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転生ノ吹奏楽譚  作者: 幻創奏創造団


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3/6

第3曲 客寄せの為のフルートソロ

 優乃絵と出会った翌日。ついに、部活動見学・体験入部期間が始まった。


 この楽木高校は、部活動見学のほかに、"体験入部"という制度がある。それは、1日だけ、希望の部活で活動ができるというものだ。

初心者であっても、初心者でも出来る技術を教えたり、部の雰囲気を知ってもらったりと、入部に一歩近づく制度である。


 静寂(しじま) アスの案は、その"体験入部制度"を駆使して、新1年生を勧誘するというものだった。


だが、ユラムは違った。

「………吹部で体験入部する人は、よほど興味があるか、あるいは経験者か。だから、何も知らない初心者を狙う作戦も必要だな」

ユラムはひとり、1年生を勧誘する作戦を立案していた。


アスの案を否定はしない。

どうすれば、彼女の案がより有効になるか?それを彼は、脳内で考えを巡らせる。



 その時、入室してきた3年生が、ユラムへ無茶振りをふっかける。

「ユラム、あなたは、1年生がリクエストしてきた曲を吹いて」 

3年生の先輩は、淡々と言った。


まるで、

『簡単にできるでしょ?』

とでも言うかのように……。


「えっ?」

彼は、無茶振りのような言葉と、先輩の高慢さに、何度も瞬きを繰り返した。


いや、待て!

できるのか?

イヤフォンで原曲とメトロノーム流せば、まぁ、できるか!

楽勝だろ!

…………ほんの少しミスっても、いいのなら。


ユラムは圧倒的な演奏技術を有している。

故に、これくらいの願い事。言われたとて、笑顔で返事ができる程度だ。

もちろん、慢心などではない。


(ユラム、また絡まれてる)

アスは可哀想……なんて思わなかった。

どんな曲であろうと、ユラムなら吹き切ってしまう、そう信じているからだ。


「………えっと……ですね……?つまり、僕は1年生の客寄せパンダくんをやれ……と?」

ユラムは、お困り口調で問う。

「そうゆうこと」

「な、なるほど……」

「できっしょ?」

「まぁ……、できる限りは」

ユラムは、"いちおう"保険をかけた。


できないから……ではない。

あとで、嫌になった時に抜け出す為だ。




 こうして、部活動見学が始まった。もちろん、競合相手は他の部だ。ほかの部活の部員に、1年生を取られないよう、必死そうだ。


「………よし、これつけろ!」

「先生、この看板って……」

段ボール製の紐で下げた看板。


〈どんな曲でも なんでも吹きます!〉


馬鹿みたいに大きな文字。

ユラムは読み上げたあと、頬を真っ赤に染めた。


超恥ずかしい!!

なにこれ!?

それに、なんでも吹くって……トランペット以外にも吹かせる気!?

まぁ、フルートとかなら、やってもいいか……。


ユラムは恥ずかしかったが、音楽室前の廊下へ立ち止まり、適当に曲を吹くことにした。





 一応、チューニング済みの、フルート、アルトサックスをベンチに置き、彼の手にはトランペットがあった。

(音だけは抑えないと……怒られちゃう)

ユラムは、音量だけを肝に銘じて、マウスピースを唇へあてがう。


誰か、聴いてきてくれますように……!

マジで頼む!

このまま、ずっと窓際族ならぬ、廊下族は嫌だよ。


そう祈りながら、彼はピストンを、細い指で押す。

刹那、うるさすぎず、迫力のある都合の良い音が、廊下を突き抜けた。ベルから飛び出す音色に、空気がビリビリと震える。


曲はまだ、鳴らさない。

3分ごとに、吹く楽器をサイクルしていく。

まぁ、次はフルートでいいかな。

取り敢えず、誰かに聴いてもらわないと。


 思考と並列して、楽器を吹き鳴らすことが、容易にできる。

そんな技術、難しいとは思わないのに、なぜだか、心の奥底では自分を称賛したくなった。

 


♪ ♪ ♪



 1曲目を吹き終えると、彼はすかさず、銀色の筒へ手を伸ばす。

「………次は」

彼が手にしたのはフルートだ。木管楽器の一種で、澄んだような美しい音を出すことが、最大の特徴だ。


「………なにを吹こうかな?」

彼は口に出して思案する。


その時、耳のイヤフォンが反応する。

《【助言(アドバイス)】クラシックも良いですが、聴いた方が、話しかける取っ掛かりを作るなら、流行りのポップスがお勧めです》

ちなみに、特殊素材で透明なイヤフォンだ。


「………なるほど。じゃあ、最近の流行曲、おすすめのやつ、流してくれないかな?」

《【承諾(イエッサー)】………では、先週の週間ランキング1位の曲を流しましょう》

「ドンカマとメトロノームもお願いします」

《【了解(ガッチャ)!・メトロノーム接続(コネクト)完了】いつでも大丈夫です。吹いてください》


いやぁ……… とても頼もしい!!

これがあれば、大抵の曲はなんとか、吹けるだろう。

まぁ、最悪……、無くても吹けなくは、ないけれど……。

円滑に吹きたいなら、このイヤフォンは欠かせないね。



 ユラムはフルートを吹き鳴らした。甘美な音色は、空気を催眠術のように、静かに支配していく。伸びやかで心地のよい音色。

プロの賛美歌手が歌う以上の、軽やかで、美しい音を、ユラムは響かせていた。

 彼の細い指が、キイを止め処なく動かす。流行りの曲は、I音I音の処理が大変だ。だが、ユラムはプロ奏者以上の手つきで、丁寧に音を鳴らしてみせる。

 その時、通り過ぎようとした1年生が、足をとめる。すると、まるでフルートの歌声に引き寄せられるように、ユラムの元へと走り出す。


通り過ぎようとした子よ、興味を持ったみたいだな。

まぁ、綺麗な音だもんね。フルート。

僕も大好きだよ。


ユラムは心内で喋りながらも、機微な音程も、易易とくぐり抜けていく。

美しい音は、彼の上がった機嫌と同調するように、甲高く天井すらも貫いた。



 彼がフルートの歌口から、唇を離す。すると、拍手が飛んできた。

「すっごいですっ!おねえさん、プロの方ですか!?」

「あ、いや、僕、男の子なんだよね」

ユラムはそう言いながら、女性のような目元を細めた。

「………すごい……!!疲れないんですか?」

「うーーーん。まだ吹けるよ」

「ヤバっ!?」

ちなみに、誇張ではない。ユラムにとっては、まだ準備体操レベルだ。これを堂々と言えた自分でも、あまりの高慢さに驚くばかりである。


「………じゃあ、リクエストいいですか?」

「あ、いいよ」

女子は、彼の胸元に下げられた看板を見たのか、目をキラキラと輝かせて問うてきた。

彼はそれに頷くと、再び吹き口へ息を吹き込んだ。


 その後、ユラムはフルートのソロを、1年生の彼女へと見せつけた。

フルートの魅力が伝わるよう、彼は吹くときの体勢、音色を意識した。



♪ ♪ ♪


「すごかったです!私、琴城(きんじょう) 久希(ひさき)って言うんですけれど……、フルートに興味を持ちました!!」

「え!?ほんと!?」


マジか!

こんなに上手くいくんだなぁ……。



 なんと………ユラムは初日であるにも関わらず、フルートソロだけで、体験入部の予約を取り付けることに成功した。







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