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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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20/20

静かに迫る闇

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―――廃坑道が崩壊した翌日から自警団の調査が行われて数日が経過していた。


「―――団長、此方の結界魔術も元に戻っています」


村の周囲に張られた七つの結界魔術に対して、『発明家インベンター』に塞き止められていた『地脈』の魔力が正常な流れに戻ったと聞かされたダンクは自警団を引き連れて周囲の調査に赴いていた―――


「そうか。ありがとう、メテロ。ゴンドゥルの言った通り、これで結界魔術は正常に戻ったようだな」


結界の調査を行ってくれていたメテロに返事をしてダンクも漸く安心感が広がる。


「しかし、この結界は魔物や悪霊といった人外の存在に効果を発揮する結界です。人族には効果がありませんから、そのことをしっかり認識しておかないと」


メテロの不安を抱かせる言葉に、ダンクは安心感が少し薄れる。


「こんな村に人族が襲ってくるとしたら……盗賊、野盗の類いしかいないだろう」


メテロの言葉にロドスが静かに告げる。


「―――そんなヤツ等なら容赦なく攻撃魔術で焼き払ってあげるわよ♪」


そこでギューネがダンク達にウインクをして言い放つと、


「余り無茶をしてくれるなよ?『回復』の加護であっても落とした命までは元に戻せないぞ?」


フロップスがやや呆れた顔でギューネを窘めた。


「分かっているわよ!」


少し膨れっ面をしたギューネに皆が笑っているとダンクが改めて、


「この森が最後の調査場所だ。さあ、村に戻ろう!」


自警団に号令を掛け、皆でゴルゴダ村へ帰還することになった―――






―――自警団の調査から次の日


ハリタス海洋自治領のとある村に近づく一団があった。


騎馬に跨る男を先頭にして行軍するその一団は―――


「―――ガッドナッド団長!もうすぐこの先に村が見えてくるそうですぜ」


―――ブラッセン=ガッドナッドが率いるカウスラー王国の王都守護戦士団だった。


「いいかぁ!!お前達!―――此処から先の村はすべて俺のものだぁ!!!」


「オォオオオオ―――ッ!!!」


ブラッセンの掛け声に周囲の兵達も興奮した声を上げる。


「金も!女も!食い物も!!―――すべて奪い取れぇ!!!」


「オォオオオオ―――ッ!!!」


「男共は皆殺しにしろ!!子供は捕えて奴隷商人に流すぞ!!!―――戦で儲けるにはこれが一番手っ取り早いんだ!貴族共は見栄を張ってそんな真似出来ないヤツ等ばかりだ!だから、美味しいところはすべて俺が頂く!!!」


「ウオオオオオ―――ッ!!!」


狂気を溢れさせる屈強な男達の声が、荒野に響き渡るとその先に目的の村が見えてきた―――


「―――駆け抜けよぉおお!!!」


―――その前方の村へ向けてブラッセンの号令が響き渡る。


すると行軍していた戦士達が一斉に前に出る―――


―――血走った眼をした男達の濁流が村へ押し寄せていく。


それは誰の目にも明らかな暴力と恐怖の奔流だった―――






―――その長閑な村はこれまで戦に見舞われることなどなく、静かな辺境の村として村人は末永く過ごしてきた。


「―――今年も何とか麦も育ってくれているな」


「もう!父さん、それ毎日言っているわよ♪」


麦畑に出ている農夫姿の中年の村人の呟きを、茶色い髪をした娘が揶揄口調で告げる。


「これは魔術みたいなものさ。こうやって毎日毎日、作物が育つ様子を口にすることで願掛けしているのさ」


「そんな魔術師じゃないんだから♪ でも、そのおかげで毎年―――」


「―――ぐひゅ!?」


娘が毎年豊作になっている話を父に告げようとした時―――


―――娘の目の前で父の右側のこめかみから、左に向かって突き出した一本の矢があった。


「……父……さん……」


口髭を生やした口を大きく開け、目をひん剥いてビクッと痙攣した父親は立っていられずにゆっくりとそのまま後ろへと倒れ込んでいく。


「キャアアアアア―――ッ!!!」


すると呆然とした娘とは別の村人から悲鳴が上がる―――


「―――な、なんだ!?あいつ等!野盗かぁ!?」


―――次々に襲い掛かる矢の中を逃げ惑う村人達。


「―――掛かれぇえええ!!!」


すると突如現れた集団から野太い男の掛け声が響くと―――


―――その集団が怒涛の勢いで村人達に襲い掛かる。


「イヤアアアア―――ッ!!!」


「―――に、逃げろぉおお!!!」


恐怖を顔に宿した村人達が一斉に逃げようとするが―――


「―――逃がすなぁ!!一人として村の外に出すなぁ!!!」


―――既に畑を包囲していた戦士団によって、男は次々に切り捨てられていき、


「放してぇええ!!!」


目の前で父親を殺された娘や他の女達は次々と兵士に捕えられていく―――


―――畑仕事に出ていた村人達は次々と命を奪われて、


その村はというと―――


―――既にブラッセンの本隊が乗り込み、虐殺の限りを尽くしていた。


村の彼方此方に転がる村人だった肉塊は、手足を失った者や首を斬り落された者まで残虐な殺され方をした遺体ばかりだ。


「あ……あんた達、一体どこの誰なんじゃ?」


そんな亡骸ばかり転がっている村で、特に立派な佇まいの家に押し込んだブラッセンと部下達は捕えた村長を前に不気味に醜く笑う……


「フハハッ……どこの誰かだと?それを教える前に、此処は何という村なんだ?」


「……此処は……バイド村じゃ……」


「フム……そうか。それじゃあ……此処から一番近い村は、どこだ?」


「だ、誰がそんなこと、教えるものか!!」


このままではどうせ自分も生きてはいられないと悟っていた村長は、せめて他の村にまでは迷惑を掛けまいと口を噤む。


「ああ~そうかい……オイッ!」


ブラッセンは横で控えている部下の一人に目配せすると、部下の男は尋問している村長のいる部屋から隣の部屋へ向かう。


そこに入り、暫くすると―――


「―――イヤアアアアッ!!!やめてぇ!!!」


―――突然その隣の部屋から若い娘の悲鳴が響き渡る。


「ッ!!―――き、貴様ぁ!!!」


「―――お前の大事な娘だから丁重に扱っていてやったのに」


その間も隣の部屋からはビリビリと布が破り捨てられる音が此方まで響く―――


「や、やめろぉ!!!―――どうか、やめてくれぇええ」


「―――別にお前が素直に協力してくれたら、聞いてやらないこともないんだぜぇ?」


―――ニヤつきながら告げるブラッセンに、村長はもう陥落するしかなかった。


「こ、此処から一番近い村は……ゴルゴダ村じゃ」


「ゴルゴダ村かぁ……それはどこにある?」


「……この村から北東へ二日ほど行ったところじゃ……さあ!教えたぞ!!娘を放せぇ!!!」


「まぁ落ち着けぇ……その前に俺達がどこの誰かって話だったなぁ」


「なんだ!今更そんなこと―――」


「―――俺達はカウスラー王国守護戦士団さ」


「カ、カウスラー王国だって!?」


「この度、我が王―――カウスラー陛下はハリタス海洋自治領への侵攻をお決めになった。俺達はその先遣隊ということさ♪」


「せ、先遣隊!?ではカウスラー王国は―――ッ?!」


村長の言葉の途中で、ズブリッと鈍い音が聞こえたかと思うと―――


―――拘束されていた村長の胸に、いつの間に抜いたのか剣が深く突き刺さっている。


「ああ~それとお前がそのゴルゴダ村に伝えようとして出した使いだけどな?俺の別動隊がとっくに始末しておいたよ。俺は狙った村から一人も逃がしはしない」


「こぉ……こぉのぉおお!……外道がぁ!!」


胸を貫かれた村長は口から血反吐を吐きながら、断末魔代わりにブラッセンを殺意の籠った眼で睨みつける。


「外道で何が悪い?お前の娘も俺の部下達でしっかり可愛がってやるよ―――」


そう告げたブラッセンが村長の胸に突き立てた剣を引き抜くと同時に―――


「―――はぴゅ?!」


―――横薙ぎに村長の首を斬り飛ばすと、苦悶の表情を浮かべた村長の首が床に転がり、胴体の首元からは噴き上がる鮮血が部屋の天井まで届き赤く染め上げていた。


「この村から奪い尽くしたら、次の村はゴルゴダ村だ」


剣の血糊をブンッと振り払い、鞘に納めながら部下達に告げる。


「この村には手配した奴隷商人が後から追いついてくる。二十人ほど残して次の村に向かうぞ」


「それまでは村の女共を頂いても?」


部下がブラッセンにそう問い掛けると、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべながら、


「好きにしろ」


そう部下達に言い放つのだった―――






―――その頃、


ゴルゴダ村ではダンク達が村に戻り、コビック村長へ結界魔術が正常に戻ったことを報告した。


「そうか……結界は無事に戻ったか」


「はい。これで魔物がこの村に近づくことはないでしょう」


ダンクの報告にコビックも満足そうに頷く。


「しかし、それでは自警団はまた暇を持て余してしまうのではないか?」


そんな冗談を告げるコビックにダンクは苦笑しながら、


「いえいえ、だからこそコイツ等の訓練に力が入るというものです」


「―――ウェエエ!?」


ダンクと共に報告に来ていたロドス達から一斉にそんな声が上がると、


「ハハハハッ♪ まあ、それはまた明日からということで……皆、御苦労じゃったなぁ。今日はゆっくりと休んでくれ」


「ありがとう、村長」


そう言ってダンク達は村長の家を後にするのだった―――






―――家に戻ったダンクをイェンリンは待ち侘びた顔で出迎えた。


「お帰りなさい!父さん♪」


「お帰りなさい、お父さん」


愛しい娘達に迎えられて、ダンクは笑みを浮かべながら、


「ただいま♪ イェンリン、エリシラ」


二人の頭を優しく撫でる。


「ねえねえ♪ 調査の方はどうだったの?」


イェンリンは木の実の森にもう一度行きたくて、今日一日ずっと気になっていたことをダンクに問い掛ける。


「うん。結界魔術は正常に戻っていたよ。これで魔物がこの村に近づくこともない」


「それじゃあ!―――木の実の森に行ってもいいの?」


「―――ダメよ!イェンリン」


期待を込めた問いをダンクに告げた時、厨房から顔を出したカリオラが待ったを掛ける。


「えええ~!―――どうして!?母さん!」


「貴女!明日はメイスンの御手伝いをする約束だったでしょう?」


「あっ……そうだった……」


「お姉ちゃん……」


この世の終わりかというほど落ち込んだ顔を見せるイェンリンに、エリシラは呆れた顔を浮かべていた。


そんなイェンリンの元へカリオラがやってきて向かい合うと、


「約束は約束!―――ちゃんと御手伝いしてきなさい!」


「はぁい……」


気のない返事を返すイェンリンにカリオラは小さな溜め息を吐きながら、


「フゥ……明後日ならいいわ。それならマルクも一緒に行けるでしょう?」


優しくイェンリンの頭を撫でながら伝えた。


「確かにそうね!マルクもメイスンさんの御手伝いだって言っていたから、明日森に行けるようになったって教えてあげないと♪」


「そうね♪ だから明日は御手伝いお願いね」


カリオラの手から温もりが頭に伝わって、イェンリンは笑顔を向ける。


「分かった!―――頑張って手伝ってくるね♪」


その笑顔の返事にダンクもカリオラも並んで微笑み返すのだった―――



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