ハンター
真っ黒な画面。
白い文字が、虚無の中で揺らめいている。
『おめでとうございます。あなたはプレイヤーになりました』
そして、何もない。
ただの闇。
重く。
果てしなく。
……。
はっと目が覚めた。
呼吸が荒い。まるで、肺が何かの罰を受けているかのようだった。
吸って。
吐いて。
もう一度、鋭く吸い込む。
心臓が激しく脈打っている。まるで胸から逃げ出そうとするかのように。
少し落ち着くまで、しばらく時間がかかった。
周囲を見回す。
部屋だ。
白い壁。
横たわっている白いベッド。
そして窓。そこから、穏やかな昼の光が差し込んでいる。
「……ここ、病院か?」
かすれた声で、自分に問いかける。声は、喉からやっと絞り出したようなものだった。
「それとも、死後に見る夢の一種か何かか?」
手を上げ、自分の頭に触れた。
慎重に。
恐る恐る。
……。
頭は、ちゃんとある。
完全に無傷だ。
切断された痕跡なんて、どこにもない。
何もない。
震える手で病院着の裾をめくり、胸と腹を見た。
傷跡を探す。
短剣で刺された痕を。
あれが現実だったという証拠を。
……。
何もなかった。
無傷の肌。
傷ひとつない。
痕跡ひとつない。
少なくとも「クラスメイト」だと思っていた六人によって、六回も刺されたことを証明するものは、何一つ。
「胸……無事なのか?」
白い天井を見上げる。
「あれは全部……ただの夢だったのか?」
だが、あの時感じた痛みは、夢なんかじゃなかった。
流れ落ちていく自分の血を見たあの光景も、夢なんかじゃなかった。
篠宮のためらいがちな眼差し。女神の冷たい声。
すべてが、痛いほどリアルだった。
ドアがノックされた。
コンコン。
びくりと肩が跳ねる。
「……どうぞ」
ドアが開いた。
一人の女性が入ってくる。
三十代後半くらいだろうか。
長く赤い髪が、背中の下まで流れている。
そして、奇妙な光を宿す赤い両目。
上品なスーツを、きっちりと着こなしていた。
その佇まいだけで、只者ではないと分かる。
「やっと目が覚めたようね」
声は穏やかだった。だが、その中に確固たる芯があった。
「あの……あなたは?」
まだ散らかった思考をかき集めながら、そう尋ねた。
彼女はコートのポケットから小さなカードを取り出し、俺に見せた。
「ハンター協会、監視部部長。名前はサイラよ」
カードを見つめたが、よく理解できなかった。
ハンター協会?
聞いたことのない名前だ。
「監視……部?」
慎重に、聞き返す。
「なぜ俺に会いに?」
サイラは、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。まるで、日常茶飯事とでもいうかのように、実に落ち着いた様子だった。
「説明するわ」
▽
長い説明の後——。
いくつかのことが、ようやく理解できてきた。
この世界は、俺がアストリアで知っていた世界とは違う。
ここには、他の世界から勇者を呼び出す王などいない。
代わりに、「ゲート」と呼ばれるものが存在する。
世界と世界の間に突然生まれる裂け目。そこから魔物が現れ、時には——魔物よりもさらに奇妙な何かが出てくることもあるという。
そして、そのゲートに立ち向かう者たちは、「ハンター」と呼ばれている。
一つの協会の傘下に組織された者たち。
彼らの使命は?
生き延びること。
そして、その裂け目から出てくるものを、討伐すること。
俺は、黙ってすべてを聞いていた。
そして、目覚めてからずっと引っかかっていた質問を投げかけた。
「……俺は、丸一週間も意識を失っていたのか?」
「ええ」
彼女は、あっさりと答えた。
「どうやって、ここに?」
サイラは、赤い両目でじっと俺を見つめた。まるで、俺の顔から何かを読み取ろうとするかのように。
「あるゲートから脱出した生存者たちから、通報があったの。とある組合がすぐに現場へ急行した」
少し間を置いてから、続けた。
「そして、生存者たちを発見した——その中に、あなたもいたのよ」
「彼らの中に……?」
「あなたが突然、彼らの間に現れたと証言している。完全に意識を失った状態で。どこから来たのか、誰も分からなかった」
俺は、何も言えなかった。
ゲート?
あれは、俺の首が斬られた後に落ちたあの門だったのか?
あの門が、俺をアストリアとはまったく違う世界に放り込んだというのか?
サイラが、突然立ち上がった。
真剣な表情で、俺を見据える。
「名前は?」
シンプルな質問だった。
だが、その口調は、シンプルなんかじゃなかった。
「名前は……黒崎ミナトです」
「あなた、ハンターね」
質問ではなかった。
断定の言葉だった。
まるで、それが当然の事実だとでもいうように。
一瞬、考えた。
何と答えればいい?
「いや、俺はただの高校生で、異世界で理由もなく殺された哀れな男です」とでも言うのか?
そんなの、頭がおかしいと思われるだけだ。
いや——むしろ、危険かもしれない。
「はい」
俺はようやく答えた。
「俺はハンターです」
サイラは、あまり温かみのない、薄い笑みを浮かべた。
「ハンター、黒崎ミナト……」
一歩、近づいてくる。
「もしかして……」
一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。
「あなた、二度目の覚醒を経験したのではなくて?」
俺は、完全に困惑した表情で彼女を見つめた。
「二度目の……覚醒?」




