5 セラフィンの生きる世界
兄のことは好きだ。
優しいし、一緒に居て楽しい。
昔は、魔法のことも才能も、どうでもよかったし、比べなかった。
――でも、大人がそれを許さなかった。
いつだって、大人たちが比べてくる。
兄は凄くて、自分は駄目。自分は頭も悪くて、魔法の才能もない。
そんなことあるわけない。
自分と兄の才能は同じくらいだ。
なのに、三属性の兄にばかりいい教育を施し、自分には何もない。そのことを忘れて、「セラフィン様は才能がない」?
身勝手にもほどがある。
父は嫌いだった。名前だけが取り柄の豚。
母は嫌いだった。生まなければよかったと物を投げつけ罵倒してくる日もあれば、自分が悪かった、許してほしい、と縋りついて泣く日もある。
教師たちが嫌い。何も見てない。教えられるだけの技量もない癖に、子どもの柔軟な考えを潰し自分の意見を押し付ける。
「――」
何を言われたか覚えてない。
ただただショックで……誰に言われたっけ? 父か、魔法教師か……。
馬車に乗せられてどこかに連れていかれた。
そこにいたのはいつもと変わらない、商品を見る眼で見てくる大人たち。
でも、いつもとは違う。異常な執着が混じった、イヤな視線だ。
一歩後ずさったが、逃げられなかった。
・・・
その日の夜は、胸の奥がざわついて眠れなかった。
大人たちは、こちらを値踏みするような目で見て、妙に満足げな笑みを浮かべていた。
ただただ、不快だった。けれど、疲れ切った体は思うように動かなかった。
これを“普通”だと思い込まないように、それだけは必死に守った。
大人たちの汚れた金の匂いには、もう慣れてしまっていた。
その日の務めを終えて部屋を出ると、隣の部屋からシア殿が出てきた。
シア殿は、いつものように作り物とは思えないほど綺麗な笑顔で手を振ってきた。
夏までは抗った。秋には悟った。
そんなある日のことだった。
「ちょっと手合わせしてみないか? 火魔法しか使わないから」
・・・
負けてもいいかな、と思った。
ここで体力を無駄に消費したら、夜に”寝落ち”して父に殴られる。
(嵐光)
心の中でそう唱えると、光と風が吹く。
兄は火を一瞬出して風の向きを変えた。
(セレスティアル・ブリーズ)
万能技だ。その辺に落ちてた枝などを風で吹き上げて飛ばす。
枝では特に意味はない。燃やされて終わった。
「っ」
一歩も動かない兄に少しだけ本気を出した。
指先に力を込めて、力を60%ほど解放。
(空の鎮魂歌!)
世界そのものを操るような大技だ。
「っあ、深紅の災厄!」
驚いた顔をして、技名を叫んだ。
兄の弱点、それは魔法を出すときに魔法の名前を言うこと。
クリムゾンカタストロフ――名前の通り、深紅の災厄を呼ぶ炎。
一瞬で、地獄のような景色に変わった。
なんだ、やっぱり構わないな。風じゃ何ともならない。むしろ火を強くするだけ。
あのクソ教師。何も役に立ってない。心の中であの猫なで声と肥満体型を思い出す。
手合わせの結果は、負けにした。




