紅神龍クリムゾン・ドラゴン
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―――紅龍城に戻ったゴンドゥルとブリュンヒルデ。
紅神龍クリムゾン・ドラゴンの住まう紅龍城で、髪にまで纏わりついた土汚れに砂利といった身体の汚れを落とすため浴場で洗い流す―――
そして白いワンピースの上から表面が鏡面状に輝く真紅の鎧に手甲足甲を装備し、二本の羽根を模した飾りの取り付けられた羽根兜を被るゴンドゥルとブリュンヒルデが紅龍城の広い廊下を歩む。
ゴルゴダ村にいた時の雰囲気とは大きく違い、今はまるで王に仕える騎士のような気品すら漂う二人は長い廊下を真っ直ぐ正面を向きながら進んでいく。
その先には重厚な両扉が見えており、そこへ辿り着くと二人で押し開き、その中へ足を踏み入れる―――
―――そこは広大な空間が広がり、
赤い絨毯の伸びる先には、それを挟み向き合って左右に立ち並ぶ美女達がいた―――
―――ゴンドゥルとブリュンヒルデと同じ真紅の鎧を身に纏うその美女達の奥には、壇が設けられて玉座が配置されている。
一段高い位置にある玉座に腰掛ける長い紅髪と赤い瞳をした絶世の美女が、入場してきたゴンドゥルとブリュンヒルデを見つめていた―――
その赤い絨毯を踏み締めて前に進む二人は、やがて玉座の前まで進み出るとそこで片膝をついて跪く。
「只今戻りました―――紅神龍様」
頭を下げたままブリュンヒルデが玉座の美女に向かって告げると、その美女は紅い視線で二人を見下ろす。
「ブリュンヒルデ……ゴンドゥル……ハリタス海洋自治領に赴いていた貴女達が二人揃って戻ってくるとは何かあったのかしら?」
左右に深いスリットの入った紅いロングスカートと、アンゴロ大陸で着物と呼ばれる左右から合わせになった白い上着を纏うその美女は玉座に右肘をつき、その手に顎を乗せながら静かに問い掛けた。
「報せもなく突然帰還致しまして申し訳ございません。実は我等が滞在しておりましたハリタス海洋自治領のメイローズに、辺境のゴルゴダ村から依頼が参りました」
「辺境の村から依頼?」
首を傾げた紅神龍にゴンドゥルは続ける―――
「―――はい。村の周囲に張られた結界魔術の効果が衰えてきたようで、その結界魔術の調査をという依頼でした」
「結界魔術……確かあの辺りで結界に護られた村があったわね?」
そう告げた紅神龍は一番手前に並び立っていたフレイアに問い掛ける。
「―――確か、かなり昔にあの地を訪れたエルフの大賢者が施した結界がございました」
フレイアがそう答えるとゴンドゥルが続ける。
「その村のことです。そこに赴き結界魔術の現状を調べましたところ、原因は地下深くに撃ち込まれた魔術の杭から、『地脈』の魔力を利用して結界を維持する仕組みになっておりました」
「あの大賢者の得意とする魔術の一つね。それで?」
紅神龍に促されて続きを語るゴンドゥル―――
「―――その『地脈』に魔力が殆ど流れておらず、結界を維持する力が衰えていることが調査で分かりましたので、その魔力の流れを辿って上流へと向かいました」
―――ゴンドゥルの話を紅神龍も並び立つ美女達も黙って聴き入る。
「村の自警団に協力してもらい、その上流に当たる土地に昔ドワーフが掘った廃坑道があると聞いて、ブリュンヒルデと共に向かいましたところ……」
そこでゴンドゥルの言葉が一瞬途切れる。
「……その廃坑道の奥で、これまで見たこともない施設と立ち並ぶ硝子容器に濃縮された液体状になった『地脈』の魔力を満たした物がございました」
「ッ―――それは……」
ゴンドゥルの話にフレイアが反応するが、紅神龍は顔色一つ変えずに聴いていた。
「そこには『発明家』と名乗る妖しい男がおりました。そして硝子に溜め込んだ液状の魔力の中で魔物を生み出して襲い掛かってきました」
「―――その魔物は?」
紅神龍の問いにブリュンヒルデが答える。
「硬い外殻に覆われた人型の魔物で、あれは人族の武器では歯が立たないものかと」
「殲滅したの?」
続けて問い掛ける紅神龍にゴンドゥルは頷いて、
「―――はい。私の魔術で吹き飛ばしましたが……『発明家』は生死不明です。申し訳ございません」
そこまで話を聞いてから紅神龍は暫し両眼を瞑って思考する。
間もなくゆっくりと眼を開いた紅神龍が玉座の間に並び立つ美女達に問い掛ける。
「―――フレイア。そのような魔物を生み出す仕掛けを見たことは?」
「申し訳ございませんが、私の知る限りではございません」
「筆頭の貴女でも知らないのね……スクルド。貴女はどうかしら?」
続いてフレイアの向かいに立つ濃紫のストレートロングの髪に鋭い藍色の瞳をした美女に問い掛けるが、
「私も存じません」
「―――フロック。貴女はどう?」
続いてフレイアの隣に立っていた長い金髪を一本に編み込み、深い緑色の瞳をした美女に問い掛けた。
「残念ながら知りませんねぇ……ですが、それほどの施設だったら、一度見てみたいですねぇ♪ 何か分かるかも」
「―――あっ、すまないねぇ。魔術で地下空洞ごと崩落した岩山に埋もれたよ」
「なんてこった……勿体ない話だねぇ」
残念そうなフロックを見て、ゴンドゥルも心の中で―――
(私もそう思ったよ!もう少し手加減出来れば良かったんだけど……)
―――フロックと同じ思いだが、あの魔物達を相手に手を抜いて表に出す訳にもいかなかった。
「それなら―――アルヴィトと一緒にその場所へ行ってきなさい」
そこで紅神龍は並び立つ一人に視線を向けて、ゴンドゥルへ命じる。
「アルヴィトを?」
振り返ったゴンドゥルは、その白髪のセミロングを後ろで纏めて紅い瞳に白い肌をした小柄な美少女に視線を向けた。
しかしすぐにその意図を察して、
「ああ……なるほど。『全知』ですか」
思い出したようにそう告げる。
「ええ。アルヴィトの『全知』スキルを使って、その崩れた岩山を調べれば何か分かるでしょう」
紅神龍の言葉にゴンドゥルは頷く。
「さあ、今日は折角二人が戻ってきたのだから―――スルーズ。宴の用意をしてくれるかしら?」
「―――承知致しました」
肩上の赤い髪で茶色い大きな瞳をしている大人びた美女は頷いて返事をする。
すると別の美女が前に出て、
「ブリュンヒルデ!久しぶりに戻ってきたんだ。庭で一手鍛錬につき合ってもらおう」
身長が高く凛々しい態度の長い白髪をした銀色の瞳を細めてニヤリと笑みを浮かべる美女がブリュンヒルデに迫ると、
「ゲイラホズ……仕方ありませんね。私に挑んだことを今回も後悔させてあげましょう」
普段からいつも挑まれていることを暗に含みながら返事をした。
「フフッ♪ あまり無茶をして城を壊すことがないようにしなさい。貴女達『紅の戦乙女』が本気でぶつかり合えば、この首都も吹き飛んでしまうのだから」
紅神龍は美しい微笑みを浮かべながらも、その言葉の内容は途方もない話が盛り込まれていた。
―――『紅の戦乙女』
紅神龍の牙から生み出された使徒であり、彼女達のことは『龍牙人』という。
神龍の使徒達はそれぞれ桁違いの能力を持ち、またその寿命も神龍と同じく長い寿命を持ち、紅神龍に絶対の忠義を尽くす存在である。
数多くの『紅の戦乙女』はそれぞれ序列を持ち、その上位十二名は二つ名を持ち『紅の戦乙女』を統括し、紅神龍から直接命令を受けて行動していた。
この玉座の間に集った『紅の戦乙女』は―――
『紅の戦乙女』筆頭
紅神龍の使徒を率いる総司令官
―――『女神』フレイア
『紅の戦乙女』第二位
『紅の戦乙女』副官にして指揮官
―――『勝利する者』ブリュンヒルデ
『紅の戦乙女』第三位
紅神龍の金庫番
―――『未来を司る者』スクルド
『紅の戦乙女』第五位
紅神龍の魔術師
―――『杖を振るう者』ゴンドゥル
『紅の戦乙女』第六位
紅神龍の料理番
―――『強き者』スルーズ
『紅の戦乙女』第七位
紅神龍の鍛冶師
―――『武器を轟かせる者』フロック
『紅の戦乙女』第八位
何物をも貫く紅神龍の槍
―――『槍を持ち進む者』ゲイラホズ
『紅の戦乙女』第十二位
優れたスキルを持つ紅神龍の眼
―――『全知』アルヴィト
八名の『紅の戦乙女』を眺めながら紅神龍は微笑む―――
ゴンドゥルはそんな笑い合う皆を見つめて、あの村の少女イェンリンのことを思い浮かべる。
(何も言わずに帰ったこと、悪いことしちまったねぇ……)
そんなことを考えながら、遠くの村の少女の笑顔を思い出してゴンドゥルも微笑むのだった―――
―――ハリタス海洋自治領ゴルゴダ村
『発明家』が施設を築いていたドワーフの廃坑道から戻ってきたダンクと自警団は、その足でコビック村長の元へ向かった。
そこで村長に廃坑道で起こった出来事を話していくと、コビックの表情が徐々に青くなっていった。
しかしゴンドゥルとブリュンヒルデによって結界魔術が回復した話を聴くと、ホッと胸を撫で下ろして安心した。
その後は自警団を一度解散し、ダンクも我が家へと帰る。
だがそこでゴンドゥルとブリュンヒルデが帰ったと聞いた時、
「えええええ~!!!―――ゴンドゥルさんとブリュンヒルデさん、帰ちゃったのぉ!!!」
嘆き悲しむイェンリンの声が家中に響き渡った。
「仕方がないだろう……大変なことが起こって、二人は一刻も早くそのことを報せにいかないといけなかったんだ」
そんなイェンリンを宥めながらダンクは言い聞かせようとするが、
「ウウゥ~!!でも、でもぉ……」
ゴンドゥル達が帰ったことが余程ショックだったのか、勝気なイェンリンが瞳に涙を溜めてダンクを見上げていた。
するとそんなイェンリンにそっとエリシラが寄り添う。
「また会いに来る。だから元気でいるように、ゴンドゥルが伝えてくれと言っていた」
「ウゥ……うん……」
漸く落ち着き始めたイェンリンの頭をそっと撫でるダンク。
「二人のおかげで結界も元に戻ったそうだから、調べて安全だと分かれば、また木の実の森に行ってもいいぞ」
「ホント!?―――やったぁ~♪ ねえ!いつ!いつから行けるの?」
コロッと表情を変えて、笑顔でダンクに抱き着き見上げながら問い掛けるイェンリンに、ダンクは漸くホッとする思いがした。
「明日その調査に自警団で向かうから、それからならいいぞ」
「やったぁ♪ エリシラ!またマルクと三人で木の実獲りに行こうね♪」
「―――うん♪」
幼い娘達の微笑み合う光景に、ダンクは今日一日で起こった信じられない事態に身を置いたことで気を抜けなかった状況から漸く解放された気持ちだった―――
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