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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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忍び寄る魔手

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―――風呂は贅沢である。


世間一般的には家に風呂が備え付けられているのは王族の城や貴族、豪族の屋敷、それと裕福な商人の豪邸といったところに備えられている―――


だが、それなりの佇まいを持ち合わせる大きな家で、そこに魔術が得意な者がいれば話は別だった。


「―――《水属性基礎ウォーター・コントロール》!」


空になっていた大きな岩風呂に、突然空中で水の塊を発生させたカリオラ。


魔術によって水分を集結させ、岩風呂一杯に水を張ったその次に、


「―――《火属性基礎ファイヤー・コントロール》!!」


続いて火属性の魔術で炎の塊を水の中に落とし込んだ。


普段から風呂の用意をしてきたカリオラならではの、絶妙な火加減により一発で適温の岩風呂の準備が完了する。


「よし♪ 皆が帰ってきたら、これで疲れも癒せるでしょう」


カリオラはそう言ってリビングに向かって戻っていくと、


「あら♪ お帰りなさい♪ 丁度今、お風呂を用意してきたところなの。疲れたでしょう?だから御二人でどうぞ♪」


丁度帰ってきたダンクとゴンドゥル、ブリュンヒルデに気を利かせて家の浴室の準備をしてきたことを伝える。


「オオ~♪ お風呂もあるなんて、団長さんはホント甲斐性がある旦那だねぇ♪」


ゴンドゥルは本来なら一般家庭にない浴場まである家に家族を住まわせているダンクを褒めた。


「私も一緒にお風呂入りたい♪」


そんな時、イェンリンが共に入浴したいと宣言する。


「ウヒョ~♪ 御風呂回キタァ―――!!!」


その愛らしい少女からの申し出にゴンドゥルの興奮は一気に最高潮を迎えて妙な奇声まで上げる始末だった―――






―――家の廊下を進んでいくと突き当りに扉があり、その中へイェンリンが嬉しそうにゴンドゥルとブリュンヒルデを案内する。


「ほら♪ エリシラちゃんもおいで♪」


「ふぇ!?―――あの、ちょっと/////」


「別に女の子同士なんだから恥ずかしがらないの♪」


妹のエリシラの手を引いてゴンドゥルが連れ込むとそこに脱衣所があり、更にその先には―――


「オオォ~♪ これは良い浴場だねぇ♪」


―――周囲を木の壁に覆われて、岩で組み上げられた風呂は露天形式で天井はなく夜空の星が広がっている。


木の壁に吊り下げられた魔法石のランプが幾つも備えられていて、大きな岩風呂の水面で光を反射させていた―――


脱衣所で服を脱いだ四人が入浴しても余裕で寛げる岩風呂で、ゴンドゥルは背筋を伸ばす。


「ん~!ハァ~♪ 良い湯だねぇ♪」


気持ちよさそうな吐息を漏らすゴンドゥルは白い肌を撫でながら御機嫌な笑みを浮かべる。


「確かに……これほど見事な風呂を設けている家もそうはないだろうな」


ブリュンヒルデも金髪を湯に漂わせながら、岩風呂の中で後ろ手で身体を支えながら空を見上げた。


「……」


するとそんな二人を湯船に浸かりジッと見つめるイェンリンに気がついたゴンドゥルは、


「どうしたの?イェンリンちゃん♪」


疑問に思って本人に問い掛けた。


「……二人とも、オッパイ大きい」


「―――ふゅえ!?/////」


突然告げられたその言葉に、予想もしていなかったブリュンヒルデは思わず手が滑って湯船に沈みそうになった。


「うん?そうかぁ♪ イェンリンちゃんも女の子だもんねぇ♪ でもイェンリンちゃんもエリシラちゃんも年齢にしては育っている方よ?」


逆に湯船に浮かぶ二人の胸に視線を向けて、ニヤケながら答えるゴンドゥル。


「えっへん♪ 確かに同い年くらいの子達と比べたら大きい方ね!」


「あうぅ……/////」


ゴンドゥルの言葉に胸を張って答えるイェンリンと、思わず胸を隠して顔を赤くするエリシラといった対照的な二人を目にして、


「……可愛い/////」


ブリュンヒルデが思わずそう呟いたのをゴンドゥルは聞き逃さなかった。


「うん?―――今、可愛いって言った?ブリュンヒルデ♪」


その揶揄っている表情に気がついたブリュンヒルデは、


「う、煩い!!―――お前と一緒にするな!/////」


ゴンドゥルの性癖と同類扱いを振り切るように、岩風呂から出ていくのだった―――






―――風呂を終えた四人は、それからダンクとカリオラと一緒に夕食を囲む。


カリオラと一緒に料理を手伝ったイェンリンとエリシラの得意気な話を微笑ましく聞きながら食事を終えると、


「―――ゴンドゥルさん♪ 今夜は冒険のお話聞かせてくれる?」


イェンリンが笑顔でゴンドゥルに抱き着く。


「ええ♪ いいわよぉ~♪ それじゃあブリュンヒルデの魔物討伐の話もしてもらいましょうか♪」


「―――お、おい!ゴンドゥル、私は……」


「……聞きたいです」


断りそうな雰囲気のブリュンヒルデには、袖をちょっとだけ摘まんだエリシラが寄り添っていた。


「うぅ……わ、分かった……」


困り顔をしながらもブリュンヒルデも交えて、今夜はお姉さん二人の冒険譚に夢中になって夜更かしをするイェンリンとエリシラだった―――






―――その深夜



挿絵(By みてみん)



ハリタス海洋自治領の南方に広がるカウスラー王国から、北上してきた軍の一団があった。


ハリタス海洋自治領の領土に踏み入ったところで夜営のために陣を敷き、そこで見張りを立てながら休息するその一団の中で一際大きな天幕の中で話声がしていた。


「―――このまま北上すれば、あの『魔術師マジシャン』が仕掛けた地域に入るが……本当にあの男を信用していいものか?」


天幕の中に設置された軍議用のテーブルで席に着いた指揮官の男は、城に現れた妖しい魔術師に懐疑的だった。


すると同席している男が歪んだ笑みを浮かべながら指揮官に答える。


「なぁに言っているんです!マイベン様!―――王の決められた出兵ですよ?よもや此処まで来て、臆したなどと申されませんよね?」


「誰が臆することなどあるものか!!言葉に気をつけよ!―――ブラッセン=ガッドナッド!!!」


指揮官として兵を率いてきた男はカウスラー王国の貴族―――


―――マイベン=ビュラー侯爵だ。


カウスラー王国では北部で広大な領地を統治する侯爵位を持ち、この度のハリタス海洋自治領侵攻においても先鋒の栄誉を王から与えられた男だ。


そのマイベンと向き合う男は―――


―――ブラッセン=ガッドナッド団長だ。


王都を守護する戦士団の一つを預かるブラッセンは、今回の出兵に乗じてこの場に兵一千を率いて従軍していた。


「―――これは失言でした。どうか御許し願いたい……しかし、先ほどの『魔術師マジシャン』についてですけどね?今は王の憶えもいいあのゴルテスト=ペイウッドスベンに異を唱えれば、それだけで王からの心象も悪くなるってものです」


―――ブラッセンは元々育ちが良い訳ではなく、どちらかと言えば叩き上げで今の団長の地位を手に入れた男だ。


これまでもカウスラー国内で起こった豪族の叛乱や貴族のいざこざに王命を盾にして介入し、次々に手柄を上げてきた傑物でもある―――


―――しかし、


(この陛下の皮を被った小物が!お前が戦場で略奪や捕まえた者を奴隷売買していることは知っているのだぞ!!)


ブラッセンが戦場で行っている人道から外れた行為の数々を知っているマイベンは、この度の出兵にこの男を従軍させよと王から命令書が届いた時には眩暈がしたほどだ。


「……分かっている。あの男が何者であろうと、城には切れ者の大臣セダンブロト殿も詰めている。策を進言することは出来ても、政治は別の話だ」


「確かに♪ ですがこの先の村々に対しても、策を仕掛けているって話です……そこで提案なのですが」


「……なんだ?」


「そのような小さな村なんてマイベン様の本隊を動かすまでもありませんぜ……俺が連れてきた兵一千で全部平らげてやりますよ」


自らを犠牲にして先陣を飾ると言っているように聞こえるが、ブラッセンの歪んだ笑みを見てマイベンはすぐにその真意に辿り着く―――


(―――小さな村の制圧に本隊を温存することを提案しておいて、その村々で行う略奪行為や奴隷堕ちで売り払うことへは目を瞑れということか……下衆め!)


―――忌み嫌う視線を向けながらも、マイベンにとっても己の本隊の兵を余計な消耗戦に投じたくはない。


ましてや相手は侵略を進めようという他国にある地方の村々である―――


―――この男の欲望程度で本隊の兵二千が温存出来るのであれば、マイベンにとっては痛くも痒くもない話だった。


「……いいだろう。首都メイローズまでにある村については、貴殿の采配に一任することにしよう」


「―――感謝申し上げます♪」


(―――所詮は侯爵も身分と地位を護りたいだけの戦知らずだ♪ これで村三つ分の財と女子供は俺のものだ!)


マイベンの命令を受け、ブラッセンは頭を下げながらも舌を出して笑うのだった―――






―――翌日の朝を迎えて、


ダンクの家では昨日遅くまで冒険譚を聴いていたイェンリンとエリシラも、カリオラに無理矢理起こされて朝食の食卓を囲む。


「団長さん。今日は昨日話していた『地脈』を辿っていこうと思うんだけど?」


朝食の席でゴンドゥルからの提案にダンクは頷いて返す。


「ああ、『地脈』については俺達じゃ上手く感知することも、その流れを追うことも出来ない。今この辺りで皆を脅かす現象が起こっているのなら、俺は何とかしたい」


「ダンク……」


ダンクの決意表明のようなその言葉に、カリオラは感銘を受けていたが同時に危険を感じ取って不安も渦巻いていた。


「―――いいなぁ~私も調査行きたい」


そこでイェンリンがそう告げると、


「ダメよ!イェンリン!……貴女ついこの前に危ない目に遭ったことをもう忘れたの?」


先日の森で魔物に襲われた事件のことをカリオラは過敏に気にしていたことから、イェンリンの一言に目くじらを立ててしまう。


「うん……ごめんなさい」


普段の優しい母から放たれた厳しい声に、イェンリンはビクッと怖がってしまうが内心でカリオラが自分のことを心配して言ってくれていることは何となく分かっていた。


「まあ、解決したら木の実の森にもまた行けるようになるよ♪」


そこで空気を読んでゴンドゥルがイェンリンとエリシラに微笑みながら告げると、


「そうね……また森の結界魔術がちゃんと利くようになれば、森に行ってもいいわ」


カリオラも厳しい声を聞かせてしまったことに少し後悔して、解決後については森に遊びに行くことも了承する。


「ホントに!―――だったら、父さんとゴンドゥルさんにブリュンヒルデさんがお仕事終わらせられるように願っているね♪」


イェンリンもカリオラの言葉に再び笑みを浮かべたのだった―――






―――村の自警団の集合場所に向かったダンク、ゴンドゥル、そしてブリュンヒルデ。


その場にはメテロとロドス、そして若い自警団員が既に集合していた。


「よし!―――行こう!!」


ダンクは自警団員に号令を掛けると、ゴンドゥルの示す方向へと出発するのだった―――



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