第八〇一話 生々流転(二)
いちいち各自の家を回って暖衣を調えるなど、まだるっこしい。途中で、買えばいいのだ。購入した暖衣と土産とを積んだ車は、北へ、ひた走る。
小休止のために寄ったサービスエリアでのことだ。こちらは以前にも訪れた場所とあって、二人は迷いなくショッピングコーナーへと歩を進めていく。
と、みさとが気付いた。
「神宮寺。郷さんだ」
八分入りのフードコートの片隅で、尋道は紙コップを傾けている。想定よりも、はるかに早い再会となった。
「おや。お早い。備えは万全で?」
接近してきた二人に対する尋道のあいさつだ。
「おかげさまで。それより、よくも置いていったな」
「別行動なら、足は自前で用意される、と思いまして。あんな閉鎖空間、絶対に嫌だったのでね」
剣崎の車は低い車高と狭い後部座席とを兼ね備えたクーペなのである。
「別に車を手配してもよかったんだよ。それこそみさとを使うとか」
「任せなさい」
豊かな胸を張ってみせたみさとに尋道の一瞥が刺さる。
「司法修習中の方と税理士の繁忙期中の方でしたのでね。一応、遠慮したんですよ」
「水くさいな。頼ってくださいよ」
「では、次があれば、すがらせていただくとしましょう。それにしても」
尋道が周囲を見回した。
「存外、人が多い。年の瀬だというのに。家で、こたつにでも入っていればいいものを」
「あの人たちも君に同じことを思ってるよ。きっと」
「違いない」
ここで二人は、いったん、尋道から離れて、軽食の手配に動いた。戻ってみると、尋道は、やおら席を立とうとしていた。
「こら。どこに行く」
「相当、あったはずのリードを守り切れず、追い付かれるような僕ですよ。あまり、のんびりしているわけにもいきません」
「二度までも上司を置いていくのか」
「それを言われるとつらい」
諦念をあらわに、尋道は腰を下ろした。
「剣崎さんは、明日、帰られるそうで」
慌ただしいことだが、繁多のみぎりに友人のため、押して出張った彼なのだ。仕方ない、と尋道は補足した。
「僕も一緒に帰りますが、お二人は?」
「は?」
「は、じゃないですよ。僕だって忙しいんです」
「なんの用事があるの」
「カラーズの。働き手が二人、減ったので、しわ寄せが」
孝子は詰まった。働き手を二人減らしたのは、自分の短気であったので、これ以上の追求はできない。
「郷さん。私も戻りましょうか?」
「いえ。そこまでの危急ではないので」
「次は、すがってくれる、って言ったじゃないですか」
「ですから、そこまでの危急ではない、と。一月一日からは小早川さんが正式にカラーズの一員になる。あの人で足ります」
ちらり、尋道の視線が、来た。
「お気になさらず。不心得者を呼び入れた僕の責任ですので」
知らず、渋面を作っていたらしい。
「まあ、そうなんだけど」
「それでこそ。ああ。どうぞ。食べてください」
手が止まっていた、というより、買い込んできた菓子パンの、包みさえ開いていなかった二人だった。始めると尋道が独り言ちだした。
「正雄さんが、おそばを打ってくれているそうで。手打ちの年越しそばなんて、乙ですよね。こんな季節ですけど、僕は、ざるでいただこうかな、と。食べるのが遅いので、かけだと麺が伸びてしまうんですよね」
「いいね。材料があったら、天ぷらでも揚げようかな」
「いいですね。今の季節だと、何が旬なのかな」
尋道はスマートフォンを取り出した。操作しながら、また、独り言ちだす。
「岩城さんは、スマートフォン、お持ちではないんですけど、正雄さんは、いいやつ、使ってるんですよね。兄弟でも、だいぶ、違う」
要するに、正雄にメッセージを送っている、ということのようである。
ややあって、
「正雄さん、白ネギの天ぷらを揚げる予定だったけど、ケイティーが、そう言うなら、抜かずに待ってるそうです」
尋道が言った。
「抜かずに、って、何」
「ネギでしょう。農作業をやらせてくれる、と。僕はやりませんので」
「正雄、何を言ってるの。私は客だぞ。とっちめてやる」
呼ばれてもいなかった分際で尊大な発言を孝子はした。どうやら騒がしい年末年始は確定的となったようだ。




