第七話「闇に溶ける」
その夜、メルトは一人葉巻を咥えていた。
「やれやれ・・・・・・彼女が心配だ」
窓を開け煙を放ち、だらんと片足をブラつかせて夜を展望する。もう片方の手は酒の入ったグラスを揺する。
「久々に呑むが・・・・・・美味い」
それを楽しそうに口に含んで、じっくりと舌で転がしたら噛み締める-旨い。しばらく口にしていなかった分よけい身体に染み渡る。
「ははっ-」
笑った拍子に視界がぐらりと傾く。
そういえば酔ったのは今日が初めてか-、いつぶりだよ全く。
「おお-っ、と」
メルトは何とか持ち堪えてまた一口喉に注ぐ。
前日も呑んだ。まだ酔えなかった。嬉しさよりも興奮が勝った。今日は面白いくらいに揺れる揺れる。
「外も歪んで見える」
メルトはまた一口、酒を呷る。
つまみとするのは少女との出会い。それが嬉しくって酒が進む。
グラスが空になってようやくメルトの手が止まる。
「・・・・・・こんな姿、彼女には見せられないな」
メルトは自嘲気味に口を歪ませ、何気なく外の景色へと目を配る。
「綺麗だな」
辺りは暗く、それでも月明かりのみが唯一の希望と言わんばかりに空に浮かんでいた。
「満月-いや、明日だな」
僅かに欠けた月を見てメルトは淀んだ瞳をグッと引き締める。
明日には満月を見ながら皆が酒を煽るのだろう。今の俺のように。
「複数の気配・・・・・」
月明かりが街の輪郭のみを象る。
影から影へと動く気配が幾つか見える。酒のお陰かボヤけて捉えた視界ではよく見えた。誰を探しているのかなんて一目瞭然だ。
「こちらに気付いているのが二名」
メルトは背中の長剣に触れる。
揺れる視界-、その中心、捉えるのは殺気を放った二名。
「ははは、殺気を隠そうともしないとはな」
どれだけ殺したいんだよ。あれはもうこちらを見つけている。やれやれ-。
「まぁ機械的な彼等の事だ。仕方ない。そして-」
メルトは仕方ないという言葉とは反対に、愉悦に口角を上げて長剣を引き抜く。
「-彼女の為に、仕方ないと思えよ」
刹那、メルトは月明かり照らす街へと降り立った。
「-おい」
「ん?どうした?」
「昨日の晩、何処に行ってた?」
二人はメルトの部屋でパンを食べる。
「寝てたよ」
「嘘をつくな。いくら部屋をノックしても反応が無かったぞ」
「そりゃ寝てたら反応出来ないだろう」
「お前は長剣に頼らずとも勘が鋭い。おおよそ数え切れない修羅場をくぐって来たのだろう?」
メルトは答えない。それでもミリアは返事を聞かずとも確信する。
「そんなお前が反応がないとは有り得ないな」
まいったなと、メルトはぐるりと視線を巡らせ、一つ空いた酒瓶に目が留まる。
「昨日は酔ったんだよ」
「だろうな。何度か愉快な笑いが聞こえたよ」
隣の部屋-しまった。聞かれてたか。
「というか昨日の晩?いったい何の用だ?」
「ん!?」
ミリアは驚いた拍子にパンを喉に詰まらせる。メルトは水をミリアにやると、何とか押し込んだ
「なっ、ななっ、なっ!?」
ミリアは指をこちらにさして、見る見るうちに顔を真っ赤にさせてしまう。
「-あぁ、なるほどぉ?」
メルトは厭らしく口を歪ませた。
「目の下の隈。そして涙腺-もしかして一人で寝るのが怖かったんでちゅかぁ?」
「舐めるなッ!」
そう言って突き出された拳をメルトは余裕を持って躱す。唸りを上げた追撃をも躱して捉える。
「まだ十四歳だろ?そんなもんだよ」
「ウウウウウウウッーーー!」
獣のように唸るミリアをメルトはよしよーしとあやす。
「なんだ!なんだその微笑ましい顔は!」
「ん?いや、俺にもそんな時期があったなーって」
「ほっこりするな!」




