第七七二話 踊り場(四)
もう一押しの舞台として尋道が選択したのは食事会だ。那美、基佳、祥子、佳世、景、清香ら、カラーズ関係者を招いて実施する。各人の都合に合わせた結果、時間は昼、場所は舞浜大学千鶴キャンパスの学生会館、となった。まず、最も多忙な基佳に合わせて時間は平日の昼、次に、平日の昼とくれば学生連には講義があるため大学の近場、と定まっていったわけである。
当日、すしの名店「英」の弁当を抱えて、尋道が借り受けた会議室に向かうと、部屋の前には既に祥子と清香が待機していた。準備の時間を踏まえ、定刻四五分前の会場入りであったが、先を越された形となった。
「お早いお着きで」
「何か手伝えることがあるかと思いまして」
「では、配膳をお願いしましょうか。僕はお茶をいただいてきますので。あ。僕の分はありませんので。それと、中に入っているタブレットは、僕の席に置いておいてください。よろしくお願いします」
尋道は会議室の鍵と弁当の入ったクーラーボックスを祥子に渡し、いったん、その場を離れた。あらかじめ学生会館の食堂に依頼していた茶入りのポットを受け取り、戻ってみると、すっかり調えられた室内には、なぜか孝子の姿があった。上座に、どっかと陣取っている。食事会の開催を伝えてはいないし、参加者にも内密とするよう、注文を付けてあった。にもかかわらず孝子はいる。ということは、池田佳世だろう。彼女は孝子と同居しているし、虚偽の申告が極めて拙そうだ。
「池田さんですか?」
隣に座って、問えば、しかり、と孝子はうなずく。
「あの子、ね。今日は友達とお昼を食べますー、お弁当、なしですー、とか言ってたんだけど」
「ええ」
「あの子に、お昼を一緒に食べるような友達はいない。須之ちゃんがおごってくれる、とか言えばよかったのに。君と違ってうそが下手なんだよ。ワードチョイスが悪い。フェイススキンも薄い」
「ははあ」
「ははあ、何」
「いえ、ね。底の割れ方にも、いろいろ、あるものだ、と。感心していたんですよ。時に、お弁当が人数分しかないんですが、どうしましょう」
「持ってきた。ほれ」
脇から孝子が持ち出したのはコンビニのビニール袋だ。栄養ドリンクだの、ゼリー飲料だの、詰まっている。
「どうせ、君の分の弁当もないんでしょう? つついていいよ」
「ありがとうございます」
二人同時にゼリー飲料を始めた。食事会の前だというのに行儀が悪い。
「カラーズの勉強会、って聞いてるけど、他に誰が来るの?」
「今、いらっしゃっているお二人と池田さん以外ですと、那美さん、須之内さん、小早川さん、ですね」
「お。カラーズの、と銘打っておいて、ミサ公とスー公はいない、と」
「そこが今回のみそです」
「ほう。何をたくらんでいるのやら」
そうこうしているうちに時間は流れた。定刻五分前になって、那美、基佳、佳世、景らが、どやどやと会議室に入ってきた。四人は、そこらでばったり出くわしたのだろう。
「うわあああ。やっぱり、お姉さん、いるううう。見逃してください、って言ったのにいいい」
佳世が頭を抱える。
「はい、とも、いいえ、とも言わなかったでしょう。まあ、今回は郷本君のミスだよ。うそをつくのにだってセンスはいる」
「こういった秘め事に池田さんは使えない、とわかったのは収穫でした」
「あんなこと言ってるううう。どうしてくれるんですか! お姉さんのせいですよ!」
「うるせえ」
かしましい二人を捨て置き、尋道は一週間ぶりのボブに顔を向けた。
「小早川さん。お忙しい中を、ようこそ」
「いえいえ。私の都合で遅くなっちゃったんじゃないですか?」
「大丈夫です。では、ぼちぼち始めますか。といっても、ほぼ、僕が一方的にしゃべることになろうかと思いますので。皆さんは食事を、どうぞ」
いよいよ、やってきた。カラーズの安寧を左右するひとときが。一押しを、きっちり遂行してみせる。そう、腕を撫す尋道であった。




