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未知標  作者: 一族
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第七四九話 花咲人(一四)

 対峙に先駆けて孝子は静に視線を投げた。神妙な面の乗った首が、小さくすくめられた。では、みさとの成果および静の反省を聞くとしよう。

「どうなった?」

「あのね。私から、重々、話しておいた。カラーズと舞姫に、背広組と制服組って対比は、ちょっと合わないかもしれないけど、まあ、両者間にあるジレンマ、ね。確かにある。あちらを立てれば、こちらは立たず、って。でも、できるだけ、両立させたいよね。お互いのために。というわけで!」

 立ち上がったみさとが、右腕を高く突き上げた。芝居がかった動作だった。

「静ちゃん、カラーズ入り。ジレンマの解消法を、私の下で勉強する、って名目さ。これで回りへの顔も立つよ。やったね」

「郷本さん。すみませんでした。私の考え違いで」

 ぺこりと下げられた頭に対して、尋道は小さくかぶりを振った。

「いえ。アスリートとしては当然の行動だった、と思いますよ。ただ、曲げて黙認してほしかった。前にお話ししたように、神宮寺さんを掣肘するがごとき行為を望んでいないんですよ。僕は。それなのに、音楽のとき、今回、でしょう」

「ん? 今回は、静ちゃん、神宮寺の邪魔はしてなくね?」

 みさとの指摘に対する尋道の弁が振るっていた。

「神宮寺さん絡みで動く僕に異を唱えれば、すなわち神宮寺さんを掣肘したことと同義になります」

「ひどい男」

 孝子は笑いが止まらない。

「ひいては、カラーズと、その下にぶら下がる全てのもののためになる、と信じるが故、ですよ。あなたには、それだけの魅力がある」

 言うと同時に尋道はロンドの歓待を受けている。

「ほら。ロン君だって、尋道君、そのとおりだわん、って」

「いや。腹減ったわん、とでも言ってるんじゃないの」

 一蹴しておいて、孝子は静を見た。

「ぴんときてないだろうけど、これが、この人の信心なんだって。はいはい、って聞いておいたほうがいいよ。けなすと全力で来る。さて、と。じゃあ、後は斎藤さんの言ったように、でいいかな」

「ええ」

 続いて、みさとの不在時に、さっさと進めてしまった部分の説明だ。尋道に一任する。

「え。麻弥ち、カラーズを辞めさせちゃうの!? 私、麻弥ちの絵、好きなんだけど」

「あいつが悪い」

 いきさつを知り、驚く静に即座の一撃を見舞う。

「でも」

「でも、じゃねえよ。この男をなめてるからこそ出てくるんだろうが。なんで、あいつが、なんてせりふが」

「いや、麻弥ち、そこまでは思ってないんじゃないかな」

「じゃあ、どうして、なんで、あいつが、なんて言うんだよ。すごいな、さすがだな、でいいじゃねえか。おい。説明しろ」

「まあ、まあ」

 尋道の仲裁が入った。

「静さんは正村さんを惜しまれているようですし、ここは、お任せしては、いかがですか? 」

「はあ?」

「といって、カラーズへの復帰は、さすがに、もう、難しいと思われますので、イラストレーターとしての契約を、どうするか、という話になってくるかと」

「どうしてカラーズへは戻れないんですか?」

 静が問うてきた。

「前に、無理矢理、返してもらう、ってまねをやっていますのでね。もう一度、返せ、とは、提携企業に対して、言っていいことじゃない」

 ちらりと見られたので孝子はにらみ返す。

「私じゃねえよ。あっちの副所長さんに攻められて、マヤ公、あっぷあっぷしていたところを、この人が引き戻してくれたんだよ。それなのに、恩を仇で返すようなまねしやがって」

 静の視線が目まぐるしく動いた。

「事実」

 尋道は反応せず、声はみさとだ。

「うちの母親、私たちを欲しがってたんだ。で、一計を案じやがったのさ。郷さんのいるカラーズに、お前たちの居場所はないぞよ。うちに、残れ、残れ、って。私は、んなわけあるかい、郷さんは私を待っててくれてるわ、って突っぱねたけど、正村は言い返せなくてね。うーん。あいつなりに郷さんの辣腕はわかっていたはずなのに、なんで、あんな、つまらないことを言うかな。と、失敬」

 横道にそれた話を、みさとは自ら修正した。

「正村ったら、神宮寺の言ったとおり、あっぷあっぷになって。で、落ちたか、ってところで、郷さんの登場さ。自分の名前をだしに使われて、ご立腹なもんで、大立ち回りよ。うちの事務所に乗り込んできて、そこまでして欲しい人材に育ったなら、お願いしていた研修は終わったとみなす、返していただく、って。すごかった。私、うちの母親が、あそこまでめった打ちにあったの、初めて見たもんね」

 がっくりと静がうなだれた。

「そんな人に、麻弥ち、なんで、なんで、って言っちゃうの」

「なめてるんだよ」

「かなあ。郷本さん。私、お任せされちゃって、本当にいいんですか?」

「もちろんです。僕は正村さんをイラストレーターとしては買っていますので」

 孝子の重畳。みさとの曖昧。やや遅れて静の氷結。イラストレーターとして、は、とは誠に痛烈な一言といえた。あちらがこちらをなめているように、こちらはあちらを、という表明なのだ。義妹のカラーズにおける初仕事は、どうやら大変な難事となりそうな気配である。

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