2 不穏な日常
アルヴァンが12か13歳のころ。セラフィンがよく家からいなくなった。
父に聞いても、祖父に聞いても、使用人に聞いても、分からないと言う。
ならそういうものなんだろう、と納得していた。
「フレイムバースト!!」
手を向けた方向に炎が宿り、大きく爆ぜる。
「ブレイズショット!」
速射型の火弾が自分の後ろから次々に出てくる。
おおーと手を叩く教師は、アルヴァンに特に何も教えていない。
「ゼロディグリー・フレイム!」
氷と炎が同時に出てくる、アルヴァンにしかできない特別な技だ。横で教師がドヤ顔してるが、考案者はアルヴァンだ。
教師――アドリアン・フォーゲルシュタイン。アドリアンは拍手をしながらアルヴァンに歩み寄る。
「いやあさすがですアルヴァン様。もうわたしが教えることは何もない!」
「百回くらい聞きましたよそれ」
「いいじゃないですか、大事な弟子なんですから」
鮮やかな黒髪をなびかせる。
アドリアンも闇魔法が使える。
「でもあれですね! わたしが使えない魔法を見せびらかされても腹が立つだけと言うか!」
「それも百回くらい聞きました」
相変わらず図々しい教師にツッコミを入れる。
その時、五十代くらいの男性が笑いながら入って来た。祖父――アスカ・フォン・ローゼンベルクだ。
「あはははは、アド坊、そういうところは相変わらずだな。アルちゃんが困っているよ」
「……困ってる? アルくんが? アルくん、困ってないですよね? 減給は勘弁ですよ」
「焼き殺しますよ? それか冷凍食品に」
おー怖い怖い、白い歯を見せてケケケと笑った。
今年25の24歳だが、こういうところはアルヴァンより子供っぽく見える図々しさ。まさに才能だ。
「反面教師」
「おー闇魔法で脳内読んだろか? ……あ、違う。読んで差し上げましょうか?」
「お断りしますドヤ顔師匠」
・・・
「あ、そうだ。おじい様、セラフィン知りませんか?」
「フィン? さあ、知らないなあ。馬車に乗ってどこかに行ったが……明日の昼には帰ると言っていたぞ?」
「……そうですか」
「はいはい坊ちゃん! 次は闇魔法のお時間ですよ! わたしはこれしかできないんだから、ちゃんと言うこと聞いてください!」
アドリアンがパンパンと手を叩き、わざと声をワントーン上げて話していた。
「よーし! じゃあ師匠はどんなすごい技を見せてくれるのかなー! 『師匠』の名にふさわしい立派な技を見せてくれるはずー!」
だからこっちも笑顔で反撃。アスカがケラケラと笑っていた。
笑顔のまま石造のように固まった教師が、ふいに何かをつぶやいた。
「存在の薄化」
その瞬間、アドリアンが薄くなって消えた。
闇魔法の一つだ。
「んなっ! 逃げやがったな!?」
気配を探って走り出す。
闇魔法使ってどっかに逃げたな!?




