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『黒神龍の御子外伝』紅神龍の御子になった少女の帝王学 ~剣聖イェンリン様のお気に召すまま~  作者: KAZ
第1章 運命の子

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魔術師の策謀

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―――翌朝になってダンクの家でイェンリン達と共に朝食を頂いたゴンドゥルとブリュンヒルデは、早速この村の結界魔術の調査に向かうため表に出ると、


「―――おはようございます」


「……おはよう」


そこへメテロとロドスが村の自警団の団員達を連れて訪れ、挨拶を交わした―――


「ええ~!!―――私は行っちゃダメなのぉ!!!」


そこに家の中から出てきたダンクを追いかけて叫び声を上げたイェンリンが顔を出した。


「―――遊びに行くんじゃないんだぞ。この間、魔物に襲われたことを忘れたのか?」


「うっ……それは……」


木の実の森でフォレスト・ウルフの群れに襲われたことが記憶に甦ってきたイェンリンは顔を顰める。


「今日は結界の状況をゴンドゥルに調査してもらうだけだ。それが終わればすぐに帰ってくる。だから、それまでは母さんとエリシラのことを頼んだぞ?」


「う~ん……分かったわ!でも、父さんも気をつけてね」


ダンクは父親としてイェンリンがお転婆であることと同時に、頼み事に対して責任感が強いことを知っている。


だから頼むと言えば、そのことに責任感が生じることを利用して諦めさせたのは、父親としての知恵だった。


「流石は父親だねぇ♪」


そのことを見抜いたゴンドゥルがダンクに冗談交じりの賛辞を贈る。


「あの子は責任感が強いからね。でも昨日の約束通り、今日はイェンリン達に冒険譚でも話して聞かせてやってくれ」


「ああ、そうだった♪ それじゃあ、今日もカリオラの美味しい料理を堪能させてもらうとしますか♪」


「ちゃっかりしているな……」


呆れながらもダンクはゴンドゥルとブリュンヒルデと初見の自警団員達に紹介する。


「メイローズから態々此処まで力を貸してくれるために来てくれた魔術師ゴンドゥル殿と、その友人のブリュンヒルデ殿だ。これから村の結界について調査をしてもらう」


団長のダンクがそう説明すると、村育ちの田舎者男子ばかりが寄り集まった自警団員の中では美女二人の姿に頬が火照る者が続出していた……


「どうも~♪ 私は『紅い魔術師』ゴンドゥルと、こっちはその親友のブリュンヒルデだよ♪ よろしくねぇ♪ ブリュンヒルデはこう見えて凄腕の剣士だから、間違っても冗談で掛かっていかないようにねぇ♪」


「……よろしく」


凄腕の剣士だと紹介されて、無表情で挨拶をするブリュンヒルデに怯む若者達。


「……剣士だって?」


「……その割には剣を持っていないぞ?」


「……綺麗だ……/////」


ボソボソと仲間内で疑問と意見を交わす団員達の中で、


(剣士だったのか……しかしゴンドゥルが凄腕というくらいだ。相当の使い手なのか……)


ブリュンヒルデが剣士だと初めて聴いたダンクは、今も隙のない彼女の纏う空気に緊張感が漂った。


「―――それじゃあ、今日中に回れるところを見て回ろうか♪」


そこでゴンドゥルの号令が掛かって、自警団の皆はそれに従って移動を始めるのだった―――






―――ゴルゴダ村の結界は全部で七つある。


昨日のうちに一箇所確認したことで、今日中に残りの六ケ所を回りたいと考えているダンクの案内でゴンドゥルとブリュンヒルデはついて行った。


そうして暫く歩いた村外の森にやってきた一団は、そこで停止すると、


「―――此処が今日一つ目の場所だ」


振り返ったダンクがゴンドゥルにそう説明すると―――


「それじゃあ、早速調べさせてもらいましょうかねぇ♪―――」


―――そう告げると同時に『収納』スキルから一本の杖を取り出し、その身体から膨大な魔力を立ち昇らせていく。


銀製のシャフトに真紅の四本爪が絡み合うヘッドには『火』『水』『土』『風』の元素魔法を補助するための魔法石が埋め込まれている杖―――


―――その杖が途方もない代物だということは一目見た者ならば誰でも分かるほど、神々しい力を放っていた。


(―――これほど見事な魔術杖が存在するのか!?フーリン様であっても、これほどの物はお持ちではなかったぞ……)


自分が最も尊敬する大魔術師『不死の魔術師』フーリン=ロッソ・シニストラの所有する魔術杖も、シニストラ帝国に名を馳せた魔術の大家であるロッソ家の家宝だった―――


―――しかし今、目の前でゴンドゥルの握る紅い魔術杖と比べれば、そのロッソ家の家宝も霞む品だということは理解出来た。


するとゴンドゥルは足元の地面に紅い魔法陣を展開すると―――


「―――《信号波シグナル》」


―――魔術を発動する。


次の瞬間―――


―――ゴンドゥルを中心にして、


ドォオオンッ!と強烈な音が鳴り響き、地面が一瞬揺れ動く―――


「―――なんだ!?」


ダンクとメテロという魔術に詳しい者でも、今ゴンドゥルが発動した魔術は知らないものだった。


すると発動した魔術が治まっていき、やがて魔力が消失していくと、


「ゴメン♪ ゴメン♪ 驚かせちゃったぁ?」


先ほどまでの研ぎ澄まされた空気とは違い、元の緩い感じに戻ったゴンドゥルがダンク達に声を掛ける。


「いや、それはいいんだが……今の魔術は?」


「昨日、此処には大賢者の魔術式に酷似した術が施されているって言ったけど、どうやらそれは間違いないらしい……今ので確信したよ」


「一体どういうことなんだ?」


訳が分からないダンクは続けて問い掛ける。


「この村の結界魔術は七カ所あるって言っていたね?分かりやすく言えば、それは七つの属性魔術―――即ち『地』『水』『火』『風』『光』『闇』『無』の結界魔術を設置することで、その結界魔術を更に魔法陣として構築する強力な結界魔術が中心の村に張られている……まるで大切な何かを、何かから護っているかのように」


「何かを……何かから護っている……」


ダンクは一瞬脳裏にイェンリンのことが思い浮かぶが、この結界魔術自体がこの地に張られたのは二百年以上昔の話だと村長から聞いていたので、別の何かだと考える。


「さっきの魔術は大賢者の打ち込んだ魔術の杭に魔力を当てて反応を見ていたのさ。やっぱり『地脈』のある地下深くにそれはあったけど……肝心の『地脈』を流れる魔力は感じられなかったよ」


「ではやはり『地脈』の流れを……」


「―――弄っているヤツがいるねぇ……コイツは思ったより厄介な話だよ」


そう言ってゆっくりと空を見上げたゴンドゥルだったが、すぐに正面に顔を戻して、


「さあ、次の結界に向かうよ!状況をまず把握することが大切だからね♪」


暗い顔をしていたダンク達を励ますような笑顔を向けて移動を始めるのだった―――






―――その頃、


ハリタス海洋自治領区から見て南方にあるカウスラー王国。


玉座の間でその玉座に腰掛ける王ボードカリバン=カウスラーの前に一人の黒いローブを纏う老人が跪いていた。


「其方が申し出たハリタスへの足掛かりとする策は上手くいっておるのか?―――魔術師よ」


玉座の前で平伏するその老人にボードカリバンは静かに問い掛けた。


「はい……すべては我が策の通りに……」


平伏したまま静かに答える老人の言葉にボードカリバンはニヤリとした笑みを浮かべるが、


「……」


玉座の間で軍の将軍と控えている大臣イカイオス=セダンブロトは、この不気味な老人の介入に懐疑的だった。


「間もなく我が分身たる者共が、ハリタスの各地に仕掛けた魔術が戦の狼煙を上げることになるでしょう……それは中心都市メイローズも然り……」


「―――その魔術が発動すれば、ハリタスは壊滅状態に陥るということだったな!」


「その通りでございます……我が秘術……《古代魔術エインシェント・スペル》によって操られた『地脈』の膨大な魔力……それらはすべて陛下の思いのままにございます」


「フハハッ!―――でかしたぞ!魔術師よ!お主のいう策が成就した暁には褒美を与えよう」


「勿体ない御言葉……感謝を申し上げます」


初老の白髪をしたその男は、茶色の瞳を鋭く細めてボードカリバンを見上げた。


「しかし……そろそろ名を教えてはどうか?『魔術師マジシャン』とだけ名乗ったお主のその力を見込んで、ここまで快く使ってやっておるのだ。ならば姓名くらいは名乗ってもよかろう?」


王に対して『魔術師マジシャン』とだけ名乗り、無礼を通してでも驚異の魔術を見せつけたことでボードカリバンに取り入ったその男は、そこで被っていたフードをゆっくりと脱ぎ去ると、


「そうですな……これほど信用を頂き、これ以上の礼を失する行いを通す訳には参りません」


そう告げると男の目が妖しい輝きを放つ―――


「我が名は―――ゴルテスト=ペイウッドスベン」


―――妖しい『魔術師マジシャン』ゴルテストは王に名乗りを上げた。


「ゴルテスト……よかろう!ゴルテストよ。事が成就した暁には、貴様を我が国の宮廷魔術師に任命すると約束しよう!」


ボードカリバンから放たれた突然の宮廷魔術師任命の言葉に、イカイオスは間髪入れず異を唱える。


「お待ちください!!―――陛下!このような素性の知れぬ者を城に迎え入れ、剰え宮廷魔術師などという地位を与えるなど!!」


突然現れた得体の知れない男を城の要職に迎え入れようという王の言動に、


(この男は突然その魔術で城に現れ、王に従属することを宣言したが妖し過ぎる!)


ゴルテストの出現した経緯を考えても怪し過ぎると睨み反論したのだ。


「―――儂はその実力に見合う褒美を取らせるのが信条。しかしゴルテストよ……儂は信賞必罰を是とする……事をしくじればお主の命をもって償ってもらうぞ?」


ボードカリバンの言葉にゴルテストは深々と平伏すると、


しかと承知致しましてございます……我が王」


ボードカリバンに返事をするが、その俯く顔の表情は歪んだ醜い笑みを浮かべていた―――






―――そして再びゴルゴダ村では、


ダンク達がゴンドゥルとブリュンヒルデを最後の決壊魔術のある場所へと案内していた。


「―――此処が最後の七つ目の場所だ」


そこはつい少し前にイェンリンとマルク、エリシラが魔物に襲われたあの『木の実の森』だった。


そこには今日も季節に関係なく様々な木の実が実っているが、魔物が出たことで自警団から森に入ることを禁止してから誰も足を踏み入れていなかった。


「フ~ン……此処がイェンリンちゃんの言っていた年中ずっと木の実が実っている森って場所かい?」


「そうだ……数日前にあの子達が此処でフォレスト・ウルフに襲われたばかりだ」


「―――話は聞いているよ♪ 間一髪のところでアンタが助けたんだろう?」


「ああ……だが、あの時に助けることが出来たのは本当に奇跡のような出来事だった」


ダンクは今この場所で思い出しても、娘達に飛び掛かるフォレスト・ウルフの姿が脳裏に甦り、明滅するように頭の中を駆け巡ると眩暈がしそうな思いだ。


「そう……まさに奇跡さ。でも奇跡は神が起こす事象だよ。つまりイェンリンちゃん達が救われたのは、神の思し召しだったのさ♪」


笑顔でそう告げるゴンドゥルにダンクは一瞬唖然としてしまったが、


「神の……思し召し……」


自分がフーリンから預かった大切な娘を、神の奇跡が救ったと考えるとそれはそれで胸の内で仄かな喜びを感じることが出来た。


「……ありがとう」


自然とゴンドゥルに礼を伝えるダンクに、


「礼は後でいいよ♪ まずは……此方を狙っている奴等を片付けないとだね……」


ゴンドゥルは鋭い視線を森の奥に向けて告げた―――


―――それと同時にブリュンヒルデが『収納』から真紅の刃を輝かせるロングソードを取り出した。


「―――来るよ!ダンク!!」


ゴンドゥルの声にダンクとメテロ、ロドスは身構える―――


―――他の自警団員も皆が武器を手に取り、身構えていた。


ガサガサッ!と森の奥の茂みから現れたものは、


「あれは!―――グレイ・コング!?」


全身を灰色の体毛に覆われた大型の猿のような魔物だった。



―――グレイ・コング


密林地帯など森に生息する魔物であり、見た目は灰色のゴリラといった姿だが腕力も強く、且つ魔術まで繰り出してくるだけの知能もある厄介な魔物である。



「まさか!?―――この辺にグレイ・コングは棲息していないはずだ!!」


主に高温多湿な地域や森を好み棲息するグレイ・コングには、大陸北部ノルドの地は余りに気温が低い上に、食物とする果樹などが少ないハリタス海洋自治領には存在しない魔物なのだ―――


「どこから迷い込んだのか……これは詳しく話を訊く必要がありそうだねぇ♪」


目の前に現れた巨大な魔物に、ゴンドゥルは不敵な笑みを浮かべて対峙するのだった―――




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