イェンリンの帰還
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―――ゴンドゥルの屋敷に泊まり、その翌朝
「ん……んんっ……うぐっ……ぐ、ぐるぢぃ……」
ベッドで柔らかいものに包まれつつ、心地よく眠りから覚めるはずだったイェンリンは、何やら温かいものに顔面を包まれて眠りから覚めた―――
「プハァ?!―――な、なに!?何が一体……あれ?」
目の前にあるのは寝間着を着てイェンリンを抱きしめながら寝顔を見せているゴンドゥルだった。
「う~ん♪……イェンリンちゃ~ん♡……むにゃむにゃ……」
幼い美少女を抱き枕にして満足げに笑みを浮かべ口元から涎を垂らして、だらしない顔をしたゴンドゥルに呆れながらイェンリンは埋まっていた大きな胸の谷間から脱出する。
「フアァ~!……よく寝た……う~ん!」
ベッドに座り込み背筋を伸ばしたイェンリンは、窓の外に広がる快晴の空を見て胸が躍る思いがしていた―――
―――屋敷で出された朝食を済ませて、
「改めて紹介しよう!―――私の親友であるブリュンヒルデだよ♪」
屋敷を出たところでゴンドゥルが白いブラウスを着た美女―――
―――ブリュンヒルデを紹介した。
(親友?……屋敷の使用人じゃなかったのか……)
ゴンドゥルの使用人かと思っていたメテロは、改めてブリュンヒルデを見つめていると、
「昨日は挨拶もせずにすまない……ブリュンヒルデという。よろしく頼む」
ブリュンヒルデはイェンリン達に挨拶を済ませる。
「さてと♪ これから出発するよ!イェンリンちゃんのゴルゴダ村まで、馬車で御一緒させてもらうわね♪」
「ゴンドゥルさん!ブリュンヒルデさん!よろしくお願いします♪」
元気よく二人にペコリと頭を下げて挨拶をするイェンリンに、メテロとロドスも微笑む。
「よろしくお願いします」
「……村まではしっかりと護衛をさせてもらう」
メテロとロドスもゴンドゥル達に挨拶を済ませると、皆で馬車に乗り込む。
その時、ブリュンヒルデがゴンドゥルの耳元で囁く。
「……おい、ゴンドゥル……何故《空中浮揚》で飛んで行かないんだ?」
「うん?そんなことしたら目撃した人に余計な噂を立てられて目立っちゃうでしょ!私達が何のためにこの国に来たのか忘れているんじゃない?」
「そ、それも、そうか……すまない……」
勝気なブリュンヒルデだが、素直に謝る時は謝るその性格がゴンドゥルは嫌いではなかった。
こうして全員で馬車に乗ると、行きは馭者台を牛耳っていたイェンリンがゴンドゥルとブリュンヒルデの傍に控えて荷台側に乗っていた。
そのため荷台が狭くならないように、馭者台にはメテロとロドスが座り交代で手綱を握ることになった。
こうして帰りの道中が始まる―――
―――イェンリンはゴンドゥルとブリュンヒルデに色々と訊きたいことや、逆に村のことを話して宿泊する村に着くまでの間ずっとお喋りをして過ごしていた。
普通の女の子らしい様子に、馭者台に座る二人も時々笑みを浮かべながら馬車は進んでいく―――
―――そうしてコノ村、アノ村と宿屋に宿泊しながら順調に帰路を進んでいくイェンリン達。
最初に宿泊したアノ村の宿屋を出て進むと、遂にゴルゴダ村へと通じる見慣れた道に戻ってきた―――
―――もう少しで村に帰れるという距離まで来たところで、
「メテロ―――此処から一番近い結界魔術が張ってある場所に向かってくれるかい?」
荷台の中から馭者台のメテロにゴンドゥルがそう願うと、
「一番近い結界ですか?」
メテロが村に到着前にそんなことを言い出した彼女に問い直す。
「まずは近場の結界魔術の状況を見てから村に行きたいんだ。その方が手間も省けるだろう?」
「なるほど、分かりました。此処からだともう少し先に進んだところにある林に掛けられているのが一番近い結界になりますので、そこへ向かいます」
メテロがすぐに近くの結界がある林を思いつき、馬車を其方に向かわせる。
「ねぇねぇ♪ ゴンドゥルさんの魔術が見られるの!」
嬉しそうに訊ねるイェンリンの頭を撫でながら、ゴンドゥルはホッコリ♪ とした笑みを浮かべて、
「う~ん♪ そうだねぇ~♪ まずは今の魔術の効果がどのくらいあるのか見てみないことには、下手な手は打てないんだよぉ♪」
イェンリンの頭を撫でながら答えた。
「そうなの?」
「ああ~♪ そうさ♪ イェンリンのお母さんだって別々の効き目がある魔法薬を患者さんに飲ませたりしないだろう?」
「あっ!確かに母さん、そんなことを言っていたわ!」
「それと一緒だよ。元々ある魔術に下手な魔術を重ね掛けすると、悪い作用を生み出したりすることもあるからね」
「フ~ン、そうなのね……分かったわ!」
ゴンドゥルの凄い魔術が見られると思っていたイェンリンは、最初は残念そうな顔をしていたが、母の教えと通じる話を聞かされて素直に納得した。
そうして暫く馬車に揺られていくと―――
「この林がそうです―――ゴンドゥル様」
―――目的地の魔術が施されているという林に到着した。
「御苦労様♪……さてと……それじゃあ、見立てを始めるとしましょうか」
そう言って荷台から飛び降りたゴンドゥルは辺りを見渡していく。
イェンリンもその後に続き荷台から飛び出すと、その後にブリュンヒルデが荷台から降りた。
メテロとロドスも馭者台から降りてきて、此処は安全な場所だと分かっていても周囲を警戒した。
ゴンドゥルは十歩ほど進んで馬車から離れると、
「……」
林に向けて鋭い視線を飛ばして見渡していく―――
―――音もなく風もない、
そんな林の前でゴンドゥルの全身から広がるような魔力が波紋を打って放たれていった―――
「……何をしているの?」
その様子を見ていたイェンリンが、隣に立っているブリュンヒルデに問い掛ける。
「うん?ああ、あれは魔力をこの周辺に流しているんだ」
「魔力を?……そうすると、どうなるの?」
「この辺りに結界魔術が張られていると言うなら、ゴンドゥルの魔力に何かしらの反応を示す。その反応から結界の中心がどの辺りにあるのか調べているのだ」
「そうなんだ~!ブリュンヒルデさんは凄いねぇ♪」
「私が?凄いのはゴンドゥルだろう?」
急に自分のことを凄いと言い出したイェンリンに、ブリュンヒルデは少し困惑する。
「ゴンドゥルさんはとっても凄い魔術師だって分かっているけど、ブリュンヒルデさんもそんな難しいことを知っていて、それに凄く綺麗だもん♪」
「そ、そうか……/////」
キラキラした瞳で素直にそう言われると、そんな無垢な言葉を言われ慣れていないブリュンヒルデは少し頬を赤らめていた。
「……」
その間にゴンドゥルは魔力を放つ距離を広げ、結界魔術の反応を見ていく―――
―――すると此処から離れた位置で強い反応を感じ取った。
(確かに結界魔術が張られているのは確かだけど……この魔術式は……)
その地に仕掛けられた魔術を解読したゴンドゥルは、魔力を収めると振り返る―――
「大体分かったわよ♪ それじゃあ、村の長に挨拶にでも行きましょうかね♪」
イェンリン達に笑顔で告げた。
「もう分かったの!?―――すご~い♪」
ゴンドゥルの言葉に従って、メテロとロドスは馬車を村の長の元へ向かわせるのだった―――
―――ゴルゴダ村
「―――イェンリン達が帰ってきたみたいだよ!!」
家にマルクが飛び込んできて、そこにいたカリオラとエリシラへ伝える。
「帰ってきた!?―――皆、無事なの?」
カリオラはまずそのことが気掛かりでマルクへ問い掛けた。
「うん!皆元気に戻ってきたよ!それと、メイローズから御客さんを二人連れて戻ってきたみたいだよ」
「御客を……メテロが言っていた高名な魔術師かしら?」
カリオラは顎に指を掛けて考え込む。
「二人とも物凄い美人なんだって!村長の家に向かって行くのを見たって言っていたよ」
「―――美人?一体誰を連れてきたの?」
マルクの情報に困惑するカリオラだが、
「ねえ!マルク―――お姉ちゃんも無事?」
エリシラが姉のイェンリンの身を案じて問い掛ける。
「ああ♪ 荷台から顔を覗かせた時に手を振っていたけど、怪我をしているようには見えなかったぜ♪」
「そっかぁ♪ よかったぁ」
ホッとするエリシラを見てカリオラも微笑む。
そしてマルクに改めて顔を向けると、
「ねえ、お願いがあるの。ダンクが今は自警団の詰め所に寄っているから、そのことを伝えてきてもらえないかしら?」
ダンクにもこのことを伝えて欲しいと願う。
「うん!いいよ♪ それじゃあ、今から行ってくる!」
軽快な返事をして家から飛び出していくマルクを見送ると、
「さあ♪ 今日はイェンリンが帰ってきたから、ご馳走にしましょうね♪」
「―――やったぁ♪」
エリシラと共にイェンリンの帰還を祝う準備に入るのだった―――
―――村長の家に到着したイェンリン達は、
「―――話はダンクとメイスンから聞いておったよ。御苦労じゃったなぁ」
一際大きな家から出迎えてくれた白髪に口髭を蓄えた村長に労いの言葉を受けていた。
「それで?―――其方の御二方が?」
メテロとロドスの後ろに控えている、この村には似つかわしくないほどの美女二人に視線を向ける村長に対して、
「やあやあ♪ 私は『紅い魔術師』ことゴンドゥル。そして此方は私の親友のブリュンヒルデという。この村の結界魔術について興味を魅かれてやってきた」
「おおっ!そうですか!まずは旅の疲れもありましょう。狭い家ですが、どうぞ中でお話を」
村長にそう促されると、ゴンドゥルを先頭にしてブリュンヒルデが続き、その後にメテロ、ロドス、イェンリンが続こうとしたその時―――
「―――イェンリン!!」
「―――父さん!」
―――マルクの報せを聞いて一目散に駆けつけたダンクが、愛娘の姿を見て名を呼んだ。
その姿を見てイェンリンも笑顔が零れる―――
駆け寄ったダンクはイェンリンを抱き上げると、
「お帰り!―――イェンリン」
無事に帰ってきた喜びを全身で表していた。
「ただいま♪ 父さん!」
イェンリンも短い期間とは言え、初めての旅で離れていた父の姿を見て安心した笑顔を向ける。
その親子の様子を眺めてゴンドゥルとブリュンヒルデも、自然と微笑んでいた。
「ほう、丁度良いところに来たな。ダンク、お前も一緒に話を聞いてくれないか?」
村長がダンクの姿を見てこれからの話に加わるように促した。
「勿論です―――イェンリン、お前は家に戻っていなさい」
「ええ~?!ヤダァ~!!」
「嫌って……お母さんとエリシラがお前の帰ってくるのを待っているよ?」
「うっ……」
カリオラとエリシラのことを持ち出されて、思わずイェンリンは黙り込む。
「此処からは大人同士の難しい話になるから、お前は先に家で待っている母さんとエリシラを安心させてあげてくれ」
「……分かった」
家族のことを最優先にすることは物心ついた時からダンクに教えられてきたことだった。
聞き分けたイェンリンの頭を撫でるダンクの傍にゴンドゥルがそっと近づく。
「話が終わったら、イェンリンちゃんのお家にお邪魔してもいいかい?エリシラちゃんにも会いたいし♪」
目線を合わせて屈み込むゴンドゥルの言葉に、思わず笑みを浮かべたイェンリン。
「分かった!―――母さんとエリシラに御客さんが来るって伝えておくね♪」
そう言うや否やイェンリンは手を振りながら家に向かって駆け出すのだった。
「さてと……それじゃあ、これからは大人の難しいお話をしようか」
振り返ったゴンドゥルはブリュンヒルデと共に村長の家へと進み入るのだった―――
―――そしてイェンリンは、
「ハア!ハア!―――」
自分の家に向かって駆けていくと、途中で幼馴染が声を掛けてくる。
「―――イェンリン!おかえり!!」
「マルク!―――ただいま!!」
途中で会ったマルクと共に家へと駆けるイェンリン。
「―――イェンリン!!」
すると家の前で待っていたカリオラがイェンリンの姿を見つけて名を呼んでいた。
「母さん!―――ただいまぁ!!」
両腕を広げて迎え入れる母親の胸に飛び込んでいくイェンリン。
そんなイェンリンを此処まで来たマルクと、家から出てきたエリシラが嬉しそうに微笑んで見ていた―――
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