10 光と炎の二属性
「エルカ様! こちらです! ここで火事が!!」
数人の騎士が、一人の少年を引き連れてやってくる。
騎士の真ん中にいる、ひび割れた体を赤い糸で縫っている少年――エルカは、いつもと変わらない無表情で、火事が起きているパーティー会場を見つめた。
エルカ。数十年前、勇者パーティーで活躍した魔法使いが創ったモノだ。
彼は何も考えていないような顔で、古書を開いた。
「―――――――――――――」
知っていなければ聞き取れないような言葉をつぶやくと、天と地に同じ模様の大きな魔法陣が現れる。
「おお……」
「これがかの有名な魔法使い、エスカ様の力を引き継ぐエルカ様か!」
魔法陣から雨が降り注いだ。
しかしこの寒さの中、雨は雹のように凍って振ってきた。
・・・
「………………雨……いや、雹……?」
アルヴァンはセラフィンを自分の下に隠した。
雪はもう少し降ると思ったんだけどな……?
いや、にしては少し不自然だ。魔力が籠ってる。
「………魔法陣だ」
チッ、魔術か。エルカ様だな。
時期に雹は止む。雪に戻る。
火は消された。人が入ってくる。
「っクソ!!」
まだ死んでない、セラフィンをこんな目に遭わせた奴が、まだ生きてる!
まだ捕まれない。捕まってたまるものか!
目を伏せて、魔法に集中した。
エルカ様なら、この魔法陣をアルヴァンの力で抑え込むのは無理だ。
影移動で逃げようかとも思ったが、地面にも何か細工があるようで、できなかった。
向こうから、こちらを探す者の声が小さく聞こえてくる。
こうなったら、自力で逃げるしかない。
セラフィンを持ち直して、向きを変えて走り出した。
雹が頭に当たって、少し血が垂れてきた。
・・・
「はぁ、はぁ……」
会場を離れると雹ではなく雪に変わった。
城下街の中を一人歩く。
靴は走りずらかったから捨てた。
靴下が、積もった雪に足跡を付けていく。
冷たい。
白い息と雪が視界を染める。歯がガチガチと音を立てた。
セラフィンを連れて逃げて、分かった。こんなにも軽かったのか、と。
家と家のすき間。
道とも言えない狭さの道に入る。
雪があまり入ってきていないから、寒くないと思った。
「は……」
――どさ
雪が積もっていない地面は、固かった。
アルヴァンとセラフィンを挟む二軒の家の窓から、人影が見えた。
『はい、クリスマスプレゼント』
『うわー! やった! 開けてい?』
『あ! これ欲しかったやつ!』
『もう開けてるじゃない……ふふっ』
四人家族の声だ。
プレゼントを渡した父と、喜ぶ娘と息子と、笑う母。
アルヴァンの目の前の家からはそんな騒がしくて楽しい会話が聞こえ、後ろの家からは、若いカップルの談笑が聞こえる。
いいなぁ、うらやましい。
平民に生まれた方が、生きやすかったのかもしれない。
いや、結局魔法のせいで、生きづらいのかもしれない。
――魔法がない世界の方が、生きやすいかもしれない。
そんなことはかなわないと分かっていながら、都合のいい”もしも”が何度も頭に浮かんだ。
全身の感覚がなくなってくる。もう終わりだと悟った。
最後に思うことはただ――
セラフィンからの、許しを請う。
静かに、目を閉じた。
「あれっ、子どもが死んでる!」
意識が遠のく中、声が聞こえてきた。
少し目を開く。
「あっ、まつ毛今ピクッてなった!」
…………………………………だれ。
「おーい」
男はアルヴァンの前にしゃがみ込み、アルヴァンの前髪に触れた。
二十代前半くらいの……若い男だ。光属性なのか。綺麗な白髪だ。それにしては目が……赤い。光と火の二属性?
そんな人………しらない。
「少年、生きてるかい?」




