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ワタシ死ねないみたいです。あと○○になる方法、探してます。  作者: マナマナ


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天使ミュリエルです。(仮)ですけど

「うわ・・・・・・ここも大きい」

 目の前に聳える白亜の城。言われなければここが学園だなんて思わないだろうな。


 メイドさんの案内で大きな扉を開け中に入ってゆく。

 午前中ということもあって幅広の廊下はとても静かで私達以外の姿を見ることはなかった。


「これから教室に行くの?」

「先ずは職員室に行って挨拶をします。教室はそれからになります」

 私は頷いて答える。廊下には私の下駄の音がヤケに大きく響く。今になってメイドさんって何履いているか気になって、つい視線で確かめてしまう。

「あなたの靴ってブーツなんだ。どうりで音が聞こえなかったんだ」

「はい。そうです。それが何か?」

「私達って下駄でしょ。あなたも下駄なのかなって気になって」

「そうですか」

 メイドさんはそれ以上何も言わなかった。というかすでに職員室の到着していた。扉を軽くノックしてメイドさんは私の方に向きを変えて

「私の案内はここまでになりなす。楽しい学園生活を」

 一礼して踵を返して行ってしまった。

「あの、ありがとう」

 後ろ姿に声を掛けるとちょっとだけ振り返いてニコッと笑顔で返してくれた。そういえば笑った顔を見たの初めてかも。


「どうぞ。中に入りなさい」

 言われるがまま扉を開ける。音もなく重くもない扉だった。

「失礼します」

 一歩足を踏み入れると目の前に女性の天使がゆったりとした立ち姿で出迎えてくれた。

 長くてキラキラと光を反射している金色の髪が目に映る。

 この天使は?

 もしかして担任なのだろうか。そんなことを思いつつ、つい見入っていると


「この学園の校長をしているサリエルです」

 まさかの校長自らの対応。反射的に深々とお辞儀をしてしまう。

「初めましてミュリエルと言います。本日からよろしくお願いします」

「カーリ様より伝令を承っています。あなたのことは大まかに聞いています。ホントの天使ではないこと。現世とまだ繋がっているリンシだということも」

 これってさ、なんだか普通の世間話みたいだよね。転校生ってこんな感じになるのかな。


 死んでから地獄という世界で経験していることが本当に現実のことなの?

 私の混乱はますます深くなってゆく。


 とはいえ今の私は天使だ。仮というのが付くけど。

 正直。こんなことになるなんて死ぬ瞬間まで考えたことなかったし自分の知識の範疇を越えている。想像すらできなかった、というのがホントのところ。

 この貴重な体験は今後の私の人生にどんな形で影響を及ぼすのだろう。きっとそんなこと考えるだけ私自身の範疇を越えたことだろうな。


「あの、質問をお許しください。私はこの学園で何をしたらいいのでしょうか?」

「何を?仮でもあなたは天使です。生徒として学園生活を楽しむことが一番の目的になります。いずれ現世に戻ればここでの記憶は失われてしまう。それまではここのルールに沿って行動してもらいます」

「(やっぱり)・・そうなります・・・よね」

「しかし。現世に戻っても満月の時に思い出します。カーリ様との契約が終わらない限りこのサイクルは続いてゆくでしょう」

 それも変わらないんだ。多分そうなるって心の準備は出来ている。私の人生って終わるまでずっとこの世界と繋がっているんだろうな。

 その結果。私は何を得るのだろう?カーリ様達は何を得るのだろう?

 答えは私が本当に死んだ時に分かるのかもしれないし教えてもらえないかもしれない。


「では行きましょう」

「はい」

 校長先生の少し後ろを歩く。

 教室に着くまでにどこにトイレがあって食堂があって、そんな普段のことを話してくれた。

 さらに廊下の窓から見えるのは校庭だろうな。キレイな緑色をした芝が敷き詰められている。ネットに覆われたテニスコートだって見えた。もしかしたらプールだってあるかもしれない。

 天使達の泳ぐ姿なんて想像なんてしたことないから興味がある。っていうのは建前で本当は自分の水着姿が見たいのかもしれない。学園生活。悪くないかも。なんか呑気なことを考えてるよね。


 こういうのって現世の学校となんら変わらない。

 

 一つだけ分からないのは天使って何を勉強しているのだろう?まさか数学とか現代文なんてことはないよね。きっと天使的何かなんだろうな。それはちょっと楽しみかな。


「この教室です」

 校長は軽くノックしてから白いドアを開けると中に入ってゆく。私も続いて足を踏み入れると同時に軽くお辞儀をする。ちょっと緊張しているのかな。なかなか教室全体を見渡して見ることができない。少しだけ俯き加減でいると

「ミュリエル。顔を上げなさい」

 言われて顔をゆっくりと上げる。

 どこにでもある普通の学校の教室みたい。30人くらいの生徒天使達が私のことを見ている。

「こちらが担任のラグエルです。ではみなさんに挨拶を」

 ここのクラス担任は栗色の長い髪を後ろで一つに纏めていて、口元には常に微笑みを讃えている品の良さそうな女性の天使だった。

「あの・・・初めまして。ミュリエルと言います。えっと実は天使になったのはつい今しがたでまだ仮がついています。しばらくの間ですがみんなと仲良くなって学園生活を楽しめたらって思ってます。よろしくお願いします」

 頭を下げると天使的な上品な拍手が降り注ぐ。思わずみんなの顔を見ると『仮』ってなんなの?みたいな表情をしていた。

「みなさん。ミュリエルがこの学園にいるのは新月までになります。短い期間ですが同じ天使です。仲良く接しましょう」

 担任の言葉で今まで静かだった教室に静かなざわめく声が聞こえる。まあ、内容は想像通りだよね、多分。


 なんか懐かしさを感じる。現世で自己紹介した時のこと思い出しちゃってるよ。

 これ以上考えたら泣いちゃいそう・・・駄目だ。こんなんじゃ。

 天使になったんだ。そろそろ泣き虫は卒業しなきゃ。泣くのは最後まで取っておくんだ。それまでは何があっても泣かない。私は拳に力を入れて密かな決意をして呼吸を整えてグッと堪えた。


 それにしてもこの世界も現世と同じように命の循環が為されているのかな。

 人間の命と天使の命って一体何が違うのかな?違いがあるとしたらそれってなんなのだろう。

 ふとそんな疑問が頭に過る。

 だって。神とか天使って永遠に生きる存在だと思っていた。

 けど実際は違うのかな・・・・・・


「それでは一番後ろの席があなたの席になります」

「は、はい」

 机の間を席まで歩いてゆく。下駄の音がカラコロと響く。その間、ずっと注目されている。そんな視線を身体全体に感じていた。以前も経験している視線だから全然平気なんだけどね。

 私の席は窓側の一番後ろ。ある意味現世でも定番の位置。

 教室の後方にはそれぞれの小さなロッカーが備え付けられていてホワイトボードには張り紙が幾つか貼ってあった。こんなところも変わらないなぁ・・・・・・


「初めまして。よろしくね。ミュリエル」

 隣りの天使が優しい声で話し掛けてくる。こういう展開だって定番だよね。

「よろしくお願いします。えっと・・・」

「私はハニエル」

「分かったハニエルね。よろしく」

「私、学級委員しているから何かあったら聞いてね」


 学級委員なるものも存在している。もう簡単には驚かないんだから。

 

 彼女のとても白い肌は天使の象徴みたいだし、腰まである飴色の髪は三つ編みで纏められている。解いたらどこまで長くなるのかな。一番目を惹いた印象的な淡い水色の瞳が湖を連想させる。言葉のように穏やかで優しさが浮かんでいるみたい。

「うん。ありがとう」

「必要なモノは机の中とロッカーに入っている。もし足りないモノがあったら遠慮なく言ってね」

 言われた通り机の中を見ると教科書の類いにタブレット端末が入っていた。周りを見るとみんな机の上にタブレットを用意してあった。私も習って同じように机の上に置く。

「みなさん準備は整ったみたいですね。それでは授業に入ります。タブレットを起動してください」

 ラグエル先生の言葉を合図にみんな画面をタッチする。

 当然私も同じようにタッチすると電源が入る。すでに私の情報が入っているようで


『おはようございます。ミュリエル。今日も一日楽しみましょう』


 というメッセージが画面に表示されている。さらにタップすると

「え?これって」

 目を擦ってもう一度確かめてみる。この画面はどう見ても

「数学・・・だよね。これって。必要?」

 やはり、というか理解に苦しむ。かなり訝しんでいると

「どうしたの?」

 ハニエルが声を掛けてくれた。

「あ、うん。数学ってあるんだなって」

「変なこと聞くね。当たり前でしょ。そんなに驚くこと?」

 そっか。当たり前?なんだ・・・受け入れないと・・・でも数学ってちょっと苦手なんだよね。

 この世界において現世の法則が当てはまるなんてあまり思えない。

 だってここは地獄だし、高層ビルの屋上には天界がある。そんな世界だよ。

「あんまり得意じゃないんだよね」

「なんだ。そんなこと気にしてたの?」

 そんなこと・・・なんだろうな・・・・・・

 ・・・・・・仕方ない。やりますか。やりますとも。


☆★☆★☆★★


 数学の授業が終わるとお昼休みを知らせる鐘が鳴り響く。ということでみんな揃って食堂に移動を始めている。


 私はというと久し振りの数学で頭から湯気が出ているみたいに疲れてぐったりぐんにゃり。なんだか口から魂が抜けてゆくアニメのシーンが当てはまりそう。


「一緒に行きましょう」

 虚ろな私に声を掛けてくれた学級委員のハニエルが私の手を取る頃になってやっと言葉が脳に届く。

 そっか。お昼・・・今日は朝からいろいろ考えることが多かったせいもあって気分転換したい。

 いいねぇ・・・お昼だからご飯を食べる。地獄でもお腹は確実に空くんだよね。


 ハニエルは親切な天使だ。けど手とか急に取られるとちょっと・・・かなりドキドキするんですけど。

 そういえば今井さんも私のこと心配してくれてるのかな。

 現世に帰ったら写真部に正式に入部して、一緒に甘いもの食べたり、いろいろな話題でお喋りしたりして高校生活を充実させたいな。もちろん写真のことだってちゃんと教えてもらいたい。


「なんで笑ってるの?」

「え?・・・そう?ちょっと思い出し笑いしてたかも」

「ふ〜ん。それって聞いてもいいの?」

「えっと、今みたいなことちょっと前にもあったなって。その時は手じゃないくて腕だったけど」

「へ〜。そんなこと言われると・・・」

 ハニエルは私と腕を組むと満足そうな笑顔で

「これで同じでしょ」

 こっちでも向こうでも私にこうしてくれる存在がいるなんて笑うしかないよね。

 この拉致られているって感じが今はとても愛おしい。 


 そのままの格好で廊下に出るとたくさんの天使達が同じ方角に向かって歩いていた。

 とても穏やかに。誰一人として『我先に』なんていない。ここにはちゃんと秩序がある。

 比べて現世では食欲の塊のような生徒達がこぞって購買なり学食に向かっていた。ある意味競技さながらのデッドヒートが毎日のように展開されていたよね。

 まあ、気持ちは分からないでもないけどさ。

 だから今の光景がとても素晴らしいことに見えるのは仕方のないことだよね。この世界の流儀を現世に持ち帰って実践できたらどんなに平和なのだろう。でも現世に帰ったら記憶はなくなってしまうから駄目なんだろうけど。


「誰も走っていない」

 つい言葉になる。

「ミュリエルって変なこと言うね。当たり前でしょ。私達天使には品が求められるの。走る必要なんてないのよ。いつも心穏やかに、だよ」

「・・・そっか。心穏やかに・・・なんかいいね、そういうの」

 ハニエルもだけど他の天使達だって私がついさっきまでリンシだったことなんて知らないんだろうな。それって言った方がいいのかな?それとも敢えて言う必要はないのかな?

 どっちにしても特に制約を受けているわけではないんだけど。

 少し考えて、私が元人間だったというのは言わない方がいいのかもしれない。そんな結論に至る。別に隠しているわけじゃないし、もし聞かれたら素直に答えればいいし、そのことがここでの生活に支障があるわけではない・・・と思いたい。

 そんなこんなを考えていたら


「着いたわ。ミュリエルはなに食べる?」

「なにって・・・なにがあるの?ハニエルは何を食べるの?」

「私はね。今日はクラブハウスサンドウィッチのセット」

「へぇ〜・・・クラブ?・・・私はメニュー見て決めよっかな」

 クラブハウスサンドウィッチ・・・聞いたことない。ミックスサンドとは違うのだろうけど名前から察するにかなりオシャレなサンドウィッチだろうな。おまけにセットメニューって。

 そういえば現世で学食を利用したことがない。これって向こうにもある常識なの?

 確かめるにはあまりにも学校生活が短かった。

 いずれ学食には行こうと思っていた。ずっとお母さんがお弁当を用意していてくれたからなかなかその機会は訪れなかったけど。


「・・・みんなここでご飯食べるんだよね」

「そうだよ」

「あのさ。お弁当とか持ってくる天使っていないの?」

「お弁当?いないよ。だってみんな寮生活だから全部コミコミなの」

「そうなんだ」

「そんなことも知らなかったの?」

「あ、うん。だって・・・」

 その先を言おうか迷っている時に私達はカウンターに到着していた。


「いらっしゃい。何にする?」

 声を掛けてきたのはカウンターの向こう側にいる真っ白なエプロン姿でマスクをしている天使だった。

 こんなこと思うのは失礼かもしれないけど、いかにも『食堂のおばちゃん』って言葉が似合いそう。


「クラブハウスサンドウィッチのセットでドリンクはカフェモカをホットで。ミュリエルは?決まった?」

「あ、ごめん。まだ」

 カウンターの上に設置されているメニュー表を見ると

「たくさんあるんだ。すぐに選べないよ・・・」

「全部食べてもいいのよ」

「え?いやいやさすがに冗談でしょ。そうだな・・・」

 一応ざっと全部見てから一つの品に目が停まる。

「あ。あれがいい。あれにする」

 指差す先にあったのはランヴェルに教えてもらったあのメニューだった。

「あの『地獄の豆丼』がいい」

 ハニエルは急に目を丸くして腕を外して真剣な顔で私のことを覗き込むように見て

「本気?本気で言ってる?」

「え?うん・・・本気だけど」

 言葉を言い終わった瞬間

「地獄の豆丼、入りました!!!」

 カウンターにいた天使が大声と一緒にドラを鳴らす。大きな音が食堂全体響く。思わず耳を塞いでしまった。

「な、なにごと?」

「初日から勇気あるね。応援したいけど・・・ううん、ミュリエルが決めたんだもんね。頑張って」

 ハニエルは私の両肩に手を添えて言う。

「え?え?どういうこと?」

 周囲が活気づいているのは気のせいなんかじゃない。さっきまでの穏やかさはどこに?

 ・・・嫌な汗が出てきそう・・・いや出ている。説明が欲しいんだけど・・・

「だって『地獄の豆丼』って一年に一回出るかどうかのチャレンジメニューなんだよ」

「え?チャレンジ?・・・だって昨夜街で食べたのはすごく美味しかったよ」

「あ〜・・・そっか。あの店と比べてるんだ。悪いこと言わないからキャンセルした方がいいと思うけどな」

「でももう注文しちゃったし、それに・・・」

 私達の周りには天使達が集まっていて注目の的になっている。視線が・・・凄いんですけど。

 今さら引き返すにはもう遅い・・・ような気がする。

「なんかさ、引き返せない・・・ような気がするのは気のせいなのかな?」


「お待ちどう。『味自慢地獄の豆丼』だよ。制限時間は三十分。席に着いたらスタートのドラを鳴らすからね。残すんじゃないよ」


 今。私は何を見ているのだろう。

 それは昨夜見たモノとは全くの別物。赤い。とにかく赤い。この世界のどこかにある『血の池地獄』を連想してしまった。見ているだけで熱さも伝わってくる。マグマの様に『ぐつぐつ』と音と一緒に文字が浮かんでいるみたいだよ。どうなっちゃうの私。今。一筋の汗が頬を伝うのを感じる。

「ミュリエルって度胸あるね」

「・・・言ってくれた良かったのに」

「注文したのはミュリエルだからね。私も本物見るの初めてなのよ。先に言っておくね。手伝ってあげること私には絶対に無理だから」

「・・・・・・・」

 すでに思考と言葉を失った私はトレーに置かれたチャレンジメニューなる品を反射的に持つ。

 そして席に向かおうと歩き出すと集まっていた天使達は道を開けて通してくれた。

 こんな状況。ますます後には引けないよ。おまけに私が通り過ぎたあとからは

「がんばれ」とか「おうえんしてる」

 賞賛にも似たエールを次々と受けることになった。


 あ〜・・・味は想像するまでもない。辛いの平気だったっけ?

 まさか転校初日にこんな注目されることになるなんて思ってもいなかった。

 今はみんなのエールに苦笑いで返すことしかできない。


「それじゃ準備はいいかい?始めるよ。スタート!!!!」

 掛け声と共に再びドラの音が食堂に響き渡ると今まで以上の歓声が上がる。


 周りの熱気を感じながら私は心を穏やかに深呼吸する。

 そして。

 レンゲを持って小さい一口を乗せる。口元まで持ってきただけで味が分かる。舌先で味を確かめてからイッキに口の中に放り込む。まだ始まったばかりなのにそれだけでまた歓声が上がる。


(もぐもぐ)・・・ん・・・?


「・・・美味しい」

「ホントなの?本気で言ってるの?」

 心配そうな顔をしたハニエルが正面に座って聞いてきた。彼女の前にはあのクラブハウスのセットがある。なんともオシャレで優雅なランチ。味だってオシャレで優雅なんだろうな。

 そんなことを思いつつ一口目の感想をあらためて言う。

「うん。今のところ美味しいかなって」

「そうだろ。味には自信がある。さ、早くしないと時間がなくなるよ」

 カウンターからも声が掛かる。

 確かにちょっと辛いけど食べれないことはない。もしかして天使達って辛いもの苦手なのかな?私でも食べれるんだよ。現世にはこれよりえげつない辛い料理があるって教えたいくらい。

 今度は思い切って大きく二口目。

 辛い。けどちゃんと旨味も感じる。昨夜とは別物だけど、これはこれでアリだと・・・私、完食できるんじゃないかな・・・食欲にエンジンが掛かったみたい。軽快に食べ進めていた。


☆★★★☆☆


「・・・ん?」

 ここどこ?学食は?チャレンジメニューは?

「あ、気がついた?」

 真っ白な天井が見える。それに覗き込む顔。

「・・・ハニエル?私・・・」

「よかった。心配したんだよ」

「え?・・・なんで?」

「だってミュリエルってば食べ終わると同時に気を失ったんだよ」

 言われて理解するまでに時間が掛かる。気を失った?いつ?全然記憶にない。

「・・・ここって?」

「保健室。みんなで運んだんだよ。でも凄いね。完食なんて。みんな驚いていた」

「そっか・・・私・・食べたんだ。・・・ハニエルに迷惑かけちゃったね」

「そんなことないよ。みんな凄いって大騒ぎだったんだよ。料理長なんて『負けた』って泣いてた」

「あはは・・・そんなことに。なんかごめんね。穏やかじゃなくて」

「気にしないでいいよ。それより具合どう?起きれる?」

 身体を起こしてみる。特にこれと言った不具合は感じない。

「ありがとうハニエル。もしかしてずっといてくれたの?」

「ううん。でも午後の授業が終わってすぐに来た」

「え?終わった?」

「うん。部活も終わって下校時間だよ」


 初日に倒れて授業サボって・・・何しにこの世界に来てんだろ。特例で天使にまでなって。こんなことじゃルシェルに文句言われるよね。それにカーリ様にも今日のことは報告されているだろうな。後で何か言われなきゃいいけど。


「もう大丈夫」

 私はベッドから出てキレイに揃えられていた下駄を履く。ハニエルも立ち上がると自然と私の腕を取る。同時に下校時間を知らせる鐘が鳴った。ドアの開く音もする。そこにはラグエル先生の姿があった。

「起きましたか」

 私は反射的に頭を下げるとハニエルも腕を外して隣りに立って同じようにお辞儀をした。

 午後ずっと寝ていたという初日にとんでもない失態を晒した挙げ句授業をサボったんだもんね。

「あの。すみませんでした。気を失うなんて思ってもなかったというか・・・」

 え〜と、他にもっとなんか言葉ってないのかな?出てくるのは謝罪と弁明しかないんだけど。

「聞きました。あれに挑戦したと。なかなかやるじゃないですか」

 あれ?これってもしかして褒められている?

「でも授業をサボタージュするのはいただけませんね」

 やっぱりそこはツッコミ入るよね。

「ほんと、申し訳ありません。あんなメニューがあるなんて知らなかったんです」

「まだ知らないことが多いから仕方ありません。今日のことは大目に見ましょう。勝負に勝ったご褒美だと思ってください。それにあなたはこれから。夜が本番と聞いていますよ」

 怒られることはなかったが確かにその通りだ。夜になったらもう一人の私、正確には本物の相楽美有を探す。これが本来の目的。気合いを入れないとね。

「迎えが来てますよ」

「迎え?」


 玄関に向かうと着実に夜が始まっている。まだ微かに陽の光が残っているが昨夜みたいな濃い闇がこの世界の空に迫ってきていた。


「やっと出てきましたね」

 微かな光に浮かび上がる姿があった。

「ルシェル。ごめん。待ってた・・よね」

「待ちましたよ。まあ大した時間ではないし。今日は残業です」

「残業・・・?」

「当たり前です。報酬のない仕事はしない主義なので。では早速行きましょう」

「ミュリエル・・・帰らないの?」

 一緒にいたハニエルが不安そうな顔で聞いてくる。

「ごめん。ハニエル。また明日。私、行かないと」

「・・・行くってどこに?」

「ごめん。遅くなるけどちゃんと寮には帰るから今はまだ・・・」

「彼女は特別な理由があって今この学園に通っているのですよ」

 遅れてやって来たラグエル先生がハニエルに説明する。

「それは新月までに解決しないとならないこと」

「解決したらどうなるんですか?」

「もちろん学園を去る。そしてミュリエルは・・・」

「おっと。先生。それ以上はまだ」

 ルシェルが制すると

「ああ。そうでしたね。大丈夫。信用してください。みなまでは話しません」

「それでお願いします。それと、ハニエルでしたか。今のことはあまり気になさらず学園ではミュリエルと仲良くしてくれますね」

 ルシェルの言葉に静かに頷く。

「じゃあまた明日」

「うん。明日。それといろいろありがとう」

「ううん。だって学級委員だから。明日も一緒にランチしてくれる?」

「もちろん。私からもお願いします。おやすみハニエル」

 私は感謝を込めた言葉と笑顔で答える。微かな夕陽のせいかもしれないけどハニエルの頬が薄ら赤く染まっているように見えた。

「うん。おやすみミュリエル」

 ハニエルは下駄の音をさせながら夕闇の中に消えていってしまう。やっぱり私がリンシだったってことは内緒にしておいた方がいいのかもしれない。っていうのをみんなの会話を聞いていて出した答えだ。

「理解が早くて助かります。じゃ行きますよ。では失礼します」

 見送ったルシェルの言葉に続いて

「はい。先生、また明日」

 お辞儀をしてルシェルと共に街に向かって歩き出した。


★★★★★


「先ずは作戦会議をしましょう。行きつけの店がありますので飲みながらでどうですか?」

 先を歩くルシェルが提案するので頷いて同意。確かにあれの後だから口直しに何か飲みたいと思っていたところだった。

「それと。同僚が一緒ですが構いませんか?」

「同僚?」

「はい。多分会ったことあるはずです。最初です。覚えています?」

 私は初めてこの世界に来たことを思い出す。確か・・・

「あの天使かな?髪の青い・・・」

「そうです。正解です。アヴェルです。先に行って席を確保していると思います」

「ふうん。そうなんだ」

「それで彼女にも事情を話してあります。なんたってもう一人の担当ですから。もし彼の方にも何かあるといけないので情報は共有しておいた方がいいと思うんです」

 言われて思う。確かにその通りかも。でも向こうは今のところ特に問題を抱えているようには思えない。

 偶然だったけど公園で会ったんだよね。お互い記憶がなかったけど今にして思えばあの親近感あったの納得。なんたって元の私自身だったんだもん。満月の夜には向こうも思い出すんだろうな。

 それにしてもなんか出来過ぎた出会いだった。偶然って確率はちゃんと数字に出来ないところが未知数だよね。


「着きましたよ・・・って聞こえてます?」

 ルシェルの言葉で我に返る。

「あ、ごめん・・・考えごとしてた」

「変わっていないですね。そういうところ。ま、単なる世間話でしたし本題はこれからです」

 ルシェルが先に店に入って私はその後に入る。

 店内はなかなか繁盛しているみたいでアッチコッチからいろいろな話し声が溢れている。どの声も明るくて楽しそうだった。

 でも・・・

「あのここって何のお店なの?」

「飲み屋です。行きつけの」

「え?飲み屋って・・・未成年なんだけど私」

「知ってますよ。だからって問題ありません。お酒以外にもソフトドリンクもたくさんあります。それに私はまだ勤務中。お酒なんか飲んだらカーリ様にどれだけ怒られるか分かったもんじゃありませんので」

 そっか。こういうお店って別に大人じゃなきゃ駄目なんてルールないんだ。


「あ。来た来た。ここ」


 奥の方から声がする。その声はあの時、初めて会った東屋のことを思い出す。

「お待たせしました」

 合流するとすでに泡を蓄えている金色飲み物を飲んでいた。それに天使の格好じゃない。これって私服ってことでいいのかな?

「は、初めまして」

「聞いてるよ。あの時のでしょ。ふ〜ん・・・」

「なに舐め回すように見ているんですか。お互い自己紹介してください」

 ルシェルの突かれて彼女は自分の隣りの席を手で叩く。どうやらここに座れってことみたい。

「まあまあ。で、どう?」

「どう・・・とは?」

 座るといきなりお酒臭い息で聞いてきた。

「だから、本物の女の子になった感想」

「それは・・・嬉しいです」

「だよね。あの子も毎日楽しそうだし。あ、そうそう。あたしアヴェル。よろしく」

 やっと自己紹介。

「ミュリエルです。こっちこそよろしくお願いします」

「なんで普通に飲んでるんですか。ちゃんと話し合いできます?」

「だって今は非番だから飲んだって問題ない。あとさ、ルシェルあんたさ、口ではそう言ってるけど顔は物凄く飲みたいって言ってるからね。くう〜・・・仕事の後の一杯は最高。ぷは〜」

 再びグラスを傾けて一口、というかイッキに飲み干して

「すみませ〜ん。お代わり。ついでにあなた達も注文したら」

「ずいぶん見せつけてくれますね。この借りはいつか返します。私はノンアルビール。ミュリエルは?」

 ルシェルはメニューを渡してくれた。ノンアルって・・・そんなにお酒って飲みたいのかな。メニューにはたくさんのドリンクがある。ほとんどがアルコール入りだけど隅の方に数えるくらいのソフトドリンクがあった。

「えっと・・・このクラフトコーラってので」

 アヴェルが私達の注文を通してくれる。

 少しずつだけどだんだんこの場の雰囲気に馴染んでくる。

 あらためて周りを見回すとたくさんの・・・ここには私達と同じ天使や天界からの天使、それにリンシがいるんだろうな。あとレイスだっけ?

 私にはまだ誰が何かなんて判別はつかない。

 美有は今この世界のどこにいるんだろうな。不安になっていないかな?怖がっていないかな?・・・お腹空いていないかな?


 私のこと・・・恨んだりしていないかな・・・


 とにかく始まったんだ。始まったばかり。

 けど。こんなこと早いとこ終わらせて現世に帰りたい。私達には待っている人がいるんだ。 


 私はあなたを見つけるためだけに天使になった。仮だけど。

 ミュリエルって可愛い名前まで付けてもらったんだよ。


 あなただけの天使なの。あなたのことは私が見守っている。見守っていたい。


 喧噪渦巻くお店の中で私は静かに決意した。

あれ?今ってゴールデンウィーク?

読んでいただありがとうございます。

毎年この時期は仕事が忙しいのでまともに休日として過したことありません。

でもみなさんは楽しんでください。←なに目線?

そんな中で読んでいただけることに幸せを感じている私です。

物語どうですか?まだ面白いとかそうじゃないか判断できないかと思います。

私としては面白く、ワクワクできるように。そんなこと想いながら書いてます。

まだまだ先は長いのでお付き合いしていただけると嬉しいです。

そんなこんなでどんな展開になることやら。

次回もよろしくお願いします。

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