31.メイドの動揺/王城への道
〜アリア視点〜
私が刺していたのは、ブルードさんだった。
「えっ?」
思わずそんな緊迫感の中でも間の抜けた声が出てしまった。
「どうして?」
突然現れたのだけど、見知った顔の人を傷つけてしまったことに少なからず動揺を隠せない自分がいた。
「ちょっと、余計ズブズブ刺さっていってるから、一回抜いてもらってもいいかの?」
そう言われて、慌てて私は刺さった短剣を彼の体から引き抜いた。
「血がドバドバ出ていってるんじゃが。むしろ儂らにとっては、刺されたことよりそっちの方が問題なんだけれど。」
落ち着いて言った、彼の傷口からは噴水のように血が溢れてきていたので
「神聖魔法『治癒術』」
急いで神聖魔法をかけると、だんだんと彼の傷口が塞がっていくのがわかった。
「ごめんなさい。協力相手にこのような振る舞いをして。」
素直に謝ると、
「いやいや、突然飛び出したのは、儂だからな。そんなことを気に病む必要はないぞ。ロランとの契約についても気にしなくてよい。」
そう言った後、ブルードは振り返って、
「ワンスよ。まずは名を名乗るべきではなかったか?」
守護者、もといワンスに向かって問いかけた。
「この女には強そうなオーラを感じた。名を名乗らず、守護者とでも言えば、多少なりとも恨みがある彼女が戦ってくれると思った。だからだ。」
ため息をついてから、
「いつまで経ってもお主は戦闘狂だのう。」
「はっ。そうですか。」
ブルードは私の方に向き直って、
「まあ、そんなわけだ。許してやってくれ。それに、儂がアリアの両親が死んだ時何の手助けもしなかったのは、数年後、ロランと引き合わせる方が長い間幸せにできると考えたからだったのだよ。その時は守護者なんてものはいなかった。だから、彼に憤るのはやめてくれ。まさか、あんな殺人鬼になるとは思ってもいなかったがね。」
ブルードは謝罪して、隠れ家に戻っていった。
この怒りはどこへやればいいのか。
よくわからないが、結果として、今幸せだからいいのだろう。
私はそう思いつつ、屋敷に向かって戻っていった。
「ふふっ。あの女、いい感情を持っているね。『太陽』にぴったりだ。」
誰かが見ていたとは知らずに。
〜海斗視点〜
「バレても大丈夫」と言ったロランのことを信じて、俺たちは道を進んでいく。
ときおりロランは壁を触りながら進んでいた。
その度にカチカチという音がしていたので、俺は気になり、次にその音がしたとき確認しようと思っていると、すぐにそのタイミングがやってきた。
ロランが触った場所をよく見えない暗闇の中で確認しようとした。
すると突然カチッという音が通路内に響きわたり、
「「「「えっ?」」」」
そんな間の抜けた声を出したのは俺と女性陣。
そして、
突然、足元の床が消滅した。
「「「「「うわーっ!!」」」」」
ロランは俺たちが落ちていっているにもかかわらず平然として、
「重力魔法 無」
魔法の起句を唱えてから、
「やっぱりね。わざと音を立てて罠の解除をしていたんだけど、四倍空間を引くとは運が悪いね。でも、もう止まってるだろうから、泳ぐ感じで上がっておいで。」
数分後に全員が上がり終わった。
「さあ、行こうか。もうすぐ王城だよ。」
そう言って、何事もなかったかのように済まそうとするロラン。
なぜ、どのくらい、罠があるかを伝えれば、ここを通るのが嫌になるだろうからそう言ったのだろうか。
もっとも、ほとんどが放心状態でそこを追及する人は誰もいなかったわけだが。
ロランに対し、気になっていたことを尋ねる。
「ミーシャというエルフが来なかったか?」
ロランは心の底から忘れていたという顔で、
「ああ、そういえば、きたよ。姿を隠してもらってるからわからないだろうけど、今もそばにいるよ。この通路だったら、人間以外の存在を感知したら強制的に罠が作動するからね。おっと、ついたね。ここの額縁を裏返したら、王城内だよ。」
金で縁取られた木の板が目前に現れていた。




