一日の終わりはお風呂だね
注文したドリンクが目の前に置かれる。見た目は現世のコーラに違いない。けれど味ってどうなのかな?かなりスパイシーな香りが鼻にくる。これってホントにコーラなの?
そんなことを思いながらストローにくちびるを当て恐る恐る吸い上げる。
口の中に入ってくるコーラ。炭酸が弾けて鼻から抜ける香りが気持ちいい。
「・・・ん・・・美味しい。初めて飲んだ」
私が知っているコーラとはだいぶ違うけど間違いなくこれはコーラだ、と断言できる。おかげで口の中がリセットされたみたい。炭酸が弱めなのがまた良い。気に入っちゃったな。
そのままイッキに飲んでしまうとグラスに残った氷が打つ音が爽やかさの象徴みたいに響く。
「いい飲みっぷり。もう一杯いっとく?」
どうしようかな・・・これはこれで良かった。これなら他も期待出来るかも。
メニューを開いて他の飲み物を物色し始める私。
アヴェルはグラスの三分の一を飲んで満足そうな呼吸をする。お酒の匂いが少し強くなったみたい。
「アヴェル、酔ってますよね。そろそろ切り替えてください。もしこれ以上飲むならここの払いに経費は使いません。自費でお願いします」
「え?それって自分が飲めないからって反撃ですか?昔から思ってましたけど、ルシェル、セコいです」
ルシェルはノンアルビールを一口飲んで冷静に話しだす。
「なに言われてもいいですけど、いいんですか?そんなんじゃ友達失くしますよ」
忠告にも似た言葉をアヴェルに放つと急に涙目になって
「え〜そんなのやだ。やだよう。ごめんルシェル。ごめんよ〜許してよ〜」
ルシェルの肩を揺らして懇願する。
「じゃあ酔いを覚まして誠意を見せてください」
今度はルシェルの太ももに顔を突っ伏して
「わかたよ〜・・・だから」
「何してんですか?くすぐったいんですけど」
「だからこうしていれば酔いなんてすぐ覚めるの」
アヴェルの頭を軽く叩くと
「いった〜い。酷い。優しくしてよ」
「今度はグーでいきます」
「・・・グーは嫌。ナデナデがいいの」
心なしかルシェルの髪が少しだけ逆立っているように見える。おもむろに拳を作っている。まさかホントにグーで殴るの?なんてハラハラしながら見ていると
「まったく・・・仕方ありませんね。今回はいろいろ面倒なので協力してもらわないとならないので特別ですよ」
ルシェルはリクエスト通りナデナデをする。
私の予想は裏切られたわけだが、やっぱりルシェルって優しい・・・
「気持ちいい〜もっと〜。ルシェル大好き」
えっと。この状況って見ていいもの?はっきり言って視線のやり場に困るんですけど。
「あの。あまり気にしないでください。こんなのしょっちゅうなんです。困ったもんです。こういうのは二人っきりの時だけにしようね」
「わかった〜。じゃあミュリエル、お水頼んでくれない。お願い」
「あ。はい」
手を上げるとすぐに店員さんがやってくる。なんとなくだけどちょっとだけ周りと違って影が薄いような感じのする男の店員さんだった。
「えっと、お水ってもらえます?あとバニラシェイク一つください」
「かしこまり」
元気な返事を残して行ってしまう。
店員さんの後ろ姿を見ていて、ふと気がついたことがある。なんとなくだけど・・・これは聞いた方が早いよね。
「ねえルシェル。ちょっと聞いてもいい?」
私は小声で聞く。
「はい。なんでしょう」
「今の店員さんって天使じゃないよね」
「あ、分かります?正解です。リンシですよ。きっと時間があるからバイトでもしているんでしょう」
「バイト?」
「別に変なことじゃありません。この世界も滞在するならお金が必要なんです。本来リンシはお金を持っていません。だからそれまでの滞在費を稼ぐ必要があります。まあ、一回働けば十分なんですけどね」
「もしバイトしなければ?」
「いくら彼らの活動が夜だけだとしてもお腹も空けば喉も乾きます。すぐに逝くリンシなら二、三日くらいなら我慢できるでしょうが、まあそうですね、個々のリンシにもよります」
そうなんだ。どこに行っても、どんな世界に行ってもお金って必要なんだ。
だったら美有は?やっぱりお腹空かせている、でいいのかな?
それとももうどこかでバイトしているのか?
どっちにしても早いとこ見つける必要がある。
「あのさ、もしお腹が空き過ぎたら倒れてしまうこととかあるの?」
「もちろんです。まあ、死にはしませんが対処はいろいろですかね」
「具体的には・・・」
その先をさらに聞こうとしたら注文の品がやってきた。
「アヴェル。お水です。飲んでください」
「ありがとう・・・」
ルシェルがグラスを渡すとイッキに飲み干す・・・なんだろう急に視線がはっきりしてくる。さっきまではちょっと据わってて思わず引いていたけど
「あ〜酔いが醒めた」
言葉遣いもしっかりとして頭を軽く振っている。
「うん。もう大丈夫。ルシェル迷惑かけたね。ごめんね。あとミュリエルもごめんね。見苦しいところを見せちゃったね」
本当に酔いが醒めている。彼女の口調や立ち回りは東屋の時となんら変わらない。
「相変わらずですね」
「まあね。特技だもんね」
へ〜。なんか凄い・・・酔いってこんなにも早く醒めるものなんだ・・・なんて感心していると
「ミュリエル。これは彼女の特殊能力みたいなモノです。どんなに酔っていたとしても水一杯でなかったことになります。これが他の天使にも当てはまるわけではありません。飲み過ぎたら当然二日酔いというペナルティーを課せられますので。はっきり言って羨ましいかぎりです」
ルシェルが説明をしてくれた。そっか。そういうものなんだ。
納得して自分が頼んだドリンクを一口。
「見た目以上に・・・甘くて美味しい」
「へ〜じゃ私も」
アヴェルは同じものを追加注文して、私と同じ感想を言った。
「では本格的に始めてもいいですか?」
ルシェルの言葉に気が引き締まる。なんだかここまで来るのにちょっとだけ遠回りをした感じもするけどアヴェルとの距離はだいぶ縮まったような気もする。
もしかして向こうも私と会うから緊張していた、なんてことは考え過ぎかな?
私達は周りの注目を集めないように頭を寄せる。と言ってもこっちの方がかえって注目を集めてしまうのでは?
けれどそんなこと心配するまでもなかった。
「こういうこともできるのよ」
アヴェルはいたずらっ子がするみたいな笑顔で言う。
「この距離なら私達の会話は絶対に他の耳には入らない。例えカーリ様でも」
「そうなんだ・・・へ〜・・・すごい・・・んだよね」
なんて感心もすると同時にふと思う。
もしかして天使ってそれぞれ特殊能力があったりするのだろうか?
だったら今天使の私にも能力があるのだろうか?あるとしたならそれはどんな能力なのだろう。自分にとって役に立つ能力ならいいんだけどな。
それって誰に聞いたらいいのだろう・・・聞いたら教えてくれるのかな?
「・・・あのミュリエル」
「あ、はい」
「ちゃんと聞いてます?なんか別のこと考えていませんでしたか?」
「・・・ごめん。ちょっと考えごとしてた」
また自分の世界に思考が飛んでいた。こりゃそろそろ怒られても仕方ないよね。
「あのですね。これはあなたのことなんですよ。もっと集中してください」
あ〜やっぱり注意を受けるよね。けど、いろいろ気になってなかなか集中出来ない。なんてことは言い訳にしかならないか。
私は思いっきり自分の頬を叩いて気合いを入れたことを証明した、つもり。
「ホントごめんなさい。集中する」
ルシェルは仕方ないといった感じで深く呼吸をして
「分かりました。信用しますよ。ではもう一度・・・」
今度は一つも言葉をこぼさないように集中する。
これからの大まかな動きとして。
先ずは表通りにあるいろいろなお店に実際に足を運んで探すという初歩的な手法を取ることになる。もちろん二人の協力はなく私一人で、というのが大前提なる。これは最初に言われていることだから。
「ここにはたくさんのお店がありますので時間が掛かると思います。それにすれ違いだってある。だからお店の人に聞いてみてもいいと思います。自分と同じ顔をしたリンシを知らないかって」
「うん。分かった。頑張ってみる」
「そうそう。頑張ってください。それからミュリエルはその日の結果を毎日必ず私に報告してください。これのメール機能の使い方、分かります?」
「うん。多分分かると思う。じゃあ報告はメールで」
「はい。それでお願いします。もしどうしようもない状況になりましたら電話をしてもらって構いません。では早速行動あるのみ。あと寮の門限は守ってください」
「門限ってあるんだ」
「ありますよ。端末のタイマーをセットしておくといいでしょう。それとこれ」
ルシェルは帯から封筒を差し出す。
「これは?」
「経費です。この間のと合わせて一週間ごとに清算になりますので領収書はお願いします」
「あ、ありがとう」
受け取ると同時に
「これで私の今日の業務は終了です」
大きく背伸びをしたルシェルは腕の端末を操作しようとする。
「ちょっと待って」
「なんですかアヴェル」
「近々の動きは分かった。それであたしは何をしたらいいの?」
「言ったはずです。とりあえず情報の共有だと。今のところアヴェルにはこのまま担当のもう一人のことを見守っていてください。もし天界からなにかちょっかいされそうになったら私に報告してください」
「うん。じゃあこれまで通りでいいのね。それになに?天界って。もしかしてかなり面倒なことになってるの?」
「そうですね。天界のことに関してはカーリ様を通して通達してもらう予定です。けれど新月は要注意です。こっちは満月。向こうは新月が唯一現世と干渉できる時ですから」
「ふ〜ん。あんまり天界とのゴタゴタには関わりたくないですよね。気をつけておきます」
「まあ、新月は終わったばかりだから大丈夫だと思いますが一応念のためってことで」
「了解。じゃあこれで仕事は終わった、でいいのよね」
「そうですね、はい」
「じゃあさ、一度清算して飲み直さない?」
「もちろんそのつもりです。さっきのこともあるので」
ルシェルは再び端末に向かって何か操作する。
「これで本日の業務は終了です。勤怠のチェックは済ませました」
この間、私は二人のやり取りじっと見ているしかなかった。気がつくとバニラシェイクは無くなっていた。いつの間にか飲み干していたらしい。
「ではミュリエル。早く見つかること祈ってます。頑張ってください。すみませ〜んビール二つとマルゲリータください」
ルシェルはいつの間にか私服になっていた。青と黒のボーダー柄のTシャツ。それにサルエルパンツにブーツ。
「どうしたんですか?目を丸くして」
「あ、いつの間に着替えたんだろうって」
「普通のことですよ・・・もしかして驚いてます?ミュリエルも出来ると思いますよ」
そうなんだ・・・やっぱり現世じゃないから出来ることなのかな。
「とりあえず軽く食べて、それから活動開始ですね」
私は頷いて答える。時間は限られている。それにお腹は空いていない。
「私、もう行きます。お腹は大丈夫。早く見つけてあげないと」
「分かりました。その意気です。気をつけてください」
「いってらっしゃい。何か危ないことあったらすぐにルシェルに連絡するんだよ。あと裏通りには絶対に一人で入らないように」
「忠告。ありがとうございます。それじゃいってきます」
私は立ち上がるとたくさんの天使やリンシ、レイスで溢れているこの店から始めることにした。ざっと見ただけだけど美有の姿はない。一応動けるところ見てみたけど私と同じ顔は見当たらなかった。最後に店員さんに聞いてみたが良い返事はなかった。
二人のところに戻ってあらためてお辞儀をして店を後にした。
表通りは昼とは比べものにならないくらい多くのモノ達が夜の世界を楽しんでいた。
みんな私服姿というのに天使の格好の私はかえって目立っているように感じる。それでも下駄の音をさせながら最初に目に付いたお店に入った。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
ドアを開けると同時にやってくる女の人。まだ若い。それに長い黒髪。
(この人もリンシだ)
そう直感する。たぶん合っていると思う。だんだんこの世界に、天使という立場に慣れつつあるのかもしれない。
「あの。ちょっと人・・・っていうかリンシを探してて」
「そうなの?」
「はい。私を同じ顔のリンシを見ませんでしたか?」
いきなり直球で聞いてみる。
「あなたと同じ・・・見ていないわ。それよりカウンター席でいいかな」
背中を押される形で席に案内される。
「えっと・・・お客じゃ・・・」
「決まったら呼んでね」
流されるまま席に案内されてメニューを渡される。これは何か頼まないとならないのだろうか。いまさら『すみません』と言って店を出るなんてちょっと気が引ける。
ならさっさと終わらそう。メニューを開く。そういえばここって何の店なの?
「・・・普通のカフェみたい。あのすみません」
私はアイスティーを頼む。そして半分まで飲んでから経費でお代を払う。
「ありがとうございました。見つかるといいですね」
店を出てちょっと反省。最初とはいえあまりにも収穫のなさと無駄に経費を使うことになるとは・・・ホントはもっと効率良くいきたいのに今はまだそのコツを掴めていない不甲斐なさに溜息も出る。おまけにお腹はガボガボ。これ以上なんか飲むなんてできない。
でも行かないと・・・その思いだけで次の店の扉を開ける。
結果はさっきと同じだった。その次も、その次も・・・
収穫は全然ないのにお腹だけがただ肥えてゆく。
初日から上手くいくなんて思っていない。けどこれから先も上手くいく保障はない。何か私なりの作戦を考えないと・・・じゃないとただお茶してるだけで終わっちゃう。
せめてなにか一つ。
まだ始まったばかりなのにもう挫折しそうな自分がいる。通りにある大きなガラスのウインドウに映る自分の姿を見つめる。
情けないなぁ・・・あんなに張り切っていたのに・・・今の自分の顔・・・嫌いだな・・・こんな情けなくて挫折しそうな顔って初めて見た・・・なにやってんだろ・・・私・・・
まだ続ける?それとも終わる?答えは出ないのに溜息だけ出る。
もう一度。
私は頭を振って気合いを入れる。やり方を変えるんだ。いきなり店内に入らずに外から様子を見る。そして気になったら店の誰かに聞く。強引に案内されそうになったら逃げればいい。
なんとも利己的なやり方。こんなやり方しか今の私には思いつかない。
「よし。次行ってみよう」
半ばヤケクソ気味にお腹をさすりながら歩き始めたところでタイマーが鳴った。
門限が近づいている。今夜はここまで。ジエンド。
何もない初日だった・・・・・・
☆★★☆☆☆
ガボガボのお腹を抱えたままランヴェルの人力車に乗っていた。
「おい。大丈夫か?なんか顔色悪いけどよ」
「・・・・・・ごめん・・・停めて」
人力車の揺れが良くなかったのか急に胃がムカムカしてくる。このままじゃ・・・
「・・・ちょっと待ってて」
ふらつく足取りで草むらに入ってゆく。
ランヴェルが心配そうに付き添おうとしたがこれから始まる姿なんて絶対に見せたくないから思いっきり断ると察してくれたみたいで
「待ってる」
私は返事もせずに奥に入って誰もいないことを確認する。その途端お腹が捩れる。
駄目・・・限界・・・・・・・
こんな姿。誰にも見せることなんてしたくない。人生の汚点だよ。
ホント、明日からはもっと効率良く、こんなことにならないようにしないと・・・
半分涙目になっていた。けれどだいぶスッキリした。
こんなんじゃ酔っぱらいのサラリーマンのこと悪く言えないよね。
二度と同じ轍を踏むものか、と決意してランヴェルの元に戻った。
それからの道中。ランヴェルは気を使ってゆっくりと進めてくれる。
おかげで私はウトウトしかけていた。
なんとか無事に寮に到着。
窓を見るとたくさんの灯りが点いていた。まだ消灯時間ではないのだろう。
早いとこお風呂に入って体中洗ってスッキリしなきゃ。
「ありがとう。明日も頼んでいい?」
「俺は仕事だから大歓迎だけど、あんま無茶すんなのよ」
「うん。もっと良い方法考えるよ。それとさ、街で私と同じ顔をしたリンシを見つけたら教えて欲しいの」
「ミュリエルと同じ顔ならすぐに分かると思う。分かった。見かけたら連絡するぜ。もしお前がいいなら探してること伝えてもいいけど」
その提案にちょっとだけ考えてみる。けれどいきなりそんなこと言ったら警戒される可能性もある。ここは一つ慎重に動いた方がいいのだろうな。
それに私と直接会った方が安心するんじゃないかな。
今の状況に驚いている可能性だってあるかもだから。
「そう言ってくれるのは有り難いけど、ホント教えてくれるだけでいい」
「ん〜・・・そっか。分かった。見かけたら教えるだけでいいと」
「お願い。じゃあまた明日。おやすみ」
「ああ、じゃあな。毎度あり」
いつものように風となって行ってしまう。
玄関の扉はすでに閉まっていたが押してみると鍵は掛かっていなかった。ゆっくり音を立てないように開けて中に入る。消灯時間が近いせいもあるのかな、玄関も廊下も最小限の灯りしかなかった。それでも真っ暗じゃないだけ有り難かった。
「おかえりミュリエル」
いきなりの声にビックリして振り返ると
「ハニエル?なんで?」
「待ってたんだ。そろそろ門限だし部屋に行っても返事なかったから」
「そうなんだ・・・ごめんね気を使わせて・・・ありがとう」
「ううん。いいんだよそんなこと。私が待っていたいから待ってただけだから」
ハニエルはすでに就寝の準備は出来ている。真っ白なパジャマ姿が可愛い。
「まだお風呂って大丈夫かな」
「うん。でも急いだ方がいいよ」
「分かった。じゃあこのまま行くね」
私は大浴場を目指すがそれより気になることがある。
「あのさ、もしかしてハニエルの部屋ってこっちなの?」
「ううん。私は反対の方。ミュリエルの隣りなの」
「あ、そうなんだ。それで?なんでこっちに」
ハニエルは私の隣りに来て腕を組む。
「ミュリエルのこと待ってたら身体が冷えちゃった。だから私も一緒に入ろうかなって」
「え?」
ちょっとだけビックリして反射的に声が出た。
「私と一緒は嫌?」
「えっと。そんなことないよ。ちょっとびっくりしただけ」
「じゃあ、いいのね」
「・・・うん・・・いいよ。私、初めてだからいろいろ教えてもらおっかな」
「うん。いろいろ教えてあげる」
私達は大浴場を目指す。ふと思う。やっぱりこれって拉致だよね。
さすが大浴場と謳っているだけのことはある。床も壁も真っ白な大理石で出来ている。それに三十人くらいはいっぺんに入れる浴槽も大理石だった。
おまけに・・・なんでカッパ?の口からお湯が勢いよく出ている。現世だとライオンのイメージなんだけどな。まあ、これはこれで可愛い。つい頭の皿を撫でてしまうのは自然なことだよね。
ナデナデ・・・これも大理石。
湯船にゆっくりと身体を沈める。
あ〜気持ちいい・・・疲れた・・・そんな感傷に浸っていると
「ミュリエルの肌ってキレイ」
「そうかな。だったらハニエルだって白くてキレイだなって最初見た時に思ったんだ」
「エヘヘ」
ハニエルは湯船の中で私の腕を取る。お互い裸だからちょっと恥ずかしいかも。でもさ女の子の肌ってなんでこんなに気持ち良いのかな。柔らかくてすべすべで。
「こうしてると気持ちいいね」
つい感想が言葉になる。ハニエルがさらに密着したのは気のせいではないよね。
「あ、あのさ、こんなにくっついて嫌じゃないの?」
「全然。ねえミュリエル。背中流してあげよっか」
「え。いいよ。自分でできるよ」
「私じゃイヤ?」
「イヤじゃないけど・・・でも」
答えに悩んでいると
「そろそろ終わるから急いだ方がいいかも」
「あ、うん」
結局ハニエルに流されるように私は身体を洗われてしまう。
ここの石鹸は身体も髪も洗える。泡がとても細かくて匂いも良い。
あっと言う間に泡まみれになったと思ったら頭から力強いシャワーで流された。
「はい。おしまい」
ハニエルが言った瞬間。大浴場の電気が消えた。
「あ、間に合わなかった」
「問題ないのかな?」
「うん。別に鍵がかかるとかじゃないから。暗くても見える?」
「大丈夫だと思う」
私達は腕を取り合ったまま脱衣所に到着した。そこは一つだけ灯りがあった。
「あのさ。ハニエル」
「ん?」
「何してんのかな?くすぐったいんだけど」
実はさっきから腕に違和感を感じていた。そしてその理由が判明。
「なんか美味しそうだったから」
ハニエルは私の腕にくちびるを押し当てていた。
美味しいって・・・もしかして食べられる?
「・・・おいしい」
今度は舌で腕を軽く舐める。あの・・・今背筋に悪寒が・・・
「・・・ちょっと・・冗談・・」
「ううん。冗談なんかじゃない。ご褒美ちょうだい」
「ご、ご褒美?」
「だって待ってたんだよ。ミュリエルのこと。ずっと気になってた」
ハニエルは今度は私の首にキスをするみたいにくちびるを押し当てる。
「・・・・・・」
それってどういうこと?気になってたって・・・なんで?
「あ、あの・・・ハニエル・・もう・・」
私が離れるとハニエルは名残惜しそうな顔をした。けれどそれ以上は迫ってくることはなかった。
「ごめんね。急に。先ずは服着ましょ」
ハニエルはさっきと同じパジャマを頭から被る。それは私の分も用意されてあった。同じように頭から被ってから
「喉乾いたね」
「そうかな・・・そうかも」
さっきのこともあったが今は不思議と気分が良いし体調だって戻っている。これってお風呂でさっぱりしたおかげかな。
寮の地下には自販機コーナーがあると説明を受けていた。どんなのが置いてあるか興味津々でハニエルの後に着いてゆく。
「はい。これ」
私が選ぶまでもなくハニエルはコーヒー牛乳を渡してくれた。
「学園初日お疲れさま。そして出会えたことに乾杯」
「えっと・・・ありがとう」
いろいろ聞きたいところだけど今は一口。
「・・・美味しい」
「ね」
「あの。お金」
「気にしないで。おごりだから」
「え・・・いいの?じゃ遠慮なく。ありがとう」
私達はしばらくコーヒー牛乳の味を堪能している。ここには二人きり。他は自分の部屋で消灯時間が来るのを待っているのだろうな。
「ごちそうさま。ありがとうハニエル」
「どういたしまして」
カラのビンを置くとハニエルは私のことをじっと見つめている。もしかしてまた腕を組むタイミングでも見計らっているのかな・・・なんて思って身構えていると
「調子よくなったみたいね。やっぱりチャレンジメニューが良くなかったのかな」
「え?ああ・・・そんなこともあったね。でも違う理由かな」
「そうなの?夜出掛ける時も帰ってきてからも顔色よくなかったから」
「そっか・・・そんなに体調悪そうに見えてたんだ」
「うん。分かるんだ私、そういうの。匂いで」
匂い・・・臭いとか?思わず自分の腕の辺りをクンクンしてみる。けれど石鹸の匂いしかしない。
「これは私の能力なの。そして私にとって美味しいものなの」
「それって・・・どういう・・・」
「まだ時間大丈夫だから部屋で話さない」
「部屋・・・じゃないと駄目なの?」
「うん。だって。こんな薄暗いところにいたらミュリエルの純潔をどうにかしたくなる」
「え?ちょっと冗談・・・だよね」
「うん。冗談。でも半分は本気」
一体どっちなの?でもこれ以上ここにいるのは良くないよね。それに身の安全も心配・・・かな。
「いいよ。行こうか」
「じゃあね・・・ミュリエルの部屋でいい?」
「え?今日からだから何もないよ・・・私はいいけど」
「みんな似たようなもの。私の部屋には今度招待するね」
ハニエルは当然のように腕を取って歩き出す。
あ〜・・・なんで私はこんな拉致られる体質なんだろう・・・
そんなことを思いながら暗い廊下を辿って部屋に戻っていった。
いよいよゴールデンウィークも終わりが近いですね。
読んでいただきありがとうございます。
天気は大雨だったり晴れたり。あと満月があったり。まあ忙しいこと。
私も仕事であっちこっち・・・温泉に行きたい。衝動的に。
アップの回数を減らす代わりに文字数を増やしておりますが、
かえって読み難かったら文句の一つでも言ってください。
それでも読んでいただけたら喜ばしいことこの上ないです(深々お辞儀)。
ではまた次回にお会いしましょう。




