第七九〇話 踊り場(二二)
不動愛の出現により御前会議の成功は決定的となった。孝子が乗り気なら、円滑に、迅速に、何事も進展していくのがカラーズだ。
どしどし、アイデアが提出される。美鈴、瞳の渡米は、早いほうがよい。美鈴は幻に終わったアーティ相当のキャラクターとのタッグ、瞳は進学あたりで、どうか。まどかも、何か理由を付けて外に出すべきだ。シェリル相当が率いるアメリカとの激闘は漫画の佳境となるだろう。シェリル相当、アーティ相当以外では、アリソン相当を重用してほしい。実際のアリソンは、もはやプレーでは大学の先輩、シェリルの役に立てぬ。ならば、せめて、側面からの支援を、と全日本の研究のため来日するような熱い女なのであるからして。
「そうだ。真穂姉だ。坂井さん。広山さんは出てきますか?」
孝子が問うた。
「広山さん、というと、ウェヌスの?」
「はい。あの人も熱い女さ。ただ、雰囲気的に、ライバルよりも理解者かな。ぜひ出してください。池田佳世も欲しい。あの子は北崎のでっちみたいな感じに。で、ここまでナジョガクの人を出すんだったら、当然、松波先生にもご出馬願わないと。漫画の全体的な監修も、お願いしていいかもね。で、天才しか実践できない部分の理論は北崎、と」
熱心にメモを取っていた坂井の手が止まった。
「こう、オールスターキャストになってくると、妹さんたちが不在なのは、寂しいですね」
「いえ」
絵にならないしみったれは不用。塩辛い評は、昨今の孝子と静の関係を知る身とすれば意外ではなかったが、基佳と坂井は、ぎくりとしている。
そんなことよりも、である。孝子が、ここまで積極的に関与してくるとは。目が、出そう、から、出る、へと尋道の読みは変化しつつあった。
「あくまでも主体は坂井さんであり、第一の協力者は小早川さん、というスタンスは堅持するとして、節目にはカラーズも関わっていきたいですね」
「節目とは?」
「メディア展開です」
孝子の問いに答えて、尋道は一歩を踏み出した。
「気が早い」
「当たる気がしてきました。先日、アートの『Power』が『ワールド・レコード・アワード』にノミネートされたじゃないですか」
「うん」
「テーマは彼女に頼みましょう。メディア展開の総合的な監督は剣崎さんに。あの人なら経験豊富だし、顔も広い。適任だ」
「だから、気が早いって。坂井さんともっさん、止まってるよ」
「おや。坂井さんは、まだカラーズの流儀をご存じないでしょうからよいとして、小早川さんは、神宮寺さんの肝いりに乗ってこないつもりですか? 代わりますか? 僕なら準備万端ですよ」
基佳がむせた。
「代わりません!」
「では、全力を尽くしてください」
「はいな!」
「意外といえば、意外なような」
孝子の突出により、ここまで言葉少なに成り行きを見守っていた春菜がつぶやいた。
「郷本さんって、こういうことに、すごく慎重なイメージがありました。今回は随分と前のめりで」
「前のめりなのは、こちら」
尋道は孝子を示した。彼の信奉の対象を。
「僕の是は、この人の意向に全力で応える、ですので。それに、経験則として、この人が関わることは当たるんですよ。全日本しかり。アーティ・ミューアしかり。舞姫しかり。よって、今回の件も、きっと当たる。備えておくべきなんです」
「信心らしいよ」
せせら笑いながらの孝子だ。横目で見やってくる表情は存分に崩れている。
「正直、私、この人の信心について、すごく懐疑的なんだよね。でも、この人の実績については、全面的に信頼してる。だから、今回のことも、悪い結果にはならない、と思ってる。なので、おのおの、そのつもりで動いてみてくださいな」
そして、カリスマのお墨付きを得た事象は動きだすのである。




