第六話 「職務の実態」
木の温もりを感じる簡素な造りで出来た宿の一室、メルトの部屋で二人卓を囲む。
本来なら話し合いをと羊皮紙と羽根ペンを取り出すところだが、机にあるのは海と山の幸をこれでもかと盛り込まれた料理だった。
「⋯⋯いつまで食べるつもりだ?」
ミリアは先ほどから食べても食べても運ばれてくる料理に我慢の限界なのか、フォークを握り潰さんばかりに手を震わせていた。原因は一つ。
「んん?出された物だから仕方ないだろう」
「貴様が頼んだからだ!」
ミリアは限界を迎えて立ち上がって叫ぶ。メルトに「行儀悪いぞ」と言われても意に介さず、盛大にため息を漏らしてドスッと椅子に腰を下ろす。
「一体いつ話をするっていうんだ」
ミリアの声を無視するかのようにメルトはもぐもぐと食べ続ける。いったい何なんだこいつは!
あれから宿に着くと、まずは風呂だと言うのは分かる。昨日から食べていないからお腹空いたのも分かる。じゃあ何故たくさん頼む?
今ある分だけでも宴会となんら変わらない。遊びに来ているわけじゃないんだぞ。
「わざわざオールドマインから抜け出して来たというのにだらだらと⋯⋯いったい何のつもりなんだ!」
「まぁまぁ。まずは腹いっぱい食べて戦いに備えようじゃないか」
「これは美味いなぁ!」と何度も叫ぶメルトに、ミリアはさらにイライラを募らせる。
「こんな事なら私一人でやるんだった!」
「単身では無理だって言っているだろう」
「私は英雄記録調査員だぞ。ある程度の武道の心得はある」
「ほぅ?噂では”英雄”と名付けられたたくさんの偉いさんと行為に至ってるって聞いたんだが?」
「あんなふしだらな女と一緒にするな!」
ミリアは思い当たる人物が頭に浮かんで再び拳を振り下ろした。
「はぁはぁ⋯⋯貴様、いま英雄と名付けられた偉いさんと言ったな?」
「あっ、しまった」
メルトは口を手で押さえるも「もう遅い」とミリアにじろりと睨まれる。
「本当に貴様⋯⋯何者なんだ?」
それにメルトは応えず、グイッと目の前のグラスに入った酒を煽る。この男、肝心なところは本当に喋らない。
「言っただろう?味方だよ。敵じゃない」
「それは聞いたし肌で感じている。なぜ内情を知っているのかと言っているんだ」
「それは答えだと言っているみたいだが-いいのか?」
本っ当に嫌な言い方をする。芯を食ってる分尚たちが悪い。
ミリアは諦めたようにため息を漏らすと、口を滑らかにする為か初めて酒の入ったグラスを揺すり口に含む。
「⋯⋯そうだ」
それからミリアは暫く押し黙ったが、堰を切ったように話しだす。
「英雄記録調査員とは、そういう汚れ仕事を受け持つのが国からの本懐だそうだ」
ミリアは目線を伏せるたまま話を続ける。
「英雄記録調査員。それは簡単に言えば行き渡るべきお金を確実に支給する為に設立された制度。英雄とは、その日の行動、周りとの照合、そしてアルダンの”過去の監視網”を使い、本当に成し得たのが本人と一致した場合に認められる・・・・・・それが表向きだ」
「だが裏は偉いさんに金を握らせる制度となってしまっている。ま、英雄記録調査員が全員女であることを強制するくらいだ。当然だろうな」
「詳しいな。もう驚かないが」
「少し暴けば分かる。英雄記録調査員が全て女だなんて、この国くらいだからな」
ミリアはじっとメルトを見やる。あっけらかんと答えたメルトに他意は見えない。
「他の連中は金に目が眩みやがって。全く、本当に皆いいところの出なのか疑わしくもなる」
「ミリアはそういった事はしないのか?」
メルトの言葉にミリアはギロッと強烈に睨みつけるも、力なく、また目線を伏せた。
「私はもう・・・・・・・・・・・・そんな事するつもりはない」
ミリアは消え入りそうな声でそう呟いた。




