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転生ノ吹奏楽譚  作者: 幻創奏創造団


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4/5

第4曲 夕焼け小焼けの二重奏

(心の声)

昨日、フルートを吹いていたら、女の子が話しかけてきてくれた。

名前は……琴城(きんじょう) 久希(ひさき)さん。

あのあと、フルートに触らせたら、すごく目を煌めかせてたし、入部するのかもしれない。

ただし、まったくの初心者。

気持ちが揺らがないように、

「明日も是非、吹きに来て」

と言っておいた。


…………けれど。



「まったく来ないじゃぁぁん!!」

ユラムは、あまりの惨劇に嘆いていた。

「ユ、ユラム……!症状重い!!」

アスが、箒へすがりつくユラムを宥める。

「あぁぁ〜っ……!まずぅい。これ、昨日の子が、今日中に来なかったら、絶対に僕の責任になるやつ」

3年生に、何を言われるか、まったく分からないユラムは、頭を抱えていた。


 だが、一方のアスは、能天気に言う。

「でも大丈夫じゃない?たぶん、来たって、入らないと思うよ」

「えっ?どういうこと?」

「だって、あんなに上手い演奏を、初心者が見せつけられたら………」


(アスの想像)

1年生『先輩、まったく吹けません!』

ユラム『あれれ、おっかしいなぁ』

1年生『ダメです!先輩みたいに、綺麗な音が出せません』

ユラム「え……っ、ああ、頑張って……」

1年生『やっぱり、私、努力しても意味なさそうなんで、ちょっと……入部は……』

ユラム『えっ?努力すれば、僕くらい、うまくなれるよ』

1年生『………もう嫌〜!!』


………と、アスは申しました。

いや、雑だし、極端だし、適当な想像すぎる!

まぁ、僕みたいな曲が吹けず、焦らされる子はいるかもしれないけれど………。

少なくとも、琴城さんは、そんな人には見えなかった………と思う。



 一先ず、落ち着いたユラムは、1年生の到着を待つことにした。

だが、やってきたのは3年生。

「ユラム、昨日の子は来るの?」 

「まだ来てないです」

「はぁー……」


いや、はぁー……じゃねぇよぉ……。

そもそも、3年生は昨日、ずっと校舎周りで勧誘してたのに、どうして1人も捕まらないんだよ


《【推測】恐らく、校舎のどこかで、井戸端会議でもしていたのかと……》


ああ、わかってるよ。

ほんと……仕方のない先輩だよなぁ。

まるで、子供と一緒にいるみたいな感覚になるし……。



「あ、今日も客寄せパンダ的なやつ、頼むね」

「………え、あっ、はい」

ユラムはお人好し故に、断ることができない。3年生の先輩も、それは分かっていた。

(そうやって、毎日、サボるつもりだな)

分かっていても、極力、人を傷つけたくない、人と争いたくない彼は、本音を口に出すことが難しいのだ。



だが、その時だった……。

「………いや、今日は全員、直接勧誘してもろうで」

顧問の言葉が、ユラムを振り返らせる。

「みなさーん、今から、楽器を持って、外へ。人がいる所で演奏してください。もちろん、1年生に話しかけてくださいよ」

顧問は、彼らに"直接勧誘という名の無理ゲー"を課してきたのだ。



えーーーっと……、先生?

間違いなく、昨日の僕の実績で、味を占めているよね?

まぁ、勝手にしてください!……けれど、絶対に3年生はサボると思うよ。

………部長以外は。


 その時、部長の女子が、迷うことなく、トランペットを持ち出した。

「そんな訳なので、持って、行ってください。クラリネットなどの、外に弱い木管勢は、小物楽器を持って、外へ出てください」

「はーい」

「りょお〜……」


ああ、ルミナス部長、ありがとございますぅ!

めちゃくちゃ頼りになります!



 そう思いながら、ユラムが外へ行こうと歩みだすと、先生が話しかける。

「あ、鴻鳥くんは、三線を弾いてくれる?」

「えっ?吹奏楽関係ないですよね」

「管楽器だけだと、注目が集まらないじゃん。大体、管楽器だけの勧誘だけだったから、中学で吹部の経験がない訳だし」


なんというか、まぁ、下手な言い訳だね。

途中から、何を言ってるか、あんまり理解できなかったし。

………でも、いいか!

別に弾けないわけではないし、たまには、落ち着く楽器もやりたかったし………。

まぁ、吹奏楽に関係あるか?と聞かれたら、まったくないけれど……。


 この言葉の裏の理由は、1年生に注目されるのが、ユラムひとりになり、他の部員が暇になってしまうことを、防ぐためだった。

ユラムの楽器の実力は、顧問も認めていた。


 


 ユラムには、飽きた時用のタンバリンを付与された。更に、昨日の看板を、胸に引っ提げられ、外へ出る。


 夕日を眺めつつ、ユラムは凪のような心で、三味線を弾きはじめた。

(………小さい時に弾いたから、少しなら弾ける)

そんな彼の言葉を、嘘と言わせるような……美しく揃った三線の音が響く。空気を優しく震わせる。その音は、グラウンドの運動部の喧騒すら、優しく癒やす響きが内包されていた。


 弾き続けていると、まるで、その和の響音に誘われるように、1年生らしき少女が、歩み寄ってくる。昨日の少女とは、違う人物だった。

やはり、彼の鳴らす楽器の音色は、どの楽器であろうと、人を惹きつける魅力と、超高度の技術があった。


 ちなみに、ユラム本人からしたら、久し振りに弾くんだよなぁ、という程度なので、まったく本気の演奏ではない。



「………それ、三線ですよね?すごいなぁ」

そう言って、好機の眼差を向ける、可愛らしい少女がひとり。

「聴いてくれたの?ありがとう」

「先輩、吹奏楽部ですよね?」

「そうだよ」

彼が質問に答えると、少女は名を名乗る。

「あたしもね、吹奏楽部だったの。隣町にある中学から来てね。川伊(かわい) 美心羽(みこう)って言うんですけれど……」

「そうなんだ。僕はね、鴻鳥 ユラムって言うの。よろしくね」

ユラムが、木漏れ日のように優しく笑う。すると美心羽が太陽のような笑顔を見せた。

「………よろしくですっ!」


元気だなぁ。

入部してきてくれたら、より楽しい部になりそう。


そう思っていると、美心羽はタンバリンを指さした。

「タンバリン!私、1年の時は、怪我していて、パーカッションやってたんですよ。懐かしいなぁ」

「へぇ。やってみる?」

「え!?いいんですか!?」

「うん!なんなら、一緒に演奏しようよ」


その時、時間が5時を回る。

空へ響いたのは、お決まりの時報だ。

鳴った曲は、『夕焼け小焼け』だった。



「夕やけ小こけの赤とんぼ〜〜〜♪」

何の脈絡もなく、ユラムは歌い出した。

「………あっ」  

彼は、バチを三線の弦へ振るう。時報の音程と合っていた。彼は、弾きながら、美心羽へウインクをする。

「………!!」

ユラムの拍に合わせ、美心羽もタンバリンをたたいた。

哀愁漂う三線の音は、暁の大空へ染み込むように響く。一方、美心羽のタンバリンは、小さく空気を震わせる。



それは、三線とタンバリンの二重奏だった。



美しい三線に、ふたりは酔いしれる。

ユラムは当たり前のように、プロのような音色を引き鳴らしている。それでいて、表情は、赤子をなでる母親のようだった。



♪ ♪ ♪



この景色のように、いつまでも、穏やかで居たいなぁ。

そろそろ、大会の為に動き出さなきゃだけれど、春のうちは楽しんでおこう。

…………今のうちに、ね。








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