ヴァーミリオン皇国
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―――ドワーフの残した廃坑道を只管に駆け抜けるダンク達。
漸く出口まで辿り着いて外へ飛び出したその時―――
「ウオオオッ!―――皆、逃げろぉ!!!」
外で待機していたゴルゴダ村の自警団員は、突然大声で退避命令を出すダンクに困惑していたが、突然地面が鳴動を始める。
ゴゴォオオオ―――ッ!!!と鳴り響く廃坑の入口があった岩壁が崩れ落ちていくと、巨大な岩が上から次々に地面に叩きつけられて地響きを起こしていく。
「な、何があったんですか!?」
外で待っていた自警団員が飛び出してきたダンク達に問い掛ける。
「話は後だ!―――今は安全な距離を取るぞ!!」
岩が次々と崩れ落ちてくる断崖から距離を取りながら、今も崩れ続けていく廃坑道の入口にダンクは視線を向けて、
(無事でいてくれよ!―――ゴンドゥル!ブリュンヒルデ!)
歯を食いしばり、中に残った美女二人の無事を必死に祈る。
すると断崖の岩肌が崩れて、内側から強烈な炎の爆風が火山のように噴き出した。
断崖の彼方此方から爆炎が吹き出し、黒煙が立ち込めながら断崖は崩れ続けていく様子をダンク達は呆然と眺めることしか出来ない……
しかしその時―――
「ッ―――団長!あれ!!」
―――メテロが空中に浮かぶ人影を見つけ、それを指差しながらダンクに叫んだ。
そこには―――
「―――ゴンドゥル……お前!やりすぎだ!!」
魔術によって断崖の岩山を崩壊させたゴンドゥルに怒鳴りつけるブリュンヒルデと、
「ゲホッ!ゴホッ!―――いやぁ~ちょっと張り切り過ぎちゃったかなぁ♪」
煙で咳込みながら《空中浮揚》で空に浮かぶゴンドゥルが並んで降りてくる姿があった。
「無事だったのか!!」
ダンクが二人の姿を目にして喜びを噛みしめると、そこへ二人が降り立った。
「皆、怪我はなかったかい?」
断崖を一つ崩壊させたにも関わらず、ゴンドゥルは笑みを浮かべて飄々とした態度で皆の無事を確認する。
「あ、ああ。俺達は大丈夫だ……しかし、あれから一体何があったんだ?」
ダンクは空洞から脱出した後のことをゴンドゥル達に問い掛ける。
「いやあ~♪ ちょっと『四重高速同時魔術詠唱』をぶちかましてみたら、こうなってさぁ♪」
「……はい?」
思わずダンクが唖然とする。
「ちょっと待ってください!!今、『四重高速同時魔術詠唱』って仰いましたか?」
そこでダンクより先に驚きの声を上げたのは、廃坑道に同行したギューネ=シュリンだ。
「ああ、言ったよ♪ それが思った以上に威力が増して……いや、あの空洞で硝子容器から零れ残った液化した魔力に私の魔術が引火したんだ。おかげで廃坑道もあそこに現れた魔物共も皆吹き飛んだけどね♪」
「信じられない……『四重高速同時魔術詠唱』なんて同時詠唱の奇跡と言われる領域なのに……」
その話を聞いて驚きと尊敬の目を向けるギューネに、ゴンドゥルはパチリ♪ とウインクを返す。
「おい……これだけ派手にやっておいて、あの金髪の男も倒したんだろうな?」
土埃で汚れたブラウスとローブを払いながら、ブリュンヒルデがそれを確かめる。
「勿論!……と言いたいところだけど、すぐに爆発が大きくなって最後の瞬間までは確認出来なかったけど……」
そう告げて崩れ落ちて崩れ落ちた廃坑道があった場所へ視線を向けるゴンドゥル。
「……『索敵』には特に何も掛からないね」
「それは私も同じだが……しかしゴンドゥル。このことは―――」
「―――分かっているよ。ブリュンヒルデ」
何かを言い掛けたブリュンヒルデにゴンドゥルは途中で言葉を遮ると、今度はダンクに向き合う。
「突然だけど、団長さん!」
「ッ!―――どうした?何かあったのか?」
「急で申し訳ないんだけど、私とブリュンヒルデは此処で別れてお暇するよ」
「えっ?此処で?本当に急な話だな?身形も汚れているし、一度家に帰ってからでもいいんじゃないのか?」
此処で突然帰ると言い出したゴンドゥルに、ダンクは残念そうな顔をして引き止めようとしたが、
「いや、悪いね……でもあの洞窟にいた『発明家』とかいう男……恐らくだけど一人であそこまでの仕掛けを造ったとは思えないんだ。何かこの世界に起こっているかも知れない。それを報せに戻る必要があるのさ」
普段とは違う真剣な声色にダンクもこれ以上は引き止められないと悟って、
「分かった……でもイェンリンとエリシラが哀しむだろうな」
だが娘達の顔が浮かびゴンドゥルにそう告げる。
「あの二人にはまた会いにくるよ♪ だから元気でいるように伝えてくれる?」
「分かった。必ず伝えるから、今度また二人で遊びに来てやってくれ」
ダンクの言葉にゴンドゥルとブリュンヒルデは笑顔で頷くと、
「さっき『地脈』の流れを確認したけど、正常な流れに戻ったよ。これで村の周囲にある結界魔術もまた機能を果たすはずだから♪ それじゃあ―――皆!またね♪」
その場で《空中浮揚》を発動すると、ゆっくりと空に浮かび上がっていき、やがて東に向きを変えて、
「―――さようなら♪」
軽く手を振ると次の瞬間、高速で空の彼方に向けて飛び立っていった。
「―――ありがとう!!また会おう!!!」
そんなゴンドゥル達に手を振りながら、ダンクと自警団員は姿が見えなくなった後も見送り続けていた―――
―――大空を飛翔するゴンドゥルとブリュンヒルデは、雲の中を突き抜けながら東に向かってスピードを上げる。
青空に浮かぶ白い雲の塊を何度も突き抜け、並んで飛ぶゴンドゥルにブリュンヒルデが話し掛ける。
「ゴンドゥル!正直に言え!!―――あの男は生きているのか?」
頬に冷たい風を掠めながら、深い緑の瞳を細めたゴンドゥルは、
「魔物共は確実に討伐した。だが……あの男のことは正直分からない」
「お前でも分からないと?それは益々すぐに戻らねばならん」
深刻な表情で正面へ向き直るブリュンヒルデを見て、ゴンドゥルは逆に悪戯っぽい表情を浮かべながら、
「そんなに一刻も早く紅神龍様の元へ戻りたいのかい?―――『紅の戦乙女』第二位『勝利する者』ブリュンヒルデよ」
彼女をそう呼んだ。
「ふざけている場合か!第五位『杖を振るう者』ゴンドゥルよ!!……あの空洞の施設は異常なまでに進んだ技術を用いていた。このことは紅神龍様に直接御伝えしなければならない」
「ああ……そうだねぇ。あれは本当に潰すのが勿体ないほどの代物だったよ。それだけにこの北部ノルドで……紅神龍様の縄張りで好き勝手するような真似をする輩を見逃す訳にはいかない」
「その通りだ―――さあ、このままヴァーミリオン皇国まで飛ぶぞ!!」
そう言い放ったブリュンヒルデに笑みを向けたゴンドゥル。
二人は初めてイェンリンと出会ったハリタス海洋自治領の首都メイローズを飛び越えて、そこより東にある国―――
―――ヴァーミリオン皇国を目指して更に空中で加速する。
加速する二人の全身を蒼白い光が包み込むと、青空にその光の尾を引いて東へ一直線に向かっていくのだった―――
―――ヴァーミリオン皇国
フロンテ大陸北部ノルドの中央寄りにある国家である。
『皇国』を冠する国はフロンテ大陸の東部エスト、西部オーヴェスト、南部スッド、北部ノルドにそれぞれ一国ずつ存在し、その地で大陸を縄張りとする四大神龍が人類と初めて盟約を結んだとされている。
【フロンテ大陸東部エスト】を縄張りにする
―――蒼神龍ブルースカイ・ドラゴン
【フロンテ大陸西部オーヴェスト】を縄張りとする
―――黒神龍ミッドナイト・ドラゴン
【フロンテ大陸南部スッド】を縄張りにする
―――白神龍スノーホワイト・ドラゴン
【フロンテ大陸北部ノルド】を縄張りにする
―――紅神龍クリムゾン・ドラゴン
―――以上の四大神龍の縄張りが決まっており、この大陸の東西南北は古から神龍同士で不可侵の盟約があり、侵略行為は禁止されている。
この四柱の神龍が大陸を四つに分けて縄張りとしており、その土地での信仰の対象となる偉大な存在であった。
その盟約を神龍と結んだ女性達のことを各地の皇国では『国母』と呼び、国母となった彼女達がその皇国を統治した。
そしてこの北部ノルドのヴァーミリオン皇国の国母の名は―――
―――アルタニア=ヴァン・ヴァーミリオンという。
神龍と結ばれた盟約はアルタニア本人と紅神龍のみが知っており秘匿されているもので、既にアルタニアは崩御しているため、その盟約は紅神龍が知るのみとなった―――
―――そしてハリタス海洋自治領の上空を飛翔して、そのヴァーミリオン皇国の空を飛ぶゴンドゥルとブリュンヒルデは、この国の首都レッドへと向かう。
首都レッドは北部ノルドの中では発展している都市になる。
広大な平野に広がる都市は、中央にヴァーミリオン皇帝の城があり、その皇帝の城の名は『セキト城』という。
その白壁の城とは別に、首都レッドの傍にある高い丘の斜面に沿って築かれた巨大な真紅の城があった。
その城の名は―――
―――『紅龍城』という。
音の速さを超える速度で空を飛翔してきたゴンドゥルとブリュンヒルデは、その紅龍城の広いテラスに築かれた、まるで空中庭園のような場所にストンと静かな着地を決めると、
「私の速度についてくるなんて、なかなかやるじゃないか♪ ブリュンヒルデ」
ゴンドゥルは魔術師である自分の音速を超える速度に追従してきたブリュンヒルデを褒めていた。
「馬鹿にするなよ?同じ『紅の戦乙女』なのだ。この程度の速度についていけなくてどうする」
平然とした顔でゴンドゥルに言い返していると、
「―――二人とも。突然戻ってくるなど、そんな報せは聞いていませんでしたよ?」
テラスの庭園にいつの間にか真紅の鎧を纏う、まるで戦乙女のような美女が二人に向かってきながら語り掛けた。
長いストレートの銀髪に紅い瞳をした美女に対して、ゴンドゥルは笑顔を向ける。
「ただいま―――フレイア♪」
無表情で諫めている美女フレイアの言葉に対して挨拶を告げるゴンドゥルに、
「フゥ……まったく……お帰りなさい。ゴンドゥル、ブリュンヒルデ」
それまで感情を見せていなかったフレイアは、小さく溜め息を吐くと二人を迎えた。
「玉座の間で紅神龍様がお待ちよ。二人が揃って直接戻ってくるなんて、それほどのことがあったということでしょう?」
「そうだねぇ♪ 私も本気で驚くようなものを見たよ」
ゴンドゥルのその言葉にフレイアはピクリと眉を揺らす。
「では……このまま玉座に向かいましょうか……と言いたいところだけど、主の前にそのような泥だらけで連れていく訳にはいきません。着替えてきなさい」
「確かに……ゴンドゥルの魔術で酷い目にあった……」
そんな嘆きの言葉を呟くブリュンヒルデに、まだ事情を知らないフレイアは眉を顰める。
「まあ♪ まあ♪ 無事に戻ってこられたんだから、まずは着替えましょうか♪」
お気楽な口調で答えるゴンドゥルに、ブリュンヒルデと並んだフレイアも二人して溜め息を吐くのだった―――
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