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拒絶の終わり

「くそ——マジでこんなの信じろってのか!?」

黒沢の叫び声。

「異世界だぁ!? はっ! どうせドッキリだろ! つまんねえんだよ! この陰気な空気、いい加減にしろ! 死ねよ!」



「連れてきなさい」

女神は、静かに兵士の一人へ指示を出した。

黒沢の激しい怒りなど、まるで意に介さない様子だった。


しばらくして、ボロボロの服を着た男が部屋に入ってきた。

両手は鎖で縛られている。

両脇を、二人の兵士に固められて。

男は怯え、動揺しているように見えた。

兵士の一人が、槍の柄で彼の背中を押している。



男は無理やり前へと押し出された。

「な——なんだこれ」

女子の一人が、部屋の入り口を指さした。

震える指先が、何かを示している。

それは、ボロを着た男ではなかった。

それは——

緑色のゴブリン。

…………。

おそらく、ゴブリンだ。

太い首輪をつけている。



手綱代わりの鎖で繋がれ、自由な動きを封じられていた。

特に体格のいい兵士が一人、その鎖をしっかりと握っている。

それにしても、やけに強そうなゴブリンだ……。


色も、妙だった。

なんだこれ。

赤い両目?

「このような魔物は、あなた方の世界には存在しないでしょう?」

「い、いや、色塗ってるだけだろ!? ただの偽物の着ぐるみじゃねえか! やめろって! この寒い空気、マジでイラつくわ! 死ねって!」



黒沢は、なおも頑なに言い張り続けた。

女神は一瞥だけで、兵士に指示を送る。

「グルル……グガアアアアアアッ!」

ボロを着た男が、びくりと震えた。

その顔に、何かを悟ったような表情が浮かぶ。

「ひ、ひぃっ!? や、やめ——」

「ガアアアアアアッ!」

ゴブリンが、ボロを着た男に飛びかかった。

「あああああああああっ——!」



女子たちの悲鳴が響き渡る。

叫び声は、部屋のあちこちで連鎖していった。

「げ——おえ……おえっ! おえぇぇっ!」

男子の一人が、嘔吐した。

ゴブリンの口が、獲物の肉を引き裂く。

襲われた男の悲鳴が、次第に消えていく。

やがて動かなくなった。


そして、ゴブリンはその体を貪り始めた。

牙を使って、「食事」を始めたのだ。

あまりにも衝撃的な光景だった。

だが、その後に起きたこと——。

次の瞬間に起きたことこそが、すべてを決定づけた。

女神が、食事に夢中のゴブリンへと腕を伸ばす。


「悪を祓う聖なる鎖よ、女神イリューラの名において命じます。悪を焼き、滅せよ——」

女神の前に、魔法陣らしきものが浮かび上がった。

そして、次の瞬間——。

ゴブリンは、鎖のような炎に包まれた。

白い炎。



ゴブリンは、鎖を引きちぎろうともがいた。

だが、その抵抗も一瞬だけ。

すぐに完全に燃え尽き、灰と化した。

臭いが、こちらまで漂ってくる。

焦げた臭い。

肉の焼ける臭い。

部屋の隅にいた男子たちが、ひそひそと話し始めた。


「い、今の魔法じゃね?」

「いや、呪文って言うんじゃないか?」

「どうでもいいけど……」

「これ、マジで異世界っぽいよな」

「女神様、一番手っ取り早い方法で証拠見せてくれたよね〜」

「実際に目で見るのって、やっぱすごい説得力あるわ」

「なんか、逆にちょっとテンション上がってきたかも〜」



危機感は、それほど強くなかった。

なんと言えばいいのだろう。

まるで、退屈な日常からようやく抜け出せたかのような空気。

そういう感覚。

一方、女子たちは——。

泣き出す者もいた。

その場でへたり込み、恐怖で崩れ落ちる者もいた。

「いやあああ……!」

「な、なに今の!?」

「CGでしょ? トリックか幻覚か何かだよね?」

「うっ……肉の焦げた臭い……気持ち悪い……」



「うわあ……もうやだ……帰りたいよぉ……」

「これマジであり得ないだろ、はは」

一部の者は、どこか楽しんでいるようにも見えた。


だが大半は、悲観的で、恐怖に沈んでいた。

担任の霧崎は、呆然としていた。

口は、衝撃のあまり開いたままだ。

あの有名な「真実の口」の彫像さながらだった。


桜井も、今回ばかりは驚いた様子だった。

だが、怯えているようには見えない。

俺の印象では、ただ純粋に驚いているだけ、という感じだった。


一方、黒沢は——。

怒り、そして悔しさを滲ませていた。

目の前で起きたことを、現実だと認めざるを得なくなったのだ。

だが黒沢は、つい先ほどまで「偽物だ」と言い張っていた。

そして結局、彼は向き合わされることになった——


現実に。

否定のしようがない、圧倒的な現実に。

その顔は、今もっとも強く感じているのが「悔しさ」だと物語っていた。

篠宮は、汗をかいていた。

おそらく、冷や汗だろう。

明らかに動揺している。

だが、その動揺を必死に隠そうとしていた。

今は、泣き出した女子たちを慰めている最中だった。



「大丈夫だから」と、彼女たちに言い聞かせている。

きっと、クラス委員長として、しっかりしなければと考えているのだろう。

篠宮は、芯が強い。

こんな時でさえも。

一方、天野姉妹は——。


「なるほど。私たちが暮らしていた世界とは別の場所、あるいは別の惑星だと考えるのが、現状では最も妥当な解釈でしょうね。では、ここを異世界だと仮定した上で、思考と行動を組み立てていきましょう」

「こんな状況でも、お姉ちゃんはやっぱりすごいなあ……」



「これも一種の精神修養だと考えることもできるわ。悲観や混乱に時間を浪費するより、まず目の前の現実を受け入れて、そのうえで分析や安全確保に時間を使うほうが賢明でしょう」

「ちぇ……私、まだまだお姉ちゃんには程遠いなあ……」


「修行を続ければ、あなたにもできるようになるわ、リョウカ」

「うん……頑張ってみる、お姉ちゃん……」

二人は、驚くほどいつも通りだった。

無関心と、極限までの落ち着き。

特に姉のほうは、驚くべき精神力を見せていた。



まるで、少しも動揺していないかのように。

天野姉妹。

なんというか。

彼女たちは、すでに次元が違う存在だった。

一方、森山は——。

戸惑っているように見えた。

だが……。


なぜか、口の端がわずかに上がっていた。

▽

「とりあえず、今は女神様の言葉に従おう! ここで疑い続けても、事態は前に進まない! まずはお互いを信じることから始めるべきだ!」

さっきのゴブリン焼却事件で、完全に怖気づいたのだろうか。



霧崎の背後に、大きな白旗がはためいているような気がしてならなかった。

男の死体と、元ゴブリンだった灰は、すでに片付けられていた。

そして今、別のものが部屋に運び込まれてきていた。


台座と、水晶。

水晶は、俺の腰より少し高い位置にあった。

そして俺たちは、一人ずつこの水晶に手を触れるよう指示された。

何かを測定しようとしているらしい。

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