第七七三話 踊り場(五)
初っぱなは、本題と関係ない話題から始める。基佳のカラーズ参加だ。
「メッセージで伝達したとおり、小早川さんがカラーズにいらっしゃいます。前職での知見を生かす方向での活動をされる予定ですので、皆さんと絡む機会は、それほど多くならないと踏んでいますが、一応、見知りおいてください」
基佳のあいさつを挟み、本番に移る。
「さて。本日は、カラーズの勉強会にお集まりいただいたわけですが、今後の流れとしまして、まず、カラーズとはなんぞや、という定義付けを行っていきます。次に、その定義付けされたカラーズを、ますます伸張させていくための施策を周知します。二本立てですね。では、早速」
カラーズとはなんぞや。カリスマ、神宮寺孝子が引き寄せたもろもろを運用し、発展した企業だ。とすれば、その伸張に必要とされるのは、孝子のカリスマが、さらに発揮されること、であろう。
では、カリスマの発揮を促すには、どうすればよいか。何事も、阻害しない。あるがままに振る舞ってもらう。これに尽きよう。孝子といえば、控えめにいって奔放な人物だが、口出しは厳禁とする。全て信じて、全て委ねる。盲従こそ、最良の施策となる。
「何を大げさな、と思うし、思っただろうけど、今のは、この人の信心。盾突くなら、カラーズから追放されるよ」
語り終わった瞬間に孝子の、フォロー、のようなものが入った。
「あと、それでわかった。ミサ公とスー公は盾突いてくる、と踏んだな」
「斎藤さんの能力は本当に惜しいんですが、いい方なのでね。立ち回りを間違えることがある。あなたをいさめたり、とか。で、いい方故に、僕の信心には賛同していただけない可能性が高い」
「だね」
「静さんも、いい方なのですが、ああ見えて、意外に気が強くて、意外に頑固です。で、同じく、いい方故に、僕の信心には賛同していただけない可能性が高い」
「さあ。どうする。この男こそ、こう見えて、意外に、の見本さ。こう見えて、意外に武闘派。カラーズでやっていくつもりなら従うしかないけど」
「はーい」
基佳が手を上げた。
「私、その条件に納得して内定を頂戴しましたので。全く問題ないです。大体、神宮寺さんとは、プライベートでも一方的に打ち込まれているし、普段どおり」
「もつ」
「もっさんから、さらに短くなってるし」
「いいですね」
基佳の表明は、尋道との密約によるものだろう。ならば、その働きに報いなければなるまい。
「心強い申し出、ありがとうございます。では、小早川さんには、カラーズでもサンドバッグになっていただきましょうか。最側近を、お願いします」
「え?」
いいほうけ面だった。演技派め、と尋道は内心で笑う。
「小早川さんって、自動車の免許は、多分、限定ですよね?」
「うん」
「限定解除してください。最側近が限定なんて、お話にならない。ちなみに、ここにいる小娘たちは全員限定なしです。そちらの大娘は、どうです? 限定しか運転したことなさそうな顔をしておいでですが」
大娘呼ばわりされた清香が口をとがらせた。
「何を言ってるの、郷本君。私なんかのころは、社用車なんかにも、マニュアルが、そこそこあったのよ。普通免許よ。ただ、乗る機会は、ついぞ巡ってこなかったんだけど」
「郷本君。サーヤちゃん、追放でしょう」
「わかりました」
「ちょっと! 練習するから追放しないで!」
「仕方ないなあ。こんな差し入れ力の高い人を失うわけにはいかないよ。私がコーチする」
らしい理由で名乗りを上げた小娘は、言うまでもない。
「では、那美さん。僕の挙げた条件には、同意いただけるんですね?」
「カラーズのお給金は私の生命線だしねー。甘受するしかないか。まあ、最愛の妹だし、いざとなったら大目に見てもらうけど」
「郷本君。追放しろ」
「わかりました」
「はい。小早川さんがお姉さんの最側近なら、私は郷本さんの最側近です。当然、異存はありません」
「どうしましょう?」
「祥子は育ち過ぎてるんだよねえ。受け答えにかわいげがないし、なんとなく追放しておいたら?」
「わかりました」
「横暴です! 労組を立ち上げますよ!」
カラーズに染まり切った小娘が二人に負けじとほえる。そして、この流れにあっては、残りの小娘たちに否応を表明する間とてない。ここまでは、よし。尋道の思惑どおり、といえた。次なる攻め手だ。




