レゾナンス
こんな偶然ってあるの?
何度も頭の中で反響している。心臓だって平静を保つなんてとても出来そうにない。
「お〜い。聞こえてる?もしもし」
「は!」
ミウリルの大きな声で我に返る。
「ご、ごめん。ちゃんと聞こえてる。大きな声じゃなくても大丈夫だから」
「だったらすぐに返事してよね」
「・・・あまりのことに放心してた」
「そんなことじゃないかって分かっていた。で?ラフィに何の用なの?」
ミウリルとこうやって電話で話していると私達は姿は一緒なのに全く違う存在なんだと実感する。
同じ顔を画面越しに見ていると不思議な気持ちもしてくる。
「また放心しているの?」
「・・・うん。あの・・・ありがとう」
「え?なに?私、なんかした?」
「うん。これからお願いすることが叶ったから」
「・・・どういうこと?」
今、心の中には『嬉しい』と『幸せ』な気持ちが混ざりあって私の気持ちを軽くしていることに感謝している。
この気持ち。分かってもらえたら・・・私達はもっと近づけるかもしれない。
「ミウリル。あなたが天界から持って来た青い薔薇・・・私は欲しい」
「?・・・なんで?」
「必要だから。今、もの凄く必要なの。駄目だって言ってもどうしても欲しいの」
「それがラフィに電話した理由なの?」
「そう。私には手に入れることができない。天界の天使にしか摘むことができない。それに時間だって限られている。だからお願い。他の天使の命にかかわることなの。私は彼女を救わないとならないの」
「そのことに青い薔薇が関係してるの?」
「さっきからそう言っている。私が頼ることのできる天界の天使はミウリルとラフィしかいないの。もう一度言う。何度でも言う。青い薔薇を・・・私に・・ミュリエルにください・・・お願いします」
今度は向こうが黙っている。
私の気持ちは伝えた。何を考えている?渡したくない理由でもあるのだろうか。
『不安』と『焦り』に気持ちが慌てている。
早く答えを欲しい。
駄目なんて言葉なんて絶対に受け入れられない。
青い薔薇をもらえるなら私には覚悟してもいい。
これからのこと。
私の方が消えてもいい。元々消える存在だった。
ミウリルに全部返してもいい。
そしてあなたが病気で死ぬことがないように懇願する。カーリ様とラフィにお願いする。
これで収まるところに収まるよね。
私のわがままが闇の中に消えてゆくだけ・・・きっとみんなが幸せになる。
そういうことなら私が死んで・・・こうしていることにも意味があった。
少しだけど自分の願いを叶えることができた。それだけでも十分感謝しないとならない。
だから
今度は私以外が幸せになる番。
そう考えることができるなら私はこの舞台から降りることになんら後悔はない。
「・・・あのミウリル」
「ごめん。今度は私の方が黙ったままだったね」
「ううん。それで?」
深い呼吸が聞こえてくる。
「あのね。必要なのは分かった。薔薇をあげることに問題はないんだけど」
願っている言葉を聞けて心臓が高鳴る。
「ほんと?ありがとう。できればすぐに欲しいんだけど」
「待って。あげるのは構わない。でも一つ問題があるんだ」
「問題?」
「さっきお風呂って言ったよね」
「うん・・・え?どういうこと?」
「だからね。いい匂いだから・・・私・・・その・・花びらを湯船に散して・・・」
「そうなんだ。でも他にも・・・」
「ごめん。一輪しか持ってきてないんだ。だから、そういう状態でもいいのかなって」
「・・・一輪」
「それでもいいなら・・・あげるけど・・・」
実際に儀式に役に立つのかどうかは聞かないと分からない。
花弁がなくても成立するものなのだろうか。
とにかく今は手に入れないと何も進まない。
「それでもいい」
「わかった。じゃあ、どうしようか?直接会うの?」
直接・・・会う。そのことはラフィに止められている。それは現時点でも有効なのだろうか。
「・・・ラフィと話がしたい」
「ラフィと?聞いてみるね」
しばらく沈黙。画面には変な模様が浮かんでいる。
その向こう側でミウリルとラフィが話している光景を想像する。
私と同じ顔。
でも私とは違う感じで話しているだろうな。
私と彼女は別人。当然と言えば当然のこと。私には同じ表情なんてできないと思う。
私達の間には交わることのできない深くて暗い溝があるみたいに感じていた。
「あ。ごめん。待たせたね」
再び同じ顔が映っている。
「そんなことない。それで?」
「あのね。今からラフィが届けに行くって。ミュリエルは今どこにいるの?」
やっぱり・・・直接会うこと駄目なんだ。それでも聞いてみる。
「ミウリルは来ないの?」
「なんかラフィがね、直接会うのは早いって。どういう意味か分からないけどラフィがそう言うなら私は従うだけ。ホントは会っていろいろ話したいんだけどさ」
「なんか手間取らせてるみたいだね。ごめん」
「気にしなくていいって。ラフィが言い出したことだから」
多分隣りに立って私達の会話を聞いているのだろう。
「今はカーリ様の屋敷にいる」
「え?それって閻魔大王?」
「うん。よく知ってるね」
「聞いたよ。かつては天界の天使。それから堕天したって」
「うん。そうみたい」
「じゃあ・・・え?・・・うん。え?そうなの?うん」
二人で何を話しているの?これだとラフィの声までは聞こえない。
「あのさ、ミュリエル。ランヴェルって御者さん知ってるよね」
「知ってる。今日も会ったよ」
「あのね、彼に運んでもらうことになった。なんかさ・・・え?うん、わかった」
また二人だけの会話。二人の距離はとても近い。それにものすごく大事に扱われているように感じる。
もしかしてミウリルって・・・まさか・・・・・・
「わかった。それでいい」
「でもホントにいいの?茎だけだよ」
「駄目だったら・・・また相談に乗ってもらえると嬉しいな」
「困ってるのは分かった。ラフィと相談してみるね」
「うん。ミウリルが天使でよかった」
「そっちこそ。ねぇ、許可が出たら絶対に会おうね」
「うん。約束」
「だね」
会話は終了した。カーリ様のところに戻ると
「ずいぶん長かったけど進展がありましたか?」
ルシェルはフィナンシェを食べていた。ルシェルだけじゃない。他もみんな。当然のように私の席にも用意されていた。
ここの天使達はホント甘いモノが大好きだね。
見ていると食べたくなるってことは・・・私の場合はまだ血が足りていないってことだよね。
「うん。お待たせしました」
「結果は?」
「はい、カーリ様。偶然なんですけどミウリルが天界から持って帰っていました。でもちょっと問題が・・・」
「もしかして枯れたのか?それだと意味を成さない」
「いえ。枯れてはいません。ただ花びらがありません。お風呂に使ったとかで」
「じゃあ茎だけ?」
「そういうことになるねヴィヴィ。それってやっぱり駄目なのかな?」
「・・・どうだろう・・・私にも分からない」
「ルシェル」
「え〜と・・・」
「カーリ様」
「奇蹟を信じるしかないな。花びらがなくても薔薇は揃っている。やってみる価値はあるだろう」
「・・・そうですね。時間はないんです。だから駄目もとでも・・・」
自分でも気が付かないうちにフィナンシェを食べていた。
甘い中にアーモンドプードルの風味を感じる。
この世界の甘いものはホント洗練されている・・・美味しい・・・
コンコン。
入ってきたメイドの手には真っ白な箱がある。
「こちらが届きました。ミュリエル様宛です」
「・・・ありがとう」
受け取ってみんなの前に置く。
「届きました」
箱を開けると
「やっぱり・・・」
みんなで茎だけの青い薔薇を見つめている。
私は帯の中に大事に入れていた血薔薇を出して並べてみる。
「・・・思っていたのとちょっとだけ違うけど揃った」
「・・・ああ」
「これでハニエルを助けることができる」
「まだ可能性の段階だ」
「ヴィヴィ戻ろう」
「ああ」
「あの私達、寮に戻ります。ルシェル、迎えに来てくれてありがとう。あのままだったら戻って来れなかった。カーリ様、ありがとうございます。おかげで回復しました」
私達は一礼する。
「私も行きましょうか?」
その言葉だけで心強く感じる。
でも。これは私自身が引き起こしたこと。それに学園の中の出来事。頼りたいのは本当の気持ち。
だけど
「ありがとうルシェル。でも・・・今は気持ちだけもらっとく。結果は後でちゃんと報告する」
「分かりました。私がいても傍で見ていることしかできないでしょうから。頑張ってください」
私は頷いて答える。
「ワタシからもいいか」
「はい。カーリ様」
「もう一つの存在が見つかった。儀式が終わったらこれからの道を決めることになる。人間に戻るか天使として生きるか、それとも全て終えて今までの命の代償を払うか」
「はい・・・私には三択も選択肢があるんだ。迷いますね」
まだ何も決められないのに笑うことができたのが不思議だ。
あたらめて一礼して部屋を後にする。
外に出るとランヴェルがいた。
「待っていてくれたの?ありがとう。いろいろ」
「そうだな。呼ばれると思ったから休憩していた。あと渡す物がある」
ランヴェルは一通の手紙を渡してくれた。
「これは?」
「ミウリルから。渡してくれって頼まれた」
「ミウリル・・・後で読むね」
手紙を帯の中に仕舞ってヴィヴィと一緒に人力車に乗り込む。
「ランヴェルお願いね」
言葉と同時に疾風のように走り出す。
すぐ戻るから・・・ハニエル、持ってきたよ
☆★☆★☆
「ラフィ。どうして直接会っちゃ駄目なの?」
見ると
「なんで服を脱ぎ始めてるの?」
「さっきからミウリルからいい匂いがしてワタシも風呂に入りたくなった」
「だからってここで脱がなくてもいいでしょ」
「自分の家だ。問題ない」
「それはこれまでのこと。今は問題大アリだよ」
「ワタシは構わない」
「私が気にするの。年頃なのよ。これでも」
「なら素直になればいい。この身体が欲しければいつでも好きにしたらいい」
あの時見てしまったラフィの裸がいきなり鮮明に脳裏に蘇る。
「ば、馬鹿じゃないの?絶対遊んで楽しんでいるでしょ」
「ははは。バレたか」
「もういい。早く行きなさいよ」
入れ替わるようにリリエルが出てきた。
「騒々しいですね。痴話喧嘩なら二人きりの時にしてください」
「あんたもいきなり出てきて変なこと言わない」
「また。最近のミウリルは言葉使いが雑です」
「そうさせてるのは誰のせいよ」
「さあ?だんだん素の自分が出てきたってことです」
「なにそれ?私は雑な性格だって言いたいの?」
「実際そうだと思ってます。それよりホントいい匂いですね。花びらを浮かべたのはいいアイデアだと思います」
「そっか。花びらはなくなったわけじゃない」
咄嗟にドアを開けてしまう。
「いきなり襲うとは・・・嫌いじゃないぞ」
「ら、ラフィ!ご、ごめん」
ま、またしても見てしまった・・・
自分の行いに対して反省する・・・けど・・・顔が熱くてたまらない
このことは伝えた方がいいよね・・・
「えっと。もう一度」
「誰と電話ですか?浮気なんて駄目ですよ」
「そんなんじゃない。ミュリエル出て」
「ミュリエル・・・ああ。なんか複雑ですよね」
「大事に話なの。天使の命にかかわるって」
「は?命」
「ミュリエルの友達だって。青い薔薇が必要だって」
「青い薔薇が?ああ・・・もしかしてあの儀式をするんだ」
「知ってるの?」
「はい。知識だけですけど」
「それってどんな儀式なの?・・・ダメだ、なんで出ないの?大事なことなのに」
諦めて電話を切って溜息。
「ミウリル飲みますか?」
「・・・うん・・・喉乾いた」
リリエルが用意した炭酸水をグラスに注いでもらってイッキに半分まで飲んだ。
「・・・冷えてて美味しい」
「ですね。どうです?落ち着きましたか?」
「はぁ・・・クールダウンした」
次第に気持ちが落ち着いてゆく。私が焦ってもしょうがないよね。
「まあ。座りましょう」
「そうだね」
テーブルの上にはお土産のウエハースがある。
「太りますよ」
「いいの。食べたいんだもん」
モグモグ。
ミュリエルが何をしているのか気になる。でも私には関係のないこと。
向こうは向こうでの生活があって私は今のここが全てだ。
でも。
私のことを思って動いていたことが今頃になって実感としてしっくりしてくる。ホントならすでに死んでいた人生だったんだよね。
不思議なことが重なって生きている。
冷静になって考えても私をここまで導いたミュリエルのこと気にならないって言うのはなんだか無責任にも思えてくる。
今、困っている。なのに私にはどうすることもできない。少しくらい気にしてもいいよね。
「リリエル。さっき言った儀式のこと聞いてもいい?」
「いいですよ。あたしは実際に見たことはありません。あくまでも文献のことで聞いてください」
リリエルの話を聞いて時折ウエハースを摘む。
「これは特定の能力を持った天使のことです。この能力は他の天使の心のストレスを糧にします。つまり食べると言った方が分かりやすいでしょう」
そんなことできるんだ。じゃあそうすることでストレスはなくなってゆく。便利と言えば便利な能力なのでは?
「しかし。問題があってそればかり摂取していると中毒を起こすんです」
「中毒?食べてるんでしょ。そんな問題なの?」
「あのですね。過剰摂取はアレルギーを引き起こすんです。アナフィラキシーって聞いたことありまんか?」
「ありません」
「素直ですね。人間にはよくあると聞いてます。蕎麦好きの人が食べ過ぎてアレルギーになって食べられなくなる」
「それって不幸じゃん。好きなのに食べられないって」
「そうですね。あとはスズメバチに刺されるなんてのもありますね。あまりに強烈なため死に至ることも多々あります」
「天使にも当てはまるってこと?」
「そうです。たまになら良かったんですがずっと摂取しているとダメなんです」
「それが今回のことなんだ・・・でもその儀式をすれば治るんでしょ?」
「治るか治らないかは半分くらいでしょう」
そうなんだ・・・治らない・・・ってことは
「治らなかったら死ぬ・・・とか?」
「可能性はあります」
天使って死んだらどうなるんだろう?
ここは人間の魂のための場所。天使に魂の場所ではない。
今はそんなこと考えちゃダメだ。
儀式とは
二つのアイテムが必要。
地獄の赤い薔薇と天界の青い薔薇。
先ず赤い薔薇に原因となった天使の血を吸わせる。
そして花弁から出てきた血を青い薔薇に吸わせる。
青い花びらは色が混ざって紫色に変わる。
花弁がすっかり染まるとやがて茎から同じ色をした血が戻ってくる。
それを飲ませることで元に戻すことが可能になる。
「ダメじゃん。花びらがないんだよ」
「そうですね。花びらがないと意味がないのかもしれません」
私はもう一度・・・でも繋がらない。
「リリエル。もう一回。あの場所に連れてって」
「レテ平原ですか?」
「そう。青い薔薇を・・・」
「ダメですね」
私が言い終わる前に遮られる。
「なんで即答?」
「あの場所には天界の天使といえど一回足を踏み入れたら一年間は立ち入ることができないんです。入口が塞がってしまうんです」
「そんな大事なことを今言うの?」
「興奮しないでください。なにも知らなかったんですよ」
まさかの返答。
確かにこんなこと知らなければ一年だろうと二年だろうと待つことが出来た。
「・・・どうしよう。絶対に伝えないと・・・」
「これはあくまでも参考文献の中での話。もしかしたら上手くいくかもしれません。向こうも血薔薇を手に入れている。アイテムは揃っているんです」
「血薔薇って?」
「地獄の赤い薔薇。普通とは違います。血を吸う薔薇のことです」
確か血を吸うって・・・ここは地獄なんだ。病院では治らないこともある世界。
「もし失敗したらその天使は死ぬ。死んだら天使ってどうなるの?」
リリエルは溜息をつく
「あのですね。物事は暗い方ばかり考えてはダメです」
「そんなこと言っても・・・仕方ないじゃん・・・」
「忘れてませんか?」
「・・・なにを?」
「ミウリルは『祝福の天使』になりたいんですよね」
「・・・・・・・」
「だったら今は上手くいくように祈ってもいいんじゃないんですか」
「祈る?」
「そうです。祈るんです。今あなたに出来ることは祈ることです。上手くいくように福音を届けるんです」
祈る。福音を届ける。実際の言葉では届けられない願い。
私達は魂は違うが同じなんだ。いろいろなことが重なって今を生きている。
「分かった。リリエル。私やってみる。本物の天使になるために」
外に出ると大きな月が見える。満月が近いのかもしれない。
「ミュリエル。私にはこんなことしか出来ない。でも成功を祈る。ミュリエルに、相楽美有に祝福を与える」
手を組んでその場に膝をついて祈る。
この想いが伝わるように。きっとあなたには伝わると思う。
受け取って欲しい。今度は私があなたの願いが叶うように・・・・・・
☆・・・★☆
いつもはアッという間なのに、その時間すら長く感じてしまう。
私はずっと祈っていた。
ずっと奇蹟に守られきた。
だから
これが最後の奇蹟になってもいい。
願いを叶えて欲しい・・・
月が・・・・・・
ふと見上げた月・・・再び満月がやって来る。
「ん?・・・ヴィヴィなんか聞こえない?」
ふと誰かの声が聞こえたような気がした。
「いや・・・気のせいだろ」
「そう・・・」
でも私には聞こえる。どこかで誰かが・・・
「もしかしてミウリルだったりして・・・」
不思議と安心する。
上手くいくって励ましてくれているみたい。
「・・・頑張るよ、私・・・」
なんだか自信が溢れてくる。
この声に答えるように私も再び祈りの中に戻っていった。
8月も終わりが見えてきました。
読んでいただきありがとうございます。
このアップが終わったらプチ旅行に出ます。
夏の名残ですが夏の最後を楽しもう。←やっと仕事が休みになる
キレイな景色を見ながら次の展開を妄想しよう。
それではちょっと遅めの夏休みにいってきます。
次回もよろしくお願いします。




