第三話「暗闇に光る希望の星々」
きらびやかな調度品をあしらった部屋に、豪奢なシャンデリアの光が降り注ぐ。それは国の繁栄と歴史を顕した美術品を静かに照らしだし、まるで優雅な音楽でも流れているかのような空気を醸し出していた。
壁際に並び立てられた王室の品々は、細部に至るまでこの国の技術の全てが凝縮されており、室内を彩ってこの国の豊かさを表す。
ここはオールドマイン王国、オールドマイン城の中の一室、玉座の間である。
「-以上七名、始末致しました」
玉座へと延びたレッドカーペットに片膝を着いた武装した二人組が頭を垂れて告げる。
「そうか」
数々の贅沢品が並ぶ中、頭を垂れる二人組の先、一際煌びやかで豪奢な造りをした玉座に座る男が端的に答える。
「では、残りまだ見つかっていない四十八名の件ですが-」
再び二人組の長い話が始まる。玉座に座る男は欠伸を噛み殺せずに口元から漏れだすも、手で覆う事すらしない。
-退屈だ。これがいま玉座に座る男の感想だった。
黄金かと見間違うほどに濡れたように光る金色の髪に、何もかもを捉えるエメラルド色の双眼。整ったその顔立ちはまさに女性とも男性とも取れる美しさを兼ね揃えていた。
しかし脚を組み、肩肘をついて玉座に座る男は、せっかくのその顔を台無しにしていた。
「アルダン王子?」
「⋯⋯え?あぁ、ごめんごめん。続けて」
目の前の二人組は訝しげに首を傾げたがらも、再び話しだす。
いつまで続くのだろうか-?
玉座に座る男-アルダン王子にとって、自分の首を狙われること自体、理解がない。
「-で、青髪の子は目下探し中となります。これで以上です。引き続き探し出し、アルダン王子の首を狙う者を始末致します」
「青髪⋯⋯」
ふと、気になる単語が出てつい口から漏れ出てしまう。でもそれは独り言のように小さく、前にいた二人組には届いていない。
「では」
二人組はくるりと身を翻して部屋を後にする。
アルダン王子はぼんやりとその二人が出ていった扉を凝視していた。
「どうされたのですか?」
ぬるりとアルダン王子の影とも取れる位置から何かがズレ出る。それは黒一色に統一された服に身を包んだ人だった。
「影。聞いていたのか」
「えぇ。俺は貴方の影であり、いついかなる時も貴方さまの道具です故」
「そうか」
アルダン王子はそう呟いて立ち上がると、徐ろにバルコニーへと足が向かう。
「冷えますよ」
影はそう言ってアルダン王子のお召し物を掛け直した。
扉を開き、アルダン王子がバルコニーから街を一望する。
夜も更け、ぽつりぽつりと家に光が灯っており、街は全体的に静かな様子を表していた。
「なぁ、この街は綺麗だろ?」
「えぇ。貴方が築いたこの街は綺麗ですよ」
影はこくりと頷いた。アルダン王子はその様子に酷く顔を歪ませた。
「ならどうして、僕を狙う?」
バルコニーの手すりを握る手に力が篭もる。
影は答えない。
「青髪⋯⋯もしかして彼女かな」
アルダン王子は大きなため息をもらす。
青髪。英雄記録調査員となった彼女。容易に会える関係ではなくなってしまった彼女。
甘い記憶がこびり付いていたせいか、先ほど言われた”青髪の子”という単語が上手く飲み込めない。
「どうでしょうか。それだけでは断定出来ません」
「⋯⋯⋯⋯もし彼女ったら、どうしてなんだろうな」
アルダン王子は力なくそう呟いて俯く。
その瞳には揺れる大粒の雫を浮かべて。
「決まった訳じゃないんです。そう落ち込まないでください」
影はそっとアルダン王子へ身を寄せた。
「ふふっ、気遣ってくれているのかい?ありがとう。君はいつも優しいね」
「いえ。これが貴方の影として生きる者の務めですから」
アルダン王子はフッと笑みを零すと、空を見上げる。
「彼女もきっとどこからかこの大空を眺めているのだろうか」
真っ黒な闇夜というキャンパスに、彩りを与えるかのように煌びやかに光る星々。
アルダン王子にとって、美しいこの街の姿を表しているように見えていた。
「君もその光の一つだというのにな」
そうアルダン王子は哀しげに呟いて、暫く空に見蕩れていた。




