表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワタシ死ねないみたいです。あと○○になる方法、探してます。  作者: マナマナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/66

あたしは天界の天使

「・・・ん・・・」

 頭の下・・・なんだか・・・程よく固くて程よく柔らかくて・・・

 瞼から差し込む朝の光が優しく私のことを目醒めへと導いてくれた。

「おはよう。よく眠れた?」

「???・・・・・???」

 えっと・・・癒しの天使様?・・・顔近い・・・

「そろそろ起きて朝食にしようか」

 昨夜・・・私・・・え?

「え〜!!!!」

 その場で飛び起きて状況の整理をしたいのに頭が上手く廻ってくれない。

 それでも今の状況だけは理解できる。

「良い夢でも見てた?」

「・・・え・・あの」

「なかなか可愛い寝顔だったよ」

「あの・・・その・・・すみません・・・でした」

 やっと今のことが言葉になってくる。

 ま、まさか・・・う、腕まくら・・・なんて・・・

 こんなことしてたなんて・・・顔は熱くなるし心臓は経験したことのないくらいバクバク脈打っている。このまま破裂するなんてこと・・・ないよね?

「まあまあ。余程疲れていたんだろう。ワタシはぜんぜん構わないよ」

「あ、あの・・・・・・もしかして」

「もしかして?」

 事実を聞いてどうする?なかったことにならないのは分かっている。分かっているけどちゃんと言葉で聞かないと・・・確かめないと・・・

「・・・一緒に・・・寝たんですか?」

 やっとの思いで言葉にすると癒しの天使・・・ラフィはいたずらっぽい笑顔になって

「ベッドは一つしかないと宣言したよ」

「・・・・・・」

 じゃあ・・・やっぱり・・・なにやってんのよ、私。

「それでもいいかいって聞いたらミウは素直に『うん、いい』って言ったんだ。覚えてない?」

 その辺りの記憶はまったく残っていません。無意識の自分が怖い。こんなんじゃ知らない誰かに付いて行ったとしても完全に自己責任になる・・・やっぱり眠っていたことの方が多かったせいなのか、イマイチ防衛本能が甘いみたい。

 軽い女なんて思われたくない。どんな言葉なら納得してもらえるのかな・・・

「そんなに気になる?」

 気にならない方が無理だって。無茶苦茶気になる。

「安心したまえ。ちょっとからかっただけ。ミウは一人で眠っていたよ。ワタシは朝まで調べものをしていたんだ。まあ、君の寝顔を見ながらだけどね」 

 一瞬耳から煙が出た。なんて無防備なの私・・・

「さあ。真相は分かった。朝食にしよう」

 ラフィは私の頭を撫でてベッドから降りた。

「あの。ベッド使ってごめんなさい。あと・・・ありがとう」

「気にしなくていい。それと君に渡すモノがある」

「・・・はぁ」

「朝食の後になるけど。とにかく腹が減った。あ、その扉の奥にトイレと洗面台。多分お風呂に入りたいだろう。タオルと着替えも用意してある」

 昨夜から至れり尽くせり・・・こんなに甘えていいのかな?

「じゃまた後で」

 そう言い残して台所に消えていってしまった。


 残された私は制服姿のままベッドから這い出して教えられた通りの扉を開けると

「うゎ・・・いい匂い」

 お風呂から朝に相応しい清々しい香りが漂ってくる。森の真ん中に放り込まれたみたい。

 手で温度を確かめてみると

「温かくて・・・気持ちいい」

 軽く触れただけなのにリラックスできる。これはもう入らない理由にはならないよね。

 脱衣スペースに置かれたカゴの中にはタオルと着替えが入っていた。

「じゃ、じゃあ・・・遠慮なく」

 制服を脱いで何も纏わない姿になる。こんな風に自分の身体を見るのっていつ以来だろう。

 ゆったりした湯船に身体を滑らせる。柔らかなお湯。肌にとても優しいのが分かる。


 ずっとサッカーをしていた。だから足には擦り傷痕がたくさんあった。

 けど今はその痕はほとんど消えている。

 たぶんあの子がいろいろケアをしたんだろうな。そこは感謝、かな。


 だってもう一人といた頃って


『あんまり無理しないでよ。怪我なんてしたくないし、痕だってつけたくない』

『そりゃ無理だって。そういうのは勲章みたいなもんだ』

『女の子なの。スカート履けなくなったらどうしてくれるのよ』

『俺は履かねえもん』


 そんな会話が懐かしい。


 ・・・近くにいるって伝えたい。

 元気にしているかな?それともこの身体を抜けて一人で自由に文句も言われずサッカーしているのかな?


 ああ・・・気持ちいいね。


 この身体は今は私だけのもの。誰にも干渉されないってなんかいいね。自由で。そのことをすごく実感している。


 ああ・・・身体でも洗おっかな。


 備え付けの石鹸は良い匂いの塊だ。これ一つで髪から身体まで全部洗うことができた。というのも泡立てたら泡の方が勝手に全身を包み込んでしまったから。

 楽しい。泡でモコモコになったのって初めて。キレイになるって身体が喜んでいる。

 あとはシャワーで流すだけ。


「ん〜〜〜・・・さっぱり」


 用意された着替えを拝借する。頭からすっぽり被るポンチョみたいな服。さすがに下着の用意はない。だからといってさっきまでのをもう一度ってのも抵抗あるよね。


「あれ?私の服・・・」

 確かに置いたはずなのにどこにも姿がない。まさか・・・これは聞くしかない。

「あの〜・・・ラフィ」

 ドアから半分だけ顔を出して声を掛けた。

「出たか。こっちも準備できている」

 美味しそうな匂いがする。

「ん?早く席に付くといい。風呂はどうだった?」

「あ、ありがとう・・・すごく気持ち良かった」

「うんうん。そうだろう」

「それで・・・」

「ん?」

「・・・私の服」

「ああ、洗って干してある。今日は天気が良いからすぐに乾くだろう」

「え?洗った・・・って」

「もちろん洗濯機だが」

「でも洗濯機は干してくれない」

「もちろんワタシが干した」

 え?ちょっと待って。制服だけじゃなく下着だってあるんだよ。もしかして、っていうか見てるよね。おまけに触ったってことだよね・・・ありがたいけど・・・

「なんで睨んでいる?」

「だって。洗濯は・・・ありがとうございました。でも干すのは・・・」

「ははは」

「笑い事じゃないんですけど」

「ワタシが干したっていうのは冗談だ。ホントは・・・」

 ラフィが手招きすると

「干したのはあたし。安心した?」

「え?あなたは?昨日はいなかった・・・よね」

 台所の方から出てきたのは小学生くらいの可愛い女の子。ピンク色の髪に黄色い色の瞳。真っ白な服。ホント、羽根があったら天使そのものみたい。

「初めまして。あたしは天界の天使『リリエル』」

「天界の?天使?」

 また天使。地獄なのに天使がいるなんて。

「そ、そうなんだ。ありがとう」

「あたしのことはリリエルでいいよ。あなたは何て呼んだらいいの?」

「私はさがらみう。ミウでいい」

「あなたって」

 リリエルは私のことをじっと見つめる。

「リンシでいいの?」

「ああ、昨夜そんなこと言われたよ」

「なんで起きてるんですか?」

「え?なんでって・・・朝?だから」

「ふつうリンシって夜にしか動けない。だから朝は眠っているはずです」

「えっと・・・そうなの?・・・なんでだろうね。私には分からないわ」

 小さいのに結構ズバズバ歯切れよく話す天使は元気の塊みたい。

「そんなことも知らずに死んだのですか?ってまさかあなたが対象者ってことですか?」

「は?対象って?」

「昨夜ラフィ先生から連絡をもらったんです。ちょっと変わったリンシを見つけたって。そのままにしておいたら完全に・・・・・・」

「これから先はワタシが話そう」

 姿を見せたラフィの手には両手鍋がある。中には何が?とても良い匂いがする。

「先ずは食べよう。リリエルも食べるだろ」

「もちろんいただきます。先生の料理って美味しいですから」

「どうした?ミウもそろそろ出てきてもいいんじゃないか?」


 まだ顔しか出していないのには理由があるってこと分かっているよね。

 こんなカッコしたの初めてなんですけど・・・恥ずかしいって正直に言った方がいいのかな?


「なぜ席に着かない?もしかして・・・」

「そうです。恥ずかしいんです」

「大丈夫。そんなこと分かっているから。それにもうすぐ乾くって言っただろ。ご飯は温かいうちに食べた方が美味いからな」

「そうだよ。早くしてよ。あたし朝一で来てお腹ペコペコなんだから」

「・・・・・・わ・・・分かりました。でもちょっとだけ待っててください」

「ああ。じゃあリリエル。手伝ってくれ」

「はい。先生」


 扉を閉めてから鏡の前に立つ。あたらめて自分のことをじっくり見てみる。

 私の顔。私の髪。

 あの子が伸ばしてくれたおかげで背中の半分くらいはある。

 私も長い髪好きだったのに、もう一人が切っちゃったから正直二度と髪を伸ばすことはないと思っていた。

 顔だって毎日ケアしてくれてたんだろうな。隙がない。

 あの子はこの容姿がもの凄く気に入っている。その気持ち。なんとなく分かる。私だって好きだから。

 こんなに可愛くなっているのもあの子のおかげなんだろうな。


 って、見入っている場合じゃない。


 窓から差し込む陽光。一回転してみる。

「うん。まあ・・・見えないか」

 そのことを確認したかった。ご飯を食べる間くらいなんてことないよね。


「すみません。お待たせしました」

「やっと出てきたな。さ、いただこう」

 席に着くと昨夜と同じようにお祈りをして食事が始まる。

「ん〜先生。朝粥って朝が似合いますね。おいしいです」

 鍋の中身はお粥だった。朝粥って初めて食べた。火傷しそうなくらい熱い。

「・・・熱い・・・けど美味しいです」

「だろ?お代わりもあるから欲しかったら言ってくれ」


 みんなお代わりをした結果。鍋はキレイに空になる。

 私とラフィは二杯。リリエルは四杯も食べた。私もだけど成長期なんだろうな。

 みんなで片付けて、今は食後の紅茶を楽しんでいる。ダージリンの香りが部屋を満たしている。

 地獄なんて思えない穏やかな時間が流れている。


「あの、リリエル」

 ふと思った疑問を聞いてみたくなった。

「はい。なんですか?」

「リリエルって天界から来たんでしょ。地獄には簡単に来られるものなの?」

「なにを当たり前のこと。すごい昔は大変だったらしいですが、今はヘブヘルタワーがありますから」

「へぶ?え?なにそれ?天使って翼があって飛んでくるんじゃないの?」

「あのですね。翼を使うのは現世に限られていることなんです。天界でも地獄でも翼で飛んでいる天使なんて存在しません」

 そういうものなの?それが現実なの?地獄で現実を考えるって思考の渋滞を引き起こしそう。

 でも。実際に翼って・・・ないよね。

「疑ってますね。いいでしょう少しだけです」

 リリエルの身体が一瞬光った。

「どうです?なかなか立派でしょ」

「うわ・・・・・・ホントに天使」

 リリエルの背中には私達の知識の中にある翼があった。真っ白で大きくて。

「キレイ・・・触ってもいい?」

「いいですけど。やさしくでお願いします」

 ゆっくりと指先だけで触れてみる。

「うわ・・・すごい・・・いいなぁ」

「もういいですか?くすぐったいんです」

「ああ、ごめん。でも、ありがとう」

 再び身体が光ると次の瞬間翼は消えていた。どこに収納しているのだろう。今はそのことが気になって仕方ない。

「ひゃ!」

 いきなりのことで変な声が出た。というのも

「な、なに?」

「あたしは翼を触らせてあげたんだ。そのお返し」

 なんで胸を・・・布一枚しかないからリリエルの手の感触がダイレクトに伝わってくる。

 まだ誰にも触られたことないのに・・・・・・


「それくらいでいいんじゃないかな」

「先生も触ってみます。なかなかですよ」

 ラフィは真っ直ぐな瞳で私のこと、っていうか私の胸を・・・見ている?

「あ・・・えっと・・・」

 まさか本気・・・じゃないでしょうね。いくら天使だからってそんなの許されるはずない。

「リリエル。もう止めようか」

 急に視線が鋭くなる。今まで温和と温厚しか見ていなかった。

「は、はい。悪ふざけが過ぎました。ごめんねミウ」

 やっと解放・・・・・・こんなに育つなんて私だって予想外だったんです。


「そろそろ本題に入ろうか。リリエル。天界から持ってきたモノを」

「はい。これですね」

 リリエルはポシェットからカードを一枚取り出した。

「これをミウに」

 目の前に置かれる。これってなんなの?真っ白で何も記載されていない。

「今からミウを天界の天使として登録する」

 え?今なんて?理解できないんですけど。天使って言ったの?

「そうだ。一時的だがな」

「ホントにするんですか?冗談かと思ってました」

 リリエルの驚いた声が響く。

「リリエル。ワタシがそんな冗談を言うと思っているのかな?」

「でも・・・まさかですよ。リンシが天使ってそんな話聞いたことありません」

「ないだろうな。でも今からそういう話ができる。なかなかに面白い」

「面白いって。主が怒ります」

「そうなったらワタシが説明する」

「なんでそんなことする必要があるんですか?」

「このままだとミウが死んでしまうからだ」

「だってリンシは本来死んだ人間のことです。何も問題ないはずです」

「そうだ。何も問題がない。普通ならな。けれど普通ではないことが起こっている。だからミウを死なせるわけにはいかない。原因を知らねばならない」

「これを受け取る時だって相当言われたんですよ。でも。先生には逆らえませんので渋々出してくれましたけど。あたし頑張ったんです」

「それは苦労を掛けた。お詫びにケーキをごちそうしよう」

「ケーキ・・・ですか・・・いいですね。手を打ちましょう」


 二人のやり取りについていけず、ただ黙って聞いているしかない。

 目の前にいるのは天使。それを見ている私はリンシ。

 元の世界に帰りたいだけなのに。変なところに来ちゃったってあらためて思う。


「あの・・・」

「なんだミウ。嫌なのか?」

「あの。そういうことじゃなくて。天使になるってどういうことか分からないんです」

「現世に帰りたくないのか?」

「え?もちろん帰りたいです。私はラフィのこと信じた。だから今があると思ってます」

「願いを叶えたいならミウは天使になるしか道はない。現世との糸は簡単に切れてしまいそうなほど細く脆くなっている。繋がりが切れたら二度と現世に帰ることはできなくなる」


 え?・・・帰れない?嫌。それだけは嫌。


 絶対に嫌だ。絶対に認めない。認めたくない。


 だって私が死んだら現世の身体は?

 完全にあの子のモノになってしまう。どこの誰かも分からない彼女に乗っ取られる。身体だけじゃない・・・・・・拓哉だって・・・そんなことになったら嫌なことしか残らない。

 私には選ぶ余裕なんてないんだ。


「なります。天使になります」

「実に明快でよろしい。始めよう」

 ラフィの身体が薄ら光を放つ。リリエルとは比べものにならないくらいのたくさんの翼が現れる。一体何対あるのだろう。

 その姿は神々しくて眩しかった。

 天使になれたら私にも翼ってあるのかな?それは楽しみだな。

 そんな姿を想像したら笑顔になっていた。


 ☆☆☆★★☆☆☆ 


「・・・怖かった」

 朝。目を覚まして一番に思ったこと。

 だけど。

 ハニエルのおかげで昨夜は眠ることができた。


 天界の天使・・・あんなことのせいで気分が悪いし、印象だって悪い。ランヴェルの言う通りそんな天使ばかりじゃないことくらい分かっている。人間と同じようにそれぞれ個性があるから全部が全部同じだとは限らない。


 コンコン。


「ミュリエル。朝だよ」

 ドアの向こうからハニエルの声が聞こえる。

 ベッドから出てそのままの姿でドアを開けると

「おはよう。ちゃんと眠れた?」

「おはようハニエル。おかげさまで」

「なら良かった」

 ハニエルは周りを見回してから、首筋に鼻を寄せて

「・・・くすぐったい」

「ストレス・・・まだ残っているね・・・気にするほどじゃないけど」

 昨夜のお風呂でのことを思い出すとちょっと恥ずかしい。

 やっぱり昨夜の私は自分でも思う程に変だった。

 誰かに頼りたかった。誰かに甘えたかった。だから目の前にいるハニエルと出会えて良かった。

「ホント昨夜はありがとう。ちょっと甘え過ぎだった?」

「そんなことないよ。自分の能力が役に立って嬉しいし、ご褒美だってちゃんともらったから。ねえミュリエル」

「ん?」

「今夜も出掛けるの?」

「うん。だってそのためのここに来たんだから」

「そうだよね。分かってるんだけど」

「心配してくれたんでしょ。ありがとう。これからはもっと注意する」


 朝食を知らせる鐘が鳴る。

「お腹空いちゃった」

「そうだね。それと今日の特別授業。楽しみだね」

「特別授業?」

「そうだよ。でもその前に」

「その前に。行こっか」

 私は昨日と同じように着替えて、この能力にはもう慣れた、食堂に向かった。


 ☆☆☆☆


「それでは皆さん。本日の特別授業。講師はこちらになります」

 ラグエル先生に紹介されて教室に入ってきたのは見た目は外国人?天使でもリンシでもない。

「みなさんもご存知。あのヘブヘルタワーの設計をした『アントニ・ガウディ』さんです」

 ガウディ?・・・・・・なんか聞いたことある名前。えっとなんだっけ?現世でもよく聞く名前。

「初めまして。ワシは自分のアイディアをもっと具現化したくてこの世界に留まっているレイスです。この中で現世のワシの作品を知っている天使はいますか?」

 手を挙げる天使はいない。

 講師はしばらく教室を見回して次に進もうと目の前のタブレットの操作を始める。

「あ、あの」

 立ち上がるとみんなの視線が私に注がれる。

「君は知っているのかい?」

「えっと、詳しく思い出せないです。でも先生の名前は聞いたことあります」

「ほう。なら君は現世に行ったことあるのかな?」

 現世から来ました。ってこと言ってもいいのかな?

「現世に行ったことはないです。でも聞いたことあります。えっと・・・」

 講師は私のことをじっと見つめている。

 早くなんか答えないと・・・思い出しそうで思い出せないよ。


「サグラダ・ファミリア」


 助け舟のつもりだったのか。それともこれ以上時間を使えないってことなのか。講師の方からヒントを言ってくれた。

 知ってる。確か今も創っていて未だ完成していない建物だったような。

「まだ完成していないって聞いたことあります」

「そうだ。嬉しいね。知ってる天使がいて」

 その瞬間、何故だか教室中に拍手が起こった。私は照れながら席に座った。

「凄い。ミュリエルって物知りだね」

 ハニエルが小声で話しかけてきた。

「そんなことないよ。たまたまだよ。それより初めに言った『なんとかタワー』の方が知らない」

「はい。今度は私が発言してもいいですか?」

 ハニエルは急に立ち上がる。な、なに?急にびっくりなんですけど。

「彼女、ヘブヘルタワー知らないそうです」

 またしても教室がざわつく。またまた驚く私。

「え!そんなに有名なの?」

「だって天界と繋がっている一番高い建造物だよ」

 言われて思い出す。あれってそんな名前だったんだ。それを目の前のレイスが創ったってこと?

 なんか凄い・・・そんな言葉と感情しか思い付かないよ。

「見たことはあるよ。名前は知らなかったけど」

 それって富士山の名前を知らないくらいのレベルのこと?


「はいはい。みなさん静かに。言ったはずです。彼女は転校生なんですよ」

 ラグエル先生が手を叩いてこの場を収めてくれた。


「なんかごめんね。ヘブヘルのこと知らない天使って初めて会ったから驚いちゃって。ついみんなに言っちゃった」

「私こそなんかごめん。みんなのこと驚かせたみたいで」

「でもさ。私達の知らないこと知ってた。そしたらなんかミュリエルが急に遠くに感じちゃった」

「ううん。そんなことないよ。言ったでしょ私は仮の付く天使だから」

「そう言えばそうだったね。ねえミュリエル。今ので私のこと嫌いにならないで」

「なんで?別に気にしてないよ。それに嫌いになんてならないよ」

 ハニエルはニッコリ微笑んで授業に集中した。

 私も初めて会うレイスに興味津々だ。


 講師はなぜレイスとして留まっているか。そのことを説明していた。


『人間とは皆さんと違って命がとても短いしおまけに脆いです。病気になったり予期しない事故で命を落とすこともある。実際にワシがそうだった。さっき彼女が言ったサグラダ・ファミリアは生きている間に完成させることができなかった。その思いが無念となってこの世界に留まることにしました。おかげで天界と繋ぐタワーを完成させることができた。最高に気分は満たされています。時間なら幾らでもある。もし人間だったら完成なんてできなかっでしょう。今の願いは、ワシは死しても作品を創っていることを現世に伝えたいことですね』


 やっぱり天使の命って長いんだ。それってどれくらいなのかな?

 もし私が仮じゃない本物の天使になれたら姿はこのままでず〜といられるのかな?

 そう考えるとアリかもって思ってしまうのはこの姿を失いたくないっていう心の表れなのかも。

 だって・・・この身体の持ち主はちゃんといるし私の元の身体はもう彼に託してある。

 魂の帰るべき器がない。でも選べるなら今の姿を絶対に選ぶ。


 まだ答えなんて見つかっていない。

 この姿を失ったら私はどんな姿になってしまうのだろう。想像してもぜんぜん分からないよ。

 だから怖いよ、正直。


「ミュリエル、ねえ、ミュリエルってば」

 身体を揺すられて我に還る。

「授業に集中し過ぎ。終わったことにも気がつかないの?」

「え?終わった?ホントに?」

「ホントだよ。でも今度の校外授業のこと聞いてないでしょ」

 今度は校外授業?

「うん。ごめん、聞いてなかった」

「みんなでヘブヘルタワーに見学に行くんだよ」

「え!ホント?じゃあ天界にも?」

「天界の手前まで」

「そうなんだ・・・残念。天界って知らないから見てみたかったな」

「だって天界に入国するのってお金がかかるんだよ」

「知ってる。けっこうなお値段だって」

「そう。いくらここでも予算オーバーなんだって」

 そっか。行けるんだ。手前まででもちょっとくらい覗けたりしないかな?

「ところでヘブヘル?だっけ。どんな意味があるの?」

「正式名称は『Heaven to Hellタワー』って言うの」

「なんか直球だね」

「なんかね。さっきの講師が付けたんだって、それしか思い付かなかったみたい」

 『へ〜』・・・としか感想が出てこないのは私だけ?でも

「単純過ぎて面白い」

「ちょっとミュリエル、笑ったら失礼だって」

「そういうハニエルだって」

 急に笑のツボが刺激されたのか、しばらく二人で笑っていた。


 こんなことしているとホント、普通に学生として楽しんでる。

 これが現世ならもっと楽しいんだろうな。部活して放課後お茶していろんなお話して。

 ここにも同じこと求めることができるのだろうか?

「突然だけど部活とかってあるの?」

「唐突だね。もちろんあるよ」

「そうなんだ。ハニエルってどっか入ってたりする?」

「知りたい?」

「なんではぐらかすの?」

「教えたらミュリエルも入部する?」

「なによそれ。だったらハニエルが教えてくれるまで聞かない」

「ミュリエルのいじわる」

「ハニエルだって」

 こんな会話が楽しい。ハニエルとの距離がさら近くなったように感じるからかな。

「ありがとうハニエル」

「どうしたの急に」

「なんか嬉しくて」

「変なの。だったら私もミュリエルっていうちょっと変わった天使と知り合えたの嬉しい」

「仮だもんね。ホントはね、いろいろあるんだ。私」

「知ってる。でも聞かないよ」

「優しい。もし話せる時がきたら聞いてくれる?」

「いいよ。でも今はそんなことどうでもいい。ずっとミュリエルと一緒にいることができたらって思ってる」

「ハニエル・・・そうだね。そうなれば素敵だね」


 鐘の音が鳴る。


「あのさ」

「うん」

「少しくらい時間あったりする?出掛ける前」

「少しなら平気かな」

 ハニエルは何か考えている。

「じゃあさお昼。ランチ食べながら」

「いいけど。なに企んでるの」

「素敵なこと」

「楽しみにしてる」

 そして

 私達は次の授業の準備を始める。


 この世界に来て一週間も経っていないのに毎日がいろんな意味で充実しているってことでいいのかな?

 きっとそれで良いんだろうな。

 大変なことだらけなのに不思議と今が現実で良かった、って。

 ずっとこのままでもいいのにな、って。

 自分の運の良さを地獄で実感していた。

昨夜は寒かった。身体が変になりそう。

読んでいただきありがとうございます。

そのせいか眠れなくて寝不足です。そんなことあるのかな?

だから夜中に書いていることが増える今日この頃。

しかし。朝読み返すとほぼ後悔・・・

書いている人ってこんな感じなのかな?

まあ。実力でしょうね。まだまだと痛感してます。

それでも次回を待っていてくれたら嬉しいです。頑張ります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ