地下空洞の邂逅
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―――前衛を進んでいたブリュンヒルデが、その先にある広い空間に何かいることを『索敵』スキルで感知する。
「ッ―――気をつけて。何かいる……」
「これは……先客がいるみたいだねぇ♪」
緊張するこの場面で、ゴンドゥルはニヤリと不敵な笑みを独り浮かべる―――
先頭に立つブリュンヒルデとロドスが手に剣を持ち、互いに視線を合わせると同時に空洞の入口から進み出る―――
「ッ!―――これは……」
―――飛び込んだブリュンヒルデの目に飛び込んできた物は、
広大な空洞の中でその地面に広がる銀色をした土台の上に幾つもの筒形をした硝子の容器が見渡すだけで数百も立ち並んでいる光景だった―――
「なんだ?……これは」
それを目にしたロドスは今までの人生の中でも見たことがない景色に困惑の色を浮かべて息を飲む。
それは続いて広大な空洞に乗り込んだダンクとメテロ、ギューネにフロップスも
同じくその景色に意識が飲まれていた。
そんな中で―――
「……」
―――ブリュンヒルデとゴンドゥルだけは動揺する様子もなく辺りを警戒する。
「ッ!―――あそこだ!」
ブリュンヒルデが剣の切先を硝子容器の並ぶ奥に向けると、そこから人影が揺らぎながら現れる。
「―――あれぇ?こんなところに御客さんかい♪ ちゃんとノックはしてくれたのかな?」
そこに現れたのは白い薄手のコートを纏い、金髪で緑の瞳をした美男子が土台の上からゴンドゥル達を見下ろしながら言い放った。
「悪いねぇ♪ 扉は開けっ放しだったみたいだよ?」
見慣れない光景に動揺を隠せないでいるダンク達を置いて、ゴンドゥルが前に出て金髪の男に言い返すと、
「へぇ……この発明を前に動じることなく前に出るとは……君は豪胆だねぇ♪ それとも只の強がりかな?」
その男はゴンドゥルの纏う他とは違う雰囲気に警戒の眼を向ける。
「……『発明』だって?それはこの銀色の土台と、その上に並ぶ硝子の容器のことかい?」
その男が警戒心を上げたことに気づいているゴンドゥルが飄々と質問する。
「その通り!これこそは俺が発明した傑作だよ♪」
「傑作ねぇ……ところでアンタは何者だい?」
男が何者なのか、ゴンドゥルは明らかにしたい点を率直に問い掛けた。
「俺は……『発明家』だよ!!」
両手を空洞の天井に向けて大きく広げると自らを発明家と名乗り、歪んだ笑みをゴンドゥル達に降り注ぐ。
「そうかい……それで、その『発明家』様は何を発明したというんだい?」
ゴンドゥルの視線が鋭く尖る。
「よくぞ訊いてくれた!この偉大な発明が知りたいなんて、君はなかなかの探求心を持ち合わせているようだ♪ では……とくと御覧じろ!!」
そう叫び、右腕を上げると広い土台の上に並んでいた硝子容器の中に、光を帯びた橙色の液体のようなものが満たされていく―――
「ッ!―――気をつけろ!!」
―――気を持ち直したダンクが自警団のメンバーに声を上げる。
「あれは……」
ゴンドゥルは満たされていく橙色に輝く液体に鋭い視線を向けると―――
「―――『地脈』の魔力を具現化したのか!」
―――その正体を看破して叫んだ。
「ほう?思った以上に優秀な魔術師のようじゃないか?確かに!これは地下深くを流れる『地脈』の魔力を濃縮したものだよ♪」
そう説いた『発明家』の背後には数百は並ぶ巨大な硝子容器に満たされる魔力がドクドクと波打ち、やがてその容器の中に何か塊のような物が現れる。
それは急速に大きくなり、まるで進化を辿るようにして容器の中を満たすほどの体格をした人型の何かが造り出されていく。
「こいつは驚いたねぇ……」
「おい!―――ゴンドゥル!あれは一体何をしているんだ!!」
ブリュンヒルデは放心したようなゴンドゥルに目の前で起こっている現象を問う。
「あの容器の中に満たされているのは、この地下を通っていた『地脈』の魔力さ」
「魔力だって!?だが、あんなに液体の様にハッキリと目に見えているぞ?」
「―――それだけ濃縮されているってことさ。あの容器一つで極位クラスの魔術の発動に必要な魔力千回分くらいの魔力が収められている」
「―――なんだと!?」
普段は冷静なブリュンヒルデもゴンドゥルの魔力量推測に驚愕した。
「そんな魔力の中から生まれてくるものは……間違いなく化物だよ」
ゴンドゥルがブリュンヒルデとダンク達に振り返って囁いたその瞬間、
ガシャンッ!!バリンッ!バリバリバリバリ―――ッ!!!と連続で硝子の容器が吹き飛ぶ音が、地下の巨大な空洞に響き渡る。
「気をつけろ!―――こいつはそこらの魔物とは違うよ!!」
そう叫んだゴンドゥルの視線の先に、砕け散った容器の中から次々と身を乗り出して立ち上がる存在があった―――
―――魔力の溶液の中から生まれ出でた存在が立ち上がると、
その体格が全長三mはある巨体だった―――
―――全身には黒い甲殻類の殻のようなもので覆われ、
顔には巨大な丸い口の中に無数の牙が円を描く様に並ぶ異形の化物の姿が立ち並んでいた―――
「なんだ!あれは!?―――あの硝子の中で生まれたっていうのか!!」
ダンクは目の前で起こった現実離れした事象に声を上げずにはいられない。
「さあ!―――此処まで辿り着いた君達に御褒美の時間だ♪ 生まれたばかりのこいつ等の最初の餌になれることを光栄に思うがいいさ!!!」
土台の上で右腕をゴンドゥル達に差し向ける『発明家』の指揮に従い、次々と襲い掛かってくる外殻に覆われた化物達―――
「余裕がないねぇ♪ だったらこっちも遠慮なく!
―――《鉄弾》!!」
前方に黄金に輝く魔法陣を展開したゴンドゥルは、そこから迫りくる外殻魔物に対して拳大で形成された無数の鉄弾を弾く様に撃ち出した―――
―――襲い掛かる魔物の腹や顔面に次々と命中していく。
鉄弾の威力でその巨体が宙に舞い、押し返すように弾き飛ばしていったが―――
「ほう?……思ったより硬いみたいだねぇ……」
―――鋭く細めたゴンドゥルの視線の先には、命中した外殻にヒビが入りながらもゆっくりと立ち上がってくる魔物の群れがあった。
「団長さん!―――私とブリュンヒルデが後ろに立つ!そのまま外まで後退するんだ!!」
ゴンドゥルはダンクに向かって撤退するように伝える。
「しかし!こんな魔物を外に出すなんて―――」
「―――此処じゃ上位魔術も放てない!!外に出るしかこいつ等を倒せる魔術が使えないんだ!!!」
広大な空洞とはいえ、此処は地中の深い場所である。
そんな場所でゴンドゥルが大きな威力を放つ魔術を発動すれば、天井が崩落してもおかしくはないのだ。
「クッ!―――このまま後退する!」
ダンクもそのことを察してメテロ、ロドス、ギューネにフロップスへ向かって撤退の指示を出した。
後退するダンク達の殿を務めるゴンドゥルとブリュンヒルデだったが、容赦なく襲い掛かる魔物の群れに―――
「―――ハァアアアッ!!!」
―――ブリュンヒルデは手にした紅い刃のロングソードを高速で振り翳し、魔物の硬い外殻を斬り裂いていく。
「流石だねぇ♪ ブリュンヒルデ」
「当然だ―――何方の鱗で鍛えた剣だと思っている?」
そう返したブリュンヒルデの姿が次の瞬間にはその場から掻き消える―――
―――背後に飛び掛かってきていた魔物の更に背後へと超高速で回り込み、
「―――フンッ!」
横一閃の斬撃で化物の胴体を真二つに切断した―――
「ッ!―――あの女……」
―――自慢の発明から生み出した自慢の魔物をロングソード一本で両断したブリュンヒルデの雄姿に、それを見ていた『発明家』は鋭い視線で独自の観察眼を向ける。
―――魔物を斬り裂くブリュンヒルデの左右から、今度は同時に襲い掛かる魔物に対して、
「―――ハアアァ!!」
右から迫る魔物を袈裟斬りに斬り裂くと―――
―――そのまま流れるように左の魔物を逆袈裟斬りに斬り上げて斬り裂く。
一瞬で左右から襲い掛かる魔物を同時に斬り裂き、残像を生じさせてその後に続く魔物達の硬い外殻を斬り裂いていく―――
―――その間にギューネが光属性魔術の《光灯》を発動し、暗い坑道を照らしながら脱出を進める。
照らされた坑道の前後を警戒しながら外に向かうダンク達―――
「スゲェ……」
―――殿で撤退しつつ彼女達のことが気になったロドスが振り返った時、ブリュンヒルデの美しく流れるような斬撃と、目にも止まらぬ速度によって残像を生じさせる動きが目に飛び込み思わず唸る。
―――『身体強化』
―――『身体加速』
―――『思考加速』
肉体を強化して更にその身体を加速させる強化能力を駆使し、その加速した世界に追いつくために思考を極限まで加速させることで人体を超える動きに対応することが出来る―――
―――剣士であればその能力を駆使して戦闘を行うのが定石であり、ロドスも前衛の戦士としては当然それを発動させる。
しかしブリュンヒルデのそれはレベルが段違いの別次元だということが、同じ能力を使うからこそ理解出来ていた―――
「―――魔物に容赦はない!!」
―――残像が生じるほどの超高速で次々に魔物を斬り裂くブリュンヒルデ。
一瞬で硬い外殻をまるで紙のように斬り裂かれていくが、
「これは面倒だねぇ……」
ゴンドゥルも外に通じる坑道に向おうとした時―――
「分かったぞ!!貴様!―――紅神龍の使徒だな!!!」
―――魔物を次々と斬り裂くブリュンヒルデを指差して、『発明家』が叫ぶ。
「……ほう?何故そう思うんだい?」
ゴンドゥルが『発明家』を睨みながら問い掛ける。
しかしその言葉にはこれまでのゴンドゥルが放つことがなかった膨大な『威圧』が放たれており、その精神的重圧に『発明家』は思わず息が止まった。
「ハァアッ!―――そ、その尋常じゃない『威圧』!!貴様もその女と同じ使徒か!!!」
「―――我等のことを知っている貴様は何者だ?」
ゴンドゥルの『威圧』に続いて、ブリュンヒルデの『殺気』が『発明家』に襲い掛かる。
「グヴゥ?!―――こ、この猛烈な『殺気』!!神龍が生み出した本物の化物めぇ!!!」
「こんな美女二人を捕まえて、化物とは言ってくれるねぇ!!気が変わったよ……ダンク達はもう出口近くまで行ったようだから―――」
銀製のシャフトに真紅の四本爪が絡み合うヘッドには『火』『水』『土』『風』の元素魔法を補助するための魔法石が埋め込まれている杖を『発明家』へ向けて―――
「―――此処で葬ってあげる!!!」
―――その魔術杖の先端に巨大な虹色に輝く魔法陣を構築すると、その周囲に紅い稲妻が放電する。
そして『身体加速』により同時に四つの魔術詠唱が放たれる―――
火属性魔術・極位
―――《極焔》
風属性魔術・極位
―――《極空》
土属性魔術・極位
―――《極震》
水属性魔術・極位
―――《極凍》
四つの極位魔術がゴンドゥルの目の前で発動する―――
「なにぃ!?―――『四重高速同時魔術詠唱』だとぉ!!!」
―――魔術師が行使する同時詠唱は『三重高速同時魔術詠唱』が限界だと言われている。
その同時詠唱を超える魔術師はまさに天才の領域と言われていた―――
―――『発明家』は美男の顔を醜悪に歪ませながら叫ぶが、
それと同時に膨大な魔力で編み込まれた合成魔術が発動する―――
「―――《境界破壊》!!!」
―――発動した瞬間、
硬い外殻に覆われた魔物達は一瞬で《極焔》によって全身が炎に包まれ、
《極空》による暴風に身体が引き裂かれ―――
―――《極震》による振動波によって身体が崩れ、
《極凍》によって崩れていく身体が凍てついていく―――
―――この世のすべての破壊が一瞬で襲い掛かり、それらが渦巻く様に巻き起こって白い閃光を放つ。
そして次の瞬間―――
―――極大の衝撃音と震動と爆発が地下の大空洞で巻き起こった。
「ヌオオオオオ―――ッ!!!」
その爆発に『発明家』も魔物と共に巻き込まれていった―――
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