛けた。
「そう!ゴンドゥルさん達に会いに行った時にコノ村にも寄ったの。大きな村で、メイローズに近い村だから人も多いって聞いたわ」
「フ~ン……でも確かに都に近いところなら人も増えやすいよな」
徐にマルクがそう話すと、
「でもアノ村よりもゴルゴダ村の方が大きいのよ」
「そうなのか?」
「うん。ゴルゴダ村には父さんの自警団や母さんの魔法薬があるから人が安心出来るってメテロさん達から聞いたの」
するとメイスンが笑いながら話に混ざる。
「ハハッ!確かにそうだ。この辺の村で此処ほどしっかりした自警団を持っている村なんてないし、カリオラの魔法薬も良く効くってメイローズまで話が届くくらいだからな」
「母さんってそんなに有名なんだ!」
「そうだぞ!だから買い付けにくる商人も多いんだよ。カリオラは商売をしたい訳じゃないみたいだから、頼まれた分だけ薬を作っているみたいだけどな」
「そうなんだ……沢山作って売ったらお金持ちになれるのに」
急に俗物的な言葉を告げたイェンリンにメイスンとマルクも驚いたが、
「アハハッ♪ 違いない!でもな、イェンリン。お前のお母さんは稼ぐことより娘であるお前とエリシラを育てることの方が大切なんだよ」
メイスンが見下ろしながらイェンリンに伝える。
「そうか……エヘヘッ♪ そうだよね!」
はにかみながら答えたイェンリンに、
「そろそろ手伝って欲しいんだけど?」
木箱を持ち上げたマルクがジト目でイェンリンを睨んできた。
「ごめんって!今から手伝うわよ♪」
そう答えたイェンリンも積み上げられた木箱の中から、自分が運べる大きさの木箱を持ち上げて荷馬車に運ぶのだった―――
―――荷馬車に荷物を載せ終えて、馬車に乗り込んだイェンリンとマルク。
馭者台に乗り込んだメイスンが家の中からルメイが出てくる。
「イェンリンじゃない!?まさか約束通り手伝いに来てくれていたの?!」
荷馬車にマルクと乗ったイェンリンの姿を見て驚くルメイ。
そのルメイはお腹が膨れていて、間もなくマルクの弟が妹が産まれるのだ。
「も~う!ルメイさんまで酷いよぉ!!」
手伝ったにも関わらず、信用のない言い草にいい加減イェンリンも頬を膨らませて怒った。
「ゴメン♪ ゴメン♪ ホラッ!御詫びにこれ、持っていって」
そう言って差し出されたバスケットを受け取る。
「中にお弁当が入っているわ♪ 向こうで仕事が終わったら食べなさい」
「うわぁ~♪ ありがとう♪ 丁度お腹が空いてきたところなのよねぇ」
「―――おい、今すぐ食べるなよ?」
今にもバスケットの中身に手を出しそうなイェンリンを、マルクが先回りして牽制した。
「分かっているわよ!私のことを何だと思っているの!!」
「気がついたら俺の弁当食べちまっているヤツだと思ってるけど?」
「昔のことは忘れなさいよ♪」
「お前に何回喰われたと思ってるんだよ!」
「お~い、お前達。そろそろ出るから落ちるんじゃないぞ」
言い合いをしている二人にメイスンが注意を促すと、
「―――それじゃあ、行ってくる」
見送りに出てきたルメイに笑顔で声を掛けた。
「いってらっしゃい♪」
手を振って見送るルメイの姿を見つめながら、
「ハァ~マルクがもうすぐお兄ちゃんかぁ……」
妙に感慨深そうな声で告げたイェンリンを見て、
「……何だよ?その言い方は」
訝しげにマルクが流し目を向けた。
「だってマルクがお兄ちゃんなんて、想像出来ないんだもの」
(―――私にとっては弟みたいなものだもの)
「何でだよ!俺からしたらイェンリンがお姉ちゃんしているって方がおかしい」
(―――俺からすればエリシラと一緒で妹みたいなもんだからな)
「どういう意味?私はちゃんとお姉ちゃんしているわよ!」
「ええ……そう思っているのって、たぶんお前だけだぞ?」
「なんですって!!」
大声を上げたイェンリンにメイスンが横から割り込み、
「コラッ!―――お姉ちゃんなら荷台で暴れるなよ?マルク、お前もだ。もうすぐお兄ちゃんなんだからな」
言い合う二人を諫めた。
「はぁ~い……」
声を落として返事をするイェンリンとマルク。
するとイェンリンが馭者台に向かって身を乗り出すと、
「メイスンさん!このままコノ村まで行くの?」
そう問い掛けたのでメイスンが少し呆れ顔になりながら答える。
「あんな遠くまでは行かないぞ?いつもの交易所まで行くだけだよ」
「なぁ~んだ。またコノ村に行けるのかって思っちゃった」
「勘弁してくれ。それだと泊りがけになっちまうだろう」
苦笑いで告げたメイスンに、今度はマルクが身を乗り出して、
「父さん!俺もイェンリンが行ったコノ村やメイローズまで行ってみたい!!」
突然そんなことを言い出したのはイェンリンへの対抗心もあった。
「そうだなぁ。母さんの出産が終わって、お前がしっかりお兄ちゃんになったら連れて行ってやろう」
「―――分かった!約束だぞ!!」
そんな賑やかな馬車は道を進んでいく―――
―――交易所とは、村を出て少し進んだ道沿いにある建物のことだった。
一々村の中の家まで立ち寄らなくても、此処で商人と落ち合うことで品物と代金を交換する場所になっており、職人団が自分に品や預かった商品を商人に引き渡しする場所として利用していた―――
―――そこは元々余所者を村の中に安易に入れないための簡易的な関所のような場所だったが、他の村との交流が進むにつれて商人との取引に利用するようになった経緯があった。
先に到着したイェンリン達は、引き渡し相手の商人が来るのを待っている。
「……遅いわねぇ」
ぼんやりと荷台から空を眺めて呟くイェンリンの言葉にマルクもコクリと頷き、
「そうだな……でもいつもは昼までにいつも到着しているんだけど」
これまで何度もメイスンの手伝いで来たことがあり、それまでも早く来ていることはあっても遅れたことのない商人に首を傾げていた。
「まあ、こんな日もあるさ。母さんが作ってくれたお弁当でも食べて待っておこう」
「やったぁ♪ お弁当♪ お弁当♪」
イェンリンは鼻歌混じりにルメイお手製の弁当が食べられると喜ぶのだった―――
―――ゴルゴダ村の東に向かう街道の途中
「ガッドナッド団長の命令で先に逃げ道になりそうなところへ回り込んでいたが……コイツは商人のようだな」
バイド村から進軍したブラッセン=ガッドナッドの戦士団は、別動隊を村の反対側へ先回りさせて逃げ道を塞いでいた。
その別動隊の兵士の前には―――
「オオッ!!―――コイツ!けっこう金を持っていたぜ♪」
―――肩から袈裟斬りにされ、大量の血溜の中で倒れた男の亡骸が転がっていた。
遺体の持ち物を物色していた兵士は、そこで大き目の革袋に入った銀貨を見て声を上げた―――
「―――金をそんなに持っているってことは、今日は買い付けか何かに来たのか」
兵士達を纏めている隊長らしき男がそう告げると、
「荷台がほぼ空だ。これから荷物を積むつもりだったみたいだ」
別の兵士が隊長に報告した。
「何を買うつもりだったのかは知らねぇが、これは俺達が有難く使わせてもらうとするぜぇ」
地面に倒れた物言わぬ亡骸を見下して、隊長は歪んだ笑みを浮かべていた―――
―――ゴルゴダ村近隣の自警団訓練場
常日頃から自警団が訓練に利用している広場では、ダンクを中心にして各自の訓練が行われていた。
「メテロ!―――魔術の発動をもっと集中して早めろ!!」
「―――はい!」
「ギューネも同じだぞ!―――強力な魔術ほど発動まで時間が掛かる!!」
「―――分かってるよぉ!」
魔術師の才を持つ二人には、同じく魔術師であるダンクの指導が入った。
その傍ではフロップスが訓練をしていて怪我をした団員達に『回復』の加護を用いて治療を行っている。
「―――これで大丈夫だ。あまり無茶するなよ」
「ありがとう!フロップス」
礼を述べた団員は再び訓練へと戻っていった。
「よし!そろそろやろうか―――ロドス」
一通り指導を終えたダンクは、ゆっくりと剣を抜いて振り返ると、
「……ウス」
既に剣を握って待っていたロドスの視線が鋭く細まった。
互いに剣を構えて広場のほぼ中央で睨み合うダンクとロドス―――
「戦士の戦い方は様々だが、その手数を知っていれば、それだけ対処方法も増える」
「……はい。これまでも色々と汚い手で倒されてきましたから」
ロドスの話は訓練の度にダンクから色々な手を使って抑え込まれた過去を言っている。
「だが、それを知れば知るほど対処も考えられる。一番怖いのは―――知らないことだ!」
そう叫んだダンクが全身に強化系の能力を発動した―――
―――『身体強化』
―――『身体加速』
―――『思考加速』
「―――本当に魔術師ですか?……完全に戦士だろう……」
ロドスは屈強な肉体に強化系能力を発動したダンクを見て呆れた顔をしつつ、
「それじゃあ…こっちも本気でいきますよ!!」
自身も同じく強化系能力を発動した―――
―――そこからは周囲の団員の目で捉え切れないほどの加速した剣戟が鳴り響き、激突する度に火花を散らしていく。
「やっぱロドスさん……スゲェ」
「何言ってんだ!魔術師であそこまで剣でやり合えるダンク団長の方がよっぽどスゲェだろ?」
見学していた周囲からはそんな声が彼方此方から飛び交う。
そんな訓練に熱が入っている頃―――
―――バイド村方面の地平線から接近する無数の影があった。
ゴルゴダ村に今、ブラッセン=ガッドナッド率いるカウスラー王国戦士団が近づいていた―――
―――そのことに村ではまだ誰も気がついていない。
そして、この後のゴルゴダ村に悲劇が待ち受けていることも誰一人として想像すらしていなかった―――
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