3 熾天の嵐
「あ、セラフィン」
次の日の昼前、セラフィンは帰ってきていた。
セラフィンはにこりと笑う。
「どっか行ったんだろ? どこに……」
「兄さま」
アルヴァンの言葉を遮った。セラフィンは俯き気味の笑顔で、言葉を続ける。
「ええ、すごく楽しかったです。でも疲れたので……今日は休みます。ごめんなさい」
笑っていない瞳が虚ろに揺れる。
虚ろ目。一、二年前に知った言葉を思い出した。
・・・
「影の伝言」
アドリアンに向かってそうつぶやいた。
するとアドリアンは少し表情を歪ませて頭を押さえる。
「ダメですね、少しノイズのようで……頭が痛い。幻影囁きと混じってませんか?」
「はい、ごめんなさい」
精神に干渉する魔法。かつて魔族がよく使っていた魔法だ。アドリアンの精神に本格的な害が出る前に魔法を解く。
魔法を解くとアドリアンは肩をすくめ、少し休みましょう、と近くの植木に歩み寄った。
「あ、ちょうちょさんだ~」
「”ちょうちょさん”?」
いや偏見があるわけじゃない。大の大人が蝶を『ちょうちょさん』呼びしてるからって偏見を持つわけじゃないが……。
意外な一面……?
そんな楽しそうな日常が繰り広げられる庭。
その庭がある家の二階。二階の中の一室。そこから、セラフィンはアルヴァンとアドリアンを眺めていた。
「……はぁ」
・・・
次の日、家にセラフィンの教師がやってきた。
小太りのジジイだ。これでも魔法は出来る……らしい。セラフィンはこいつの魔法を、数回しか見たことがなかった。
「こんにちわ。いやぁセラフィン様、今日も一段とお美しい」
揉み手で気持ち悪い笑みを浮かべながら詰め寄ってくる。
セラフィンは軽く笑みを作った。
「じゃあまず……あー、軽く、エンジェリック・ウィンドから行きましょうか」
小さくうなずき、心の中で「エンジェリック・ウィンド」と呟いた。
すると、強い風が吹き、小さな竜巻のように上に上がって行った。
「さすがでございますセラフィン様。では、次はあ、攻撃魔法をやって見せてください」
セラフィンは冷めた目で教師を数秒見つめてから、魔法を練習するために綺麗に整地された庭に向き直った。
――気持ち悪い。
大人は、嫌いだ。
ひゅ、と音を立てて息を吸い込み、大きく振りかぶった。
ストーム・レイ。嵐光、という攻撃魔法だ。
強い光をはらんだ風が地面を削った。
大人たちは、セラフィンの魔法を見ると言葉を失うが、アルヴァンのことを知った後だと、セラフィンを『できて当然』のように扱う。
人体の不思議だ。
(熾天の嵐)
セラフィンが自分で作り上げた必殺必中の攻撃魔法を、手の上で小さく作った。
小さな、竜巻のような、嵐のような、不思議な風邪の球がセラフィンの髪を揺らす。
セラフィンは、薄く笑みを作った。




