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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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魔術師と魔物

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―――ガサガサッ!と森の奥の茂みから現れたものは、


「あれは!―――グレイ・コング!?」


全身を灰色の体毛に覆われた大型の猿のような魔物だった―――


「まさか!?―――この辺にグレイ・コングは棲息していないはずだ!!」


主に高温多湿な地域や森を好み棲息するグレイ・コングには、大陸北部ノルドの地は余りに気温が低い上に、食物とする果樹などが少ないハリタス海洋自治領には存在しない魔物なのだ。


「どこから迷い込んだのか……これは詳しく話を訊く必要がありそうだねぇ♪」


目の前に現れた巨大な魔物に、ゴンドゥルは不敵な笑みを浮かべて対峙する。


【GUAOOOO―――ッ!!!】


グレイ・コングは人族の集団を見て興奮を覚えたのか、突然雄叫びを上げたかと思うと胸を両拳で叩くドラミングを響かせる。


「どうやら他の仲間を呼び寄せているみたいだね……」


ゴンドゥルは手にした魔術杖を掲げ、周囲に向かって『索敵』スキルを展開する―――


「……これは……思った以上に数がいるよ」


―――ゴンドゥルの脳裏には周囲の地形を表す地図と、そこに反応を示している魔物の群れを感知した。


当初のゴンドゥルの予想では数匹もいれば多い程度かと予想していたが、その『索敵』スキルに反応した数は―――


「―――三十匹はいるよ」


―――最早群れと言えるほどの巨大な猿の魔物が、塊となってこの場に接近している状況だった。


「三十だって!?―――総員密集陣形!!!」


ダンクの号令に只事ではないと感じた自警団員達は周囲を警戒する密集体勢になって森の奥を監視する。


メテロとロドスもそれぞれ周囲を警戒しつつ、先に現れてドラミングを始めたグレイ・コングと対峙して平気な態度のゴンドゥルとブリュンヒルデに向けていた。


【GYURUUUUU~~~!!】


唸り声を上げる口元から大量の涎を垂らしたグレイ・コングの野生の眼が、目の前に立つ二人の美女に釘づけになっている。


「―――どっちがやる?」


徐にブリュンヒルデへ問い掛けるゴンドゥルに対して、


「魔術師が前衛に出てどうする?私がやろう」


瞳を鋭く細めてグレイ・コングを貫くように睨みつけるブリュンヒルデが前に出る―――


―――その瞬間、


グレイ・コングが前に飛び出して、野生を剥き出しにした拳をブリュンヒルデに向ける―――


「―――フン」


―――豪快な風切り音を鳴らして放たれる、彼女の顔よりも巨大な拳に一歩左へ移動しただけで目の前を通過させ、顔の横を突き抜けていった。


「……今の拳を……見切ったのか?」


その様子を見ていた戦士のロドスは、ブリュンヒルデの完璧な見切りに驚愕した。


しかしその時―――


―――地面から響く地鳴りを耳にした自警団の前に、


「―――うわああ?!グレイ・コングがあんな数出てきたぞ!!!」


森の木を薙ぎ倒す勢いで、地響きを上げながら現れたのはゴンドゥルが『索敵』で感知していたグレイ・コングの群れだった―――


「落ち着け!!!―――密集陣形を崩すな!!三人組で確実に一匹ずつ対処しろ!!!」


―――その混乱の中でダンクは団長として団員に指示を飛ばす。


その間にブリュンヒルデに襲い掛かっていたグレイ・コングは、次々に豪快な拳を無造作に振り回して回避する彼女を追う―――


―――拳が激突した森の木が、ミキミキッ!と音を立てて撃ち倒されていくと、


「今度は―――こっちから行くぞ!!」


バックステップで回避していたブリュンヒルデが全身に―――


―――『身体加速』


―――『身体強化』


―――『思考加速』


―――強化系の能力を発動すると、彼女の姿がその場から掻き消える。


踏み込んだ一歩から一瞬で間合いを詰めて目の前に現れたブリュンヒルデに、グレイ・コングは驚きの仕草を見せる―――


―――しかしそのグレイ・コングに突然背中を向けて歩み出したブリュンヒルデの背に飛び掛かろうとした時、


【BUFOO!?―――GUHAAA!!!】


グレイ・コングの両脚が膝から完全に切断されていて、身体を進めることは出来なかった―――


―――それどころか両腕に胴体、そして首まで切断されて大地に転がり落ちると斬り口から一斉に鮮血が吹き出し地面を赤黒く染めていった。


紅い刃の剣をブンッ!と一振りして、自警団に襲い掛かっているグレイ・コングを睨みつけるが―――


「―――《連動鉄弾マルチ・スティール・ブリット》!!」


―――ブリュンヒルデの耳に土属性魔術の詠唱が届いた。


ゴンドゥルの周囲で数多くの黄金に輝く魔法陣が展開され、その魔法陣から凄まじい勢いで撃ち放たれた鋼鉄の砲弾が自警団に襲い掛かっているグレイ・コングに次々と命中していく―――


―――その魔術で構成された鋼鉄で出来た弾が巨体のグレイ・コングに命中していくと、屈強な筋肉が砲弾のような弾で弾け飛び、命中した身体に巨大な穴を穿ち貫通する。


「オアアッ!?―――なんだ?!今のは!」


周りを取り囲んでいたグレイ・コングが一瞬で次々に身体を鋼鉄の弾で貫かれ、そこから鮮血を噴き出しながら地面に倒れ込んでいく様子を驚きの声を上げて見つめることしか出来ない自警団の団員達。


(今の魔術は《鉄弾スティール・ブリット》の並列発動……話には聞いたことがあるが……実行出来る術者を初めて見た……)


その中でダンクだけはゴンドゥルの真の力の片鱗に別の驚きを抱いていた―――






―――ゴンドゥルとブリュンヒルデによって殆どのグレイ・コングは討伐され、自警団は放心状態に陥っていた。


「何をやっている!―――まだ周囲の警戒を解くのは早いぞ!!」


「―――ッ!」


だがその中でも冷静に事態を観察して、自警団員に檄を飛ばすダンクを見てゴンドゥルはフッと笑みを零す。


(へぇ~♪ なかなかどうして♪ 状況をよく理解しているねぇ)


ダンクの采配を見つめながら微笑んでいると、そこへブリュンヒルデが寄り添うと、


「……おい、ゴンドゥル。この地にいないはずの魔物の群れが出てきたこと……どう思う?」


先ほど倒したグレイ・コングの死骸の山を見て耳元で問い掛けた。


「ブリュンヒルデが考えている通りだと思うけどねぇ♪」


そんなブリュンヒルデにゴンドゥルはニヤリと含んだ笑みを向けて答える。


その態度に少しイラッとした顔を向けるブリュンヒルデだったが、落ち着くように溜め息を吐くと、


「やはり……だとすると、元凶を見つけないことには事は解決しないぞ」


「だろうねぇ……でも、流れる水には下流があれば必ず上流もある。つまり何かを仕掛けているなら、その上流を探るのが妥当だろうね」


ゴンドゥルがブリュンヒルデと話しているところへダンクが近づいてくる。


「話しているところですまない。あのグレイ・コングの件で話したいことがあって」


「うん?―――何だい♪ 何だい♪」


笑顔で問うゴンドゥルに一瞬怯んだダンクだったが、


「ああ、あのグレイ・コングの素材について御二人がどうするのか伺いたかった」


倒した魔物から採取出来る素材についてどうする心算なのか確認に来たのだ。


「素材かい?そんなもの村で採ってもいいよ」


「―――いや?!それは!あの殆どは貴女達が倒した魔物だ」


村に引き渡すと言い出したゴンドゥルにダンクは驚き、遠慮の意志を示そうとすると、


「私は別に素材には困っていないし、ブリュンヒルデは欲しい?」


隣のブリュンヒルデにそう問い掛けると、


「私も魔物の素材には困っていない。欲しければ自分で討伐して手に入れる」


ブリュンヒルデも必要ないと言い切った。


「―――という訳だから、この魔物の素材は村に持ち帰りな♪ この辺りじゃ出回らないグレイ・コングの素材だから、村の財産として好きに使うといいよ」


「しかし、そんな訳には……」


「―――村が潤えばそれだけイェンリンちゃんやエリシラちゃん、それに他の村の子供達も幸せになれるだろう?私にとっての報酬はむしろそっちさ♪」


「……」


子供達の名前まで出されて固辞されては、それ以上ダンクも言葉が継げなかった。


「御二人には心から感謝する……有難く受け取らせてもらう」


ダンクが承諾した言葉を聴き、


「イヤッホ~ウ♪ こんなに魔物の素材が手に入るなんて、いつ振りだよ!」


「ホントにそれなぁ~♪」


若い自警団員の皆が見たこともない魔物の大量の素材に歓喜の声を上げる。


「コラッ!―――さっさと此処を片付けて村に戻るぞ!!」


「―――はい!!」


喜びと同時に油断している団員達に喝を入れて、ダンクは撤収の指示を出すのだった―――






―――村に戻って、


村長のところへ一連の報告を行ったダンクとゴンドゥル、そしてブリュンヒルデ。


そして村に大型魔物の素材が三十体分も寄贈してくれたことに村長のコビックも感謝の言葉を述べる。


「本当になんと御礼を申し上げればよいのか……」


「いいから♪ この村の発展のために使ってくれていいよ♪」


ゴンドゥルの軽快な返事にコビックは感謝しつつ、受け取った三十体のグレイ・コングの死骸については、


「―――メイスン達に相談しよう。職人団に解体してもらってから、売れる素材についてはメイローズまで売りにいくところまで任せることにするかの」


ダンクと素材の対応について話し合っていた―――


―――村長へこの地に起こっている『地脈』の変動についても報告を行っていく。


「なんと……そのようなことが……」


今までの人生で聞いたことのない異常事態を知って、コビックは顔色を青くしていく。


「村長さん……ハッキリ言うとこの件には作為的なところが見える」


「作為的ですって!?それはつまり……この村に対して害を及ぼそうとしている者がいると?」


「その辺りはまだ何とも言えないけどね。でも自然に発生した災害とも思えない。明日はその点について調査しようと思っているよ」


「貴女のように強く賢い魔術師様が対処して頂けるというなら、よろしくお願い致します!」


コビックは深々と頭を下げると、ゴンドゥルとブリュンヒルデに事態の収束を願うのだった―――






―――今夜もまたダンクの家に宿泊させてもらうゴンドゥル達。


家に戻ってくると真っ直ぐ突撃してくる影があった。


「―――おかえり!!ゴンドゥルさん♪」


ポフンッ!とゴンドゥルの胸に飛び込んできたのは、一日家で彼女達の帰りを待ちわびていたイェンリンだった。


「オホウ♪ ただいまぁ~♡ イェンリンちゃん♪ エリシラちゃん♪」


満面の笑みで猫撫で声を出しながらイェンリンを抱きしめるゴンドゥルに、それを傍で見ているブリュンヒルデはジト目を向けて引いていた。


「ブリュンヒルデさんも、おかえりなさい♪」


エリシラもやってきて笑顔で出迎える。


「ただいま。今夜もお世話になるけどよろしくね」


挨拶をしてエリシラの頭をそっと撫でるブリュンヒルデを、ゴンドゥルはニシシ♪ と厭らしい笑みを浮かべながら流し目で見ている。


「……なんだ?何か言いたいことがあるのなら言え」


その視線を不快に思ったブリュンヒルデが告げると、


「べっつにぃ~♪ ただ、アンタもそんな顔を見せるんだなぁ~♪ そう思っただけだよ」

「なっ!?―――お前は私を何だと思っているんだ!!/////」


「―――言っていいの?」


「表に出てからなら……幾らでもいいぞ?」


その眼は明らかに『殺気』を帯びていたが、ゴンドゥルは平気でそれを受け流して笑っている。


「あら♪ お帰りなさい♪ 丁度今、お風呂を用意してきたところなの。疲れたでしょう?だから御二人でどうぞ♪」


そこへカリオラが気を利かせて家の浴室の準備をしてきたことを伝えると、


「オオ~♪ お風呂もあるなんて、団長さんはホント甲斐性がある旦那だねぇ♪」


ゴンドゥルは本来なら一般家庭にない浴場まである家に家族を住まわせているダンクを褒めた。


「私も一緒にお風呂入りたい♪」


そんな時、イェンリンが共に入浴したいと宣言する。


「ウヒョ~♪ 御風呂回キタァ―――!!!」


その愛らしい少女からの申し出にゴンドゥルの興奮は一気に最高潮を迎えて妙な奇声まで上げる始末だった―――



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