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ワタシ死ねないみたいです。あと○○になる方法、探してます。  作者: マナマナ


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こっちの世界で

一ヶ月振りに投稿を再開するマナマナです。

この間いろいろ考えたり、景色を見たり、街を散歩したり。

ずいぶん頭の中が空っぽになったと思います。

そして方向性も決まりました。

しばらくは『地獄編』ということで物語を進めていきます。

また読んでもらえたら嬉しいです。

それでは只今より開幕します。

 目を閉じると楽しかった日々が思い出される。

 少しだったけど私は望み通り女の子として生きていた。

 

 それはとても素敵なことだった。


 でも仮初めだった。

 私は自分の望みのために他人を犠牲にしていた。


 そんなことは望んでいない。


 他人を踏み台にして得た幸せほど不幸なことはない。


 私はみんなが幸せになれる世界を望んでいる。

 天国はきっとある。どこかにある。


 だから今はまだ死ぬことなんてできない。



 どこにいるの?

 

 絶対探してあげる。一緒に帰ろう。私達の世界に。

 会いたい人に会おう。

 そして

 二人で着たいね・・・ウエディングドレス


☆★★☆☆★


 カーリ様との話し合いの末。


 次の新月までにリンシとして地獄を彷徨っているもう一人の私、本物の美有の魂を探し出すこと。

 じゃないと新月の夜。あの天使によって今度こそ完全に魂と肉体は分断されてしまう。

 

 というのがカーリ様の予想でもある。それまでに肉体に戻る。

 

 これが私達が生きることができる可能性の最低条件だった。


 私も今はリンシという状態だ。このままでは地獄で自由に動くことが難しいらしい。詳しくは聞いてないが都合が悪いことだけは分かった。


「今から相楽美有を天使(仮)にする」


 カーリ様の提案をすぐに理解することができない。今、なんて?

「え?私が天使?そんなこと可能なんですか?」

 驚く私。カーリ様は最初に謁見した時の笑みを浮かべて

「ふふふ・・・私は上級天使である。簡単なことだ」

「上級・・・」

 カーリ様は手をパンパン叩くと再び先程と同じメイドが私の目の前に一枚のカードを置く。

「えっと・・・これは?」

「天使の証明書だ」

 天使の?なんだって?

 マイナンバーカードみたいな真っ白なカードを見る。

「あ。私の顔・・・名前・・・違うけど」

 いつの間に撮られていたのだろう。顔写真がある。それに名前・・・って誰?

「天使になった。名前を変えてもらう。これは決まり事だ。そして再び人間に戻った時には本来の名前に戻ることになる」

「・・・はぁ・・・そうなんですか」


 驚く私は体全体が薄らとした淡い光に一瞬包まれる。


「あの・・・今のって」

「天使に認証された。驚いているかね?」

「それもありますが簡単なんだなって・・・本当に天使になったんですか?」

「あくまで仮だがな。これで自由に動くことができる。地獄ならどこでも行き来ができる資格を得た」

 私自身は特に変わった感じはしない。

「相楽美有改め『天使ミュリエル』になった」

「・・・ミュリエル」

「気に入ってもらえたかな?」

「はい。とてもかわいい名前です」

「うむ。それではしばらくはルシェルの後についてこの世界のことを学習するといい。よいなルシェルも」

「まあ。そうなることは承知の上です。可愛い後輩ということでお願いします。ミュリエル」

 ルシェルは私のケーキに手を伸ばそうとしているところだったので慌てて自分の方に寄せて

「よろしくお願いします。ルシェル先輩」

「そんな呼ばれ方は正直つむじが痒くなるのでお互い呼び捨てでいきましょう」

 つむじが痒い?私は意識してみたけどその感覚は分からない。

「分かりました。ルシェル。これからよろしくお願いします」

「任せて。早く見つけてあげましょう。ところで・・・」

 ルシェルは私の顔をじっと見つめて

「食べないなら貰ってもいいですか?」


 視線は私の分のケーキに向けられている。そんなに欲しいのかな?

 これからいろいろ教えてもらう立場だし・・・ま、いっか。


「いいよ。はい」

「ホントですか。では遠慮なく・・・」


 余程食べたかったのか、ルシェルは三口で食べてしまう。

 なかなか気持ち良い食べっぷりである。これで満足したのかな・・・と思っていたら次のターゲットは・・・といった感じで


「あのカーリ様・・・」

「なんだルシェル」

 ハンターのような視線がカーリ様の手つかずのケーキに向けられている。

「よかったら私が請け負いましょうか?」


 答えを聞く前に許可なく手を伸ばそうとした、その瞬間。


「馬鹿者!」


 屋敷全体に響き渡るほどの大きな声がルシェルに襲いかかった。

 言うまでもなく真っ白な髪の毛は逆立つし、音圧で椅子ごとひっくり返った。


「うつけ者。これは私のだ」


 カーリ様の美しい翠色の髪の毛先が今の感情を表すように逆立っている。ルシェルは椅子と一緒に立ち上がる。髪は依然逆立ったまま。重力を完全に無視している。


「あの、急に大きな声出すなんて聞いてません。職場じゃないんですよ」

 座り直して残っていたお茶を飲むとやっと髪の毛は元に戻っていった。

「お前があまりにも意地汚いからだ。このケーキは現世で腕を振るっていた有名パティシエのものだ。簡単には手に入らん品だ。それをロクに味わいもせずパクパクと」

「ああ。あのお店のヤツでしたか。どうりで美味しいはずです。確か表通りをちょっと入ったところにお店がありますよね。連日行列で」


 こういう話題って地獄での会話じゃないよね。でもちょっと疑問。


「あの」

「今度はミュリエルか」

「その人って死んだからここに来たんですよね」

「当たり前のことを聞いてどうする」

「そうなんですけど・・・死んでからお店って出せるのかなって」

「本人が望めば出来ないことはない。しかし。それには厳しい審査を受けて許可が必要になる。資格が認められた場合のみ初めて街に残ることができる。本来なら何らかの償いなりを果たした後、再び現世に戻って新しい命の営みを始めるのが通例だ」


 そんなことがあるなんて・・・じゃあ何、もしかしたら昔の偉人とかに会えたりするのだろうか。


「あの・・・結構いたりするんですか?現世に戻らずこの世界で生きてゆく人って」

「だから街がある。彼らのことはここでは『レイス』と呼ばれている」

「レイス・・・・・・なんでその人達はこの世界に留まっているのですか?」


 カーリ様はやっとご自分のケーキにフォークを入れる。無言で見ていたルシェルはどことなく悲しそうな顔をしていたように見えたのは気のせいではないだろうな。


「一言で言えば自分が今まで培った技術を失いたくないということだ。生まれ変わったら全て無に帰すわけだからな。それに現世で再び同じ職業に就くとは限らない」

 死してまで自分が獲得したモノを失いたくないってことなんだ。

 確か前世占いでも分かるように今と全然違う職業だった人なんて五万といるだろうし反対に前世の記憶のおかげで救われた人だっている。そんなテレビ番組を見たことある。

 どっちを選ぶなんて。そんなこと出来ること自体驚きなんですけど。


 私はまだ右も左の分からないこの世界で新米天使として存在している。

 他にもいるのだろうか?私のように天使になった人間って。


「あの度々すみません。私みたいにカーリ様によって天使になった人間って他にもいるんですか?」

 カーリ様は最後の一口を食べ終えて紅茶を一口。

「遥か昔に一人だったな。私が許可したのは。現時点ではミュリエル、君一人のはず」

「そうなんですか・・・いたんだ。それでその人って?」

「そんなこと聞いてどうする?今の君とは関係のないことだと思うが」

「まあ、そうです・・・なんか気になって。なんで私みたいに天使になったのかなって。それだけ何か大きなことがあったんじゃないかって。それに・・・」

「それに?」

「その人は最終的にはどうなったんだろうって」


 本当はもっと別のことを聞きたかった。けどそれはもう一人の私、本物の相楽美有を探した後に聞いてみようと思う。もしかしたらこれならみんなが幸せな場所に辿り着くことができるのかもしれない。本当にそんなことが出来たらなら、の話になるけどね。


 カーリ様は昔の記憶を思い出そうと遠くどこかを見つめている。

「・・・確か」

「あの!!!待ってください。自分から聞いておいてですけど。やっぱりいいです。聞くのは私がちゃんと天使として自分の役割を果たした時に取っておきます」

「・・・忙しい性格だな。まあ、そういう希望ならそれでいい。あまり他人のことに首を突っ込むとロクなことにならんからな」

「・・・すみません。それで私はこれからどうやってもう一人の私を見つけたらいいのでしょう」

「それなら私に任せてください」

「ルシェル?」

「はい。なんたって私はあなたの先輩ですから。頼ってください。それではそろそろお暇いたしましょう。ここでの用事は済みましたので」

「あ。そうなんだ。うん。分かった」

「ではカーリ様。私達はこれで失礼いたします」

「失礼します」

 お互い席を立ってお辞儀をする。

「うむ。ミュリエルよ、自分の使命を果たせよ。ルシェルよ、頼んだぞ」

 その言葉を言い終わると同時にカーリ様の姿は消えていた。

「驚いてます?驚いてますよね。カーリ様はご自分の職場に戻っただけですよ。さ、私達も行きましょう。先ずは今日から寝泊まりする部屋を案内します」

「部屋?」

「それといろいろ物入りでしょうから街に買い出しに行きましょう。経費まだありますよね」


 私達は屋敷を出る。そして街までの足を呼ぶ。現れたのは言うまでもなくランヴェルだ。

「街まで」

 ルシェルが言い終わると同時に人力車はすでに街の入口に到着していた。


☆☆☆☆★


「帰りも頼みます」

 ルシェルが声を掛ける。

「もちろんだ。それにしてもお前、今朝までリンシだったのに今は俺達と同じ天使になっているなんてな。やっぱ変わってる」

 ランヴェルは私のことを珍獣でも見る視線で話し掛けてきた。

「あはは、私の場合は(仮)が付くけどね」

「それもだ。そんな天使、見たことも聞いたこともない」

「そうなんだ。まあ、一応そういうことになったからしばらくこっちでお世話になります。ランヴェルにはもっと美味しいお店教えてもらいたいし」

「がってん。お任せあれ。俺にできることがあったら遠慮なく言ってくれ」

「ありがとう。そう言ってもらえるとホント嬉しいし頼りになる」

 感謝の意味を込めてとびきりの笑顔でランヴェルのことを見つめると

「あのな、そんな笑顔されたら惚れちまいそうだ」


 この顔ってこっちの世界でもイケてるんだ。正直自信あるからね。


「そんなの駄目だよ。私にはちゃんと好きな人・・・っていうか、好きでいたい人がいるんだから。これはランヴェルに感謝して、だからね」

 そんなたわいもない会話をしている間に支払いはルシェルがした。

 ランヴェルは会計が終わるといつものようにあっと言う間に風となってしまう。


 夜と比べると昼の街はとても明るくて都会的なオフィス街のみたい。いや、むしろ現世よりも近代的に見えるのは気のせいじゃないのかもしれない。

 まだ私は街の入口付近でしか行動していない。

 見るともっと奥の方には高いビル群が聳えている。あまりにも高くて最上階なんて雲の中に消えていた。きっと想像もつかない程高いのだろう。


「あのビルだけ凄く高いね。どこまで高いのかな」

「あれはですね。天界まで続いているんですよ」

 さっきまでタブレットで何か作業をしていたルシェルが答えてくれた。

「え?天界?ってことはあのビルを登っていけば天国に行けるってことなの?」

「そうです。行くのは簡単です。もちろん向こうもこっちに簡単に来ることが出来るわけです。まあ検疫所はありますけどね。だから天界から天使が来ることもあれば私達が天界に行くことだってあるんです」

「そうなんだ。もっとお互いの行き来って難しいって思ってた。もしかしてルシェルも行ったことあるの?」

「そうですね。修学旅行くらいでしょうか。おまけに入国料が結構高いんですよ。自費でなんてとてもとても」

「修学旅行?」

「はい。現世でもあったでしょ」

「・・・うん。あった」


 もしかしてどの世界でも生きていくってことや生活とかそんなに大差ないのかもしれない。

 ますます私には死後の世界という概念がおかしくなりそうである。しかしこれが現実なら受け入れるしかないのだろう。


「正直、現世に行く方が大変です」

「そう・・・なの?」

「まあ、向こうもこっちも簡単には行き来が出来ないっていうのは昔から変わりませんね」

「ねえルシェル。私も天界に行くことってできたりする?」

「可能です。人間だったら入れませんが今あなたは天使ですから」

「なら天使のうちに・・・」

「あの。自分の立場分かってます?そんな観光気分じゃないんですよ。あなたはもう一人の自分を探す。そのために天使になったのお忘れじゃありませんよね」

 ルシェルがピシッと言う。

「もちろんそのことが一番なのは分かってる。忘れてたわけじゃないよ。それにもう一人の私だってもしかしたら天界に紛れてってことだってあるんじゃないかって」

「リンシが天界に・・・まあ限りなく不可能ですけど0パーセントではない。確かにミュリエルの言うようにこっちで見つけられなければ天界も探すことになるのかもしれません」

「でしょ。だからそうなる前に一回見ておいた方がいいのかなって」

「そうですね・・・経費が出ればいいですけど、そうならないようにしたいものです。それより着きましたよ」

「え?」

 ルシェルとずっと話しながら歩いていたから自分達がどこに向かっているか全然考えてなかった。

 指差す方角を見る。表通りに面した大きな門があってその奥には大きな建物があった。三階建て。窓がたくさんあって。オシャレな校舎みたいに見えなくもない。

「あの・・・ここは?」

「天使学園の寄宿舎です」

「天使・・・学園?」

「案内します。先ず最初に寮長に挨拶に行きましょう」

「寮長?・・・挨拶?・・・」


 ルシェルが門に手を翳すと音もなく両側に開いてゆく。特に警備の係はいない。それと建物に続く真っ直ぐな一本道。

 ルシェルの後について歩いてゆく。そして正面の扉に辿り着く。誰ともすれ違うことがなくてとても静かな場所みたい。誰もいないのだろうか?


「みんなは学校に行ってます。夕方には賑やかになりますから驚かないでください」

 私は頷いて答える。ホントなにもかも現世と一緒。天使だって学校に通うご時世だったとは。

「では入りましょう。事前に寮長には話を付けてあります」


 ルシェルが扉を開けるとメイドが一人。


「お待ちしておりました。寮長室まで案内させていただきます。こちらです。どうぞ」

 グレー色の髪に赤い瞳のメイドさんが私達を案内してくれる。

 階段で二階に行くと左右に伸びた幅のある広い廊下。ひたすら左に歩くと突き当たりに真っ白で立派な扉があった。


「こちらが寮長室です。それでは失礼いたします」

 メイドが一礼して立ち去ると同時に音もなく扉は外側に観音開きに開いてゆく。

「入りなさい」

 中から声がする。

「失礼します」

 最初にルシェル。私も同じように『失礼します』と言って室内に足を踏み入れる。


「こちらが寮長のアラエルです。お久し振りです」

 正面の大きな机に寮長アラエルは座ってた。スミレ色した長い髪を左右に分け先端を赤い紐で軽く縛っていた。瞳は薄い赤色をして口元には優しい微笑みを浮かべていた。

「ルシェル。元気そうで。仕事の方は順調ですか?」

「はい。先生もお変わりなく」

「相変わらず寮長をしていますよ。そちらが例の?」

「はい。では挨拶してください」

 私は一歩前に出る。

「初めまして。ミュリエルと言います。よろしくお願いします。ホントはリンシで人間です」

 お辞儀をすると寮長は立ち上がって軽く頭を下げる。とても品のある振る舞いにかえって緊張してしまう。

「寮長のアラエルです。大体のことは聞いています。早速部屋に案内させましょう。詳しい話はそれからにしましょう」

 寮長が呼び鈴を鳴らすと再び先程のメイドが扉の前に姿を現した。

「それじゃメイドに案内してもらってください」

「ルシェルは行かないの?」

「私はここで世間話でもしています。部屋を確認したらまた戻ってきてください」

「あ、うん。分かった」


 メイドさんの後について歩いてゆく。彼女が黙っているので私も黙っていた。もしかして私語厳禁なんてことあるのかな?それとも私が新米の仮天使だから警戒されているとか?

「あの・・・名前って聞いてもいいですか?」

 沈黙に耐えきれずについ声を掛けてしまった。メイドさんは立ち止まってゆっくりとこちらに振り向く。

「私はミュリエルって言います」

「・・・名前」

「そう。あなたの名前は?」

「私達メイドに名前は与えられていません」

「え?・・・名前がない?」

「はい」

 きっぱりと言う。名前がない。そんなこと不便でしかないと思う。素直にそう伝えると

「私達はここでメイドとして務めを果たすことで再び生まれ変わる資格を与えられます。だから必要ありません」

「でも名前が無いと困らない?」

「これまで困ったことはありません」

「・・・そうなんだ」

「よろしいでしょうか?このままお部屋までご案内します」

「あ・・・うん。お願いします」


 私達は一階に戻って同じように広い廊下を右の方に進んでゆく。二階もそうだったが廊下の両側にはたくさんのドアが並んでいる。それは一階も同じだった。一体何人くらい暮らしているのだろう?そんなことを考えて歩いていたら

「どうぞ。こちらの部屋を使ってください。清掃は済ませてあります」

 メイドさんがドアを開けてくれる。私は『失礼します』と言って一歩入る。


 部屋はどこにでもあるワンルームみたいだった。おまけに家具は大体揃っている。ベッドに机と椅子。正面には窓があってそこからはたくさんの光が部屋の中に入ってくる。試しに窓を開けると微かな風を感じることができた。

 真っ白なフローリングに真っ白な壁と天井。見ると照明がない。聞いてみると

「こちらに手を翳してください」

 壁の一角にスイッチ類が纏まったところがある。言われた通りスイッチに手を翳すと

「うわ・・・天井全体が光るんだ」

「こちらで色を変えることができます」

「・・・なんか凄い。現世じゃまだこんな技術ないよ」

「気に入っていただけましたか。それでは簡単に説明いたします。食事は時間になったら鐘が鳴りますので食堂に来ていただけたら召し上がることができます。お風呂はこのフロアの反対側にあります。大浴場になりますので消灯時間までに済ませてください。トイレは各階に二ヶ所ずつあります。それと自販機コーナーが地下に設置されています。飲み物や簡単な軽食を購入することができます。他にご質問はありますでしょうか」

 本当に現世にある寮と変わらないのかな。漫画とかアニメくらいの知識しかないけど十分過ぎるほど設備が整っている。後で自販機には何が置いてあるのか見に行こうかな。ちょっと気になるよね。


「とりあえず大丈夫です。もし疑問があったらメイドさんに聞いたらいいの?」

「はい。その時は呼び鈴を鳴らしてください」

「呼び鈴・・・ああ、これ?」

 ドアを入ったところに小さな棚があってその上に真っ白な陶器でできた呼び鈴が置いてあった。

「はい。ご用の時にお使いください」

「鳴らしたらあなたが来てくれる」

「私の他にもメイドはおります。私が来るとは保障致しかねます」

「・・・そうなんだ。指名とかできないんだ・・・名前、ないんだよね」

「では失礼いたします」

 メイドさんは一礼すると行ってしまう。

 もう一度部屋の中をぐるりと見回してみる。今のところはこれといった問題はなさそう。


 左手に震えを感じて応じるとルシェルの顔があった。

「そっちは終わりましたか?」

「はい。今説明が終わりました」

「そうですか。なら寮長室に戻ってきてください」

「分かった。今から戻ります」

 私は呼び鈴の隣りに置いてあったキーで鍵を掛けると来た導線をそのまま戻った。


「すみません。お待たせしました」

 私はお辞儀をして待たせたことを詫びる。

「気に入っていただけましたか?ではこちらに」

 と、寮長さんが聞いてきたので素直に『はい』と答える。

「お茶の準備が出来ています。ミュリエルが来るの待ってたんですよ」

 ルシェルはすでに応接セットのソファーに座ってカップを傾けていた。寮長に案内されてソファーに座る。カップにはお茶がすでに注がれた状態で隣りには

「これって・・・どら焼き?」

 どこをどう見ても青い猫型ロボットが好きそうな『どら焼き』がお皿の上に鎮座している。

 ルシェルに至ってはすでに半分の形になっていた。ケーキを二個も食べていたなんて感じさせないくらい気持ちのいい食べっぷりである。

「いただきます」

 お茶よりも先にどら焼きに手を伸ばす。

「いきなりそっちからですか。もしかして私がおねだりすると思いました?」

「それもあるけど小腹が空いたの。それに美味しそうだし」

 

 一口パクリ。

 生地に入っているハチミツの甘さを感じてから餡の甘さが口の中に広がってゆく。トロリとした口当たりがお汁粉を食べているみたいに感じる。自然と口の中が幸せで満たされてゆく。

「美味しいでしょ。顔が物語っていますよ」

 ルシェルの言葉に同意するように頷いてからお茶を一口。

「うん。こんなの初めて。今まで食べた中で一番美味しいかも」

「そうでしょう、そうでしょう。なんたって現世で有名だった職人が作っているんですから」

 さっきも同じこと聞いたような・・・

「もしかして・・・」

「まあ、そういうことです」

 こんなに美味しい味は絶対に継承していかなきゃいけない。でも生まれ変わったら記憶からなくなる。ならここでその技をずっと残しておく方がいいのかな?いろいろ疑問が湧いてくる。

 

 寮長は私達の正面のソファーに座るとお茶を一口飲んでから

「ミュリエルと言いましたか」

「はい」

「カーリ様がここまでするなんて余程の事情があるのでしょう。詳しくは問いません。が、他の学生に悪影響が出るといけないのでここにいる間は皆と同じように学園で学んでもらいます」

 はい?今なんて?

 地獄でも学校に通わないとならないの?そんなことしていていいの?そんなこと全くの想定外だ。

 私には私も確固たる目的があるのに。


「えっと・・あの・・・それだと目的が・・・ルシェルだってそう思うでしょ」

 助け舟を出してもらうつもりでルシェルのことを見る。

「確かに時間が限られますね」

「だよね」

「でも」

「でも?」

「カーリ様もこの条件を飲んでいます」

 そんなこと一言も聞いていないんですけど。

「え?それだと新月に間に合わない」

「そうですね・・・こう考えたらどうでしょう。だらだら目的もなく探すよりもいろんな方から情報を得た方が良いのではないでしょうか」

「確かに闇雲に探すよりも・・・それに授業って・・・」

「街を見てなにか気がつきませんでしたか?」

「何を?」

「リンシとなった人間は昼に行動しないんです。夜にならないと動き出さないのです」

 言われて思い返してみる。確かに表通りには昨夜ほどの賑わいはなかった。

「なら私は?朝から動いている」

「それはあなたが特別枠だからです。私がきっちり管理しているからですよ。だから授業に出ても差し障りありません。それに私だって通常業務があります。ずっとあなたについていることはできません。私はサポート役。動くのはミュリエル、あなた一人で、です」

 だとしたら今ってリンシってどこにいるのだろう。動かなければ分からない。でも情報を得るには昨夜のように賑わっていないと話を聞くことだってできない。

 やはりここは素直に従っておいた方がいいってこと?この世界に来ても学校に行かなければならないとは・・・イマイチ腑に落ちない。


 しかし

 だからといって自分一人ではどうしようもない。なら、もっとこの世界に慣れる必要がある。


「・・・分かりました。従います。学校に通います。よろしくお願いします」

「納得してもらえたようですね。早速教室に行きましょう」

 寮長はおもむろに立ち上がる。私はビックリして

「え?今からですか?」

「その通り。必要な買い物は終わってます。今日はもう夜まで待つしかないと思いますが」

「ルシェルまで・・・分かりました。行きます」

 私は渋々じゃないけどゆっくりと立ち上がる。

「先ずは着替えをしましょう。天使には天使の格好がありますから」

 するとさっきのメイドがいつの間にか控えていて、その手にある制服と思しき畳まれた服と下駄を渡された。

「では夜になったら一度こっちに顔を出します」

 ルシェルは立ち上がると寮長に挨拶をして部屋を出て行ってしまう。

 

 私は服を手に自室に戻った。広げてみると

「やっぱり。これってルシェル達と同じ服だよね」

 はっきり言ってこれまで着物なんて着たことない。なんて思っていると服の方から私の身体に巻き付いてきた。何もしていないのにサイズはピッタリと合っている。

「うわ?なにこれ?」

 どうやらこれで着替えは終わった。


 さっきまで着ていた現世の制服をきちんとハンガーに掛ける。早く元の世界に帰りたい。そんな気持ちが強くなる。

「すぐ迎えに来るから待っててね」

 私は静かにクローゼットの扉を閉めた。

「あとは・・・下駄・・・だよね」

 思っていた通り難なく履きこなすことができた。

「これで準備よしってことかな」

 備え付けの姿見で全身を確認する。

「・・・結構似合ってんじゃん・・・私って・・・」

 コンコン。ドアがノックされる。急いでドアを開けて準備が終わっていることを告げる。

「準備いいよ」

 メイドさんは上から下まで見て確認が終わると

「では案内します」

「よろしくお願いします」

 

 こうして奇妙なことはますます奇妙になってゆく。

 新月までの新しい学園生活が始まろうとしていた。

う〜ん。長すぎたかな・・・

読んでいただきありがとうございます。

これからどんな世界が広がってゆくのだろう・・・

アップのペースは前回よりはゆっくりになるかなっと。

でも定期的にアップはしていきます。

次回もよろしくお願いします。

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