11 倫理観の溶融
だいじゅういちわ、りんりかんのようゆう(幼児退行)
「寒そうだね。どうしてこんなところにいるの……なんて、聞く必要はないね。意外なところで子供を拾うことになったけど……まあ、若者の命は守るべきって言ってたし」
男は少し目を伏せ、にこりと笑った。
「よいしょ」
笑顔のままアルヴァンを持ち上げた。
アルヴァンは目を見開く。
この体のどこにそんな力を隠し持って……って、何かおかしいな。
「気づいた? 知ってる? これ、妖術って言うんだよ? 人間界の……なんだろう? こっちの世界で言う、魔術みたいなものだよ」
ニコニコと笑ったまま言う。
よし、と男は言葉をつづけた。
「この……それ、持ってく?」
男は足で、セラフィンを少し突いた。
物扱いをされてアルヴァンは少し苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「もちろん連れていく」
「あっそ。連れていく、ね。やだなぁ重い」
どうやって二人を同時に持つかな……と呟き、男は首を傾げた。
・・・
「ん……」
目を開いた。豪華な天井。
「っ!」
ここは? 少なくとも自室じゃない。
フォン・ローゼンベルク家に戻ってきてしまったのか? どこだ? どの部屋の天井――
「あ」
少年の声が聞こえた。
シア殿かと思ったが、視界に入って来たのは、シアとは違う少年だった。
「やぁっと、起きた?」
少年の頭には角が生えている。魔族だ。
「ボクはソイルだよ。よろしくね!」
彼……ソイルはそう笑う。
白に緑メッシュのみつあみにされた髪。青と紫の目。角。
「名前も知らないけど、ずっと意識がなかったんだよ、よかったー!」
少年の見た目をしているが、魔族だと言うのなら、おそらくもっと……。
というか、意識がないんじゃなくて寝てただけでは? 抱き着いてくるソイルを見ながら、少し眉をひそめた。
「あ、起きたの?」
扉から、ひょっこりと男が顔をのぞかせた。
ひらひらと手を振る。しかしその手には、何かの血が付いていた。
「……そ、それは……?」
恐る恐る聞く。
すると男は、「ああ、ごめんごめん」とケラケラ笑った。
「ドワーフの血で、キミが連れていたあれ……じゃなくて、あの子の腐敗を遅らせる妖術をかけてきたんだ」
その言葉を聞いて、思わず少し目を見開いた。
ああそうか、本当に死んでしまったのか、と。
「大丈夫ぅ?」
「いやあ大変だったよ。本当はホルマリン漬けにしたいところだけど、そんなものないし……」
「ほるまりんづけ? 何それ」
「あ、そっか。こっちの世界にはそもそもないんだっけ」
男は思い出したように言った。
ほるまりんづけ、とやらは知らないが、なんだかすごい人達らしい。
「……あの、セラフィンに会わせてくれませんか?」




