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未知標  作者: 一族
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第七八五話 踊り場(一七)

 やけに密な来訪であった。基佳が舞姫館に顔を見せた。前回が先週、金曜日の正午過ぎで、今日は週明け月曜日の昼下がりだ。三日では漫画構想の練り直しに足るまい。何か、別事が出来したのだろうか。

「澤井ー。真由佳ー」

 いきなり、伊澤まどかをもじった澤井真由佳の名が出た。ならば、漫画構想の続き、となる。

「小早川さん! まさか、採用ですか!」

 ぐるんと振り返って、まどかが叫ぶ。

「採用、というか、最終確認。異存はないんだね? 出ることについては」

「あるはずが!」

「決定」

 言って、基佳はコーヒーメーカーの前に立った。

「あ。小早川さん。私、淹れますよ」

「いい、いい」

 中腰となった祥子を基佳は制した。

「仕事中でしょう? それに、伊澤さんの意思確認ができたんで、すぐ帰るし」

「結局、どうなったんですか? 高梨翔子さんやらは」

 舞姫島からまどかがのこのこやってきた。カラーズ絡みらしい、と察してか、舞姫首脳陣は黙認の体である。

「出ない。伊澤さんだけ超乗り気、って言ったら、じゃあ、澤井だけでいい、他は出すな、って言われちゃって」

「郷本さんですか?」

「そんな、頭ごなしに言ってくるの、神宮寺さんに決まってるじゃない。いやあ。高遠さんの名前は出さないほうがいいよね、ってぼかして言ったら、逆効果になっちゃって」

 まどか以外は一緒くたにされた、わけか。明確に関心を持たなかった静はよいとして、景には悪いことをしてしまった。と、端緒となってしまった祥子は、内心で思っている。

「真由佳ちゃん、かわいく描いてほしいなあ」

「かわいかったよ」

「え。見たんですか! 私も見たいです!」

「うん。実は、大体の、有名どころは、原案ができてるの」

「高梨翔子さんが見たいです」

「わかった。今度、コピーを持ってくるよ」

「ちょっと、小早川さん」

 どしどし先へと進んでいく会話に、祥子は割って入った。

「伊澤の話は、ひとまず置いておいていただいて、流れを、最初からお願いしていいですか」

「ああ。昨日、ね。神宮寺さんの陣中見舞いに行ってきたの」

 孝子は、今、埼玉県埼南(きなん)市にて司法修習の真っ最中なのである。

「で、その時の茶飲み話中に、ぽろっと漫画のことを言ったら、あらあら、まあまあ」

 長くなるとみたか、基佳は自ら淹れたコーヒーを手に、カラーズ島へやってきて、席に着いた。従って、まどかも付属してくる。

「小早川さん。お姉さんは、他に、何か? まさか、真由佳ちゃんを主人公にしろ、とまではおっしゃってませんよね?」

「うん。北崎さん」

 よりによって北崎春菜とは。とても漫画などに関心を持ちそうな人となりとは思えぬが。

「でも、北崎さん、その話を聞いて、緊急帰国よ。打ち合わせに参加する、って」

「え!?」

 元々、年末に帰国予定だったものの予定を早めた、といのが、より正確な事情だった。しかし、である。

「へええええ。あの北崎さんが。でも、小早川さん。思うんですけど、北崎さんが主人公の漫画って、あんまり面白くなさそうですよ。漫画、特にスポーツ漫画は、やっぱり、挑戦と勝利じゃないですか。あの人だと勝利しかない。無敵過ぎて。全然、ドラマチックにならない」

 まどかの指摘に基佳はうなずいてみせた。

「ね。みにょーりさんも、伝えたら絶句してた」

 だが、

「もう決まってしまったのだよ」

 そう言って、つと基佳は背筋を伸ばした。

「できないとおっしゃるのでしたら代わりますか。僕なら構いませんよ。あなたはスポーツキャスターの本分に戻られたらいい」

 淡々とした物言いは尋道のまねらしかった。

「そんな、言われたら、できらぁ、としか言えないじゃん」

 なんとも返せぬ、とばかりにまどかは苦笑する。そして、祥子も、おそらく同じような顔をしている。

「さて、と。どうしましょうかね」

 つぶやきに対して、明確な答えを持つ者など、いまい。代わる、と言った尋道にも、あったのか、どうか。いつだって孝子の指令は、周囲に衝撃をもたらす。今回、生じたそれの威力および影響たるや、なかなかのものだった。カラーズは、自分は、いかに受け止めるべきか。あるいは、いかに受け流すべきか。思案のしどころといえた。

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