↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知標  作者: 一族
PR
749/832

第七四八話 花咲人(一三)

 二人分のコーヒーを淹れて、一方を尋道に供す。しかる後に孝子はダイニングテーブルに着いた。尋道とは差し向かいの位置だ。聞きの態勢に入る。

「気になるのは、完全に縁を切らせる、という副所長さんの言葉の範囲、ですよね」

 促されるままに尋道は語りだした。

「グラフィックシャツも含めて、となると、影響は大きくなりそうだ」

 カラーズの主力商品、「カラーズグラフィックT」は麻弥の手によるものである。

「あと、副所長さんの意向以前に、正村さんから願い下げを通告される可能性もありますし」

 麻弥がカラーズに対して恨めしい感情を抱く可能性を尋道は指摘している。

「どうするの」

「正村さんのイラストは好きなんですけどね。別のイラストレーターを立てる必要性が出てくるかもしれません」

「具体的に」

「まだ何も。事態の進展が見えていませんし。正村さんが続けられるなら、それが一番なわけで」

「そんなはずない」

 この男が、まだ何も、の段階で口の端に掛けてくるはずがなかった。

「まあ、そうなんですが」

「ほら、みろ」

「お二方、いいな、と思うイラストレーターさんがいらっしゃいましてね」

 スマートフォンが差し出されてきた。写実的なイラストと抽象的なイラストが交互に示される。

「踏襲か、変革か、ですか」

 写実的だった麻弥の路線を引き継ぐか、思い切って変え改めるか、と尋道は言っているのだ。

 対照的なイラストを見比べているうちにドアホンが鳴った。

「出ないんですか?」

 無視していると尋道が喚起してきた。

「出ていいよ」

「出ませんよ。こちらの人間じゃないのに」

 今度はスマートフォンだ。着信を拒否すると抗議の声が届いた。

「それ、僕のスマホだって、わかってます?」

「わかってるよ。勝手に切ってもいい相手だったの。ミサ公。出て。きっと鍵だ」

「先ほども言いましたけど、部外者なんですがね、僕は。この家の」

 ぶつぶつ言いながら尋道は席を立った。直に、

「こらー!」

 と大声とともにみさとがDKに押し入ってきた。

「切るなよ!」

「うるせえ。取り込み中だったんだよ」

 再び検分に戻っていた孝子は顔も上げない。

「何をしてたのさ」

「神宮寺さん。それより静さんがいらっしゃってますよ」

 みさとに加えて静まで居合わせる状況だった。イラストレーターの件は、ひとまず打ち切りたかったのだろうが、構うものではない。

「郷本君よ。私は、こっちの人が好きだな」

 孝子が示したのは抽象的なイラストのほうであった。

「何さ。なんの話?」

「マヤ公の後釜」

「ちょっと! 話、先に進めないで、って言ったでしょう!」

 憤慨するみさとの叫声に、事情を知らぬ静の困惑に、とDKはひとしきり騒がしい。

「決まってませんよ。一切、何事も決まってませんし、近々に決まる予定もありません。口外をなさらないように。はい。この話は、終わり」

 ぴしゃりとやられた。進展が見込めなくなったので、孝子は次に移る。

「剣崎さんとの関係のほうは?」

 のけ反った尋道は、沈思を経て、口を開いた。

「お二人とも、座ってください。で、疑義があっても、口を挟まないように。説明は、後ほど」

 この言で場は収まって再開だ。

「神宮寺さん。簡単な話ですよ。正村さんと縁遠くなった場合、剣崎さんとも縁遠くなる可能性がある、というだけの」

 同棲する恋人同士の麻弥と剣崎なのである。

「そうなったら、どうするの」

「ならない、とは思っていますが。剣崎さんはプロフェッショナルなのでね。ただ、残念ながら、となったときには、義兄を押させていただきましょう」

 義兄、の一言に、孝子は噴出だ。

「いいよ。むしろ何も起こらなくてもリューイチ・セキを使えばいい」

「それは、いけません。力量に雲泥の差があります」

 双方、起きてほしくない事態だが、より深刻なのは後者。注視していくので報告を待ってほしい、と尋道はまとめた。よかろう、と孝子は承認する。次だ。次は、愚妹だ。みさとは、どのようにまとめてきたか。こちらも、お手並み拝見を決め込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。