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異世界召喚株式会社 〜ただの社畜がホワイト経営を狙う〜  作者: 四方 アマノ(しほうのあまの)


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第3話 食事を買ってきてください。制限時間は15分間

北のオフィスビル編 第三話


「ということは、元の世界に戻れるということか?」


「そうですが、少し違います。このストラクチャーと、同じ構造・意匠を持つ建物等と同化し、ダンジョン内をその建物に転移させることが出来る。という意味です。 マスターのオフィスビルの1階と、このストラクチャーの1階は同じ構造なので、重ね合わせるように違和感なく同化できます。そして、こちらの人・モノを転移させても、あちらの皆さんも、特に違和感なく、元からあったように感じるでしょう」


「まてまて、ぶっ壊れた玄関、亀、半裸の女冒険者も現れるって、そんなの気づかないはずがない。俺は通報されてしまう」


俺の指摘に、アマノはセンサーカメラをパチパチと瞬かせた。

「異質すぎますか? そうなると、そのままロビー全体を同化させ、内部を転送すると、警察やマスコミが大騒ぎになって……マスターの社会的な死亡は免れませんね」


「だろ!? ならどうすんだよ!」

「しかたがないので、ダンジョンの一部を分離し、その分離部のみを同化させて転移させることにしましょう」


アマノは素早くコンソールを叩き、ホログラムのビル見取り図を表示した。

「今回は、エレベーターホール周辺の小部屋区画だけを同化させ、マスターだけを一時的に元世界のビル内へと帰還させましょう」


「おお、それならロビーの惨状を持ち込まずに済むか?」

「はい。ただしリスクもあります。ダンジョンコアが所属しない分離部を維持するには、通常の十倍のエネルギーが必要となります。さらに、分離中に備蓄エネルギーが枯渇した場合、コアの所属しない分離部に対するマスターの支配権は瞬時に解け、空間が崩壊します」


「……十倍のエネルギーに、支配権の喪失って、めちゃくちゃヤバくないか?」

「ですから制限時間があります。最大でも15分間でお願いします。15分が経過した瞬間、緊急召喚システムが作動し、強制的に同化を解くとともに、マスターをコアの傍へと引き戻されますのでご注意を」


「……では、食事を買ってきてください。制限時間は15分間、いいですね」


まるでパシリじゃないかと内心で愚痴りながら、俺はエレベーターホールから飛び出し、地下1階のコンビニへと走り出した。 途中ですれ違ったOL達が、必死な形相の俺を見て怪訝な目を向けてきたが、そんなものは気にしていられない。


店内に入るや否や、俺は備え付けのレジカゴを掴み、狂ったように棚の商品を放り込んでいった。 弁当を4つ、おにぎりはありったけ、サンドイッチや総菜パン、プリンなどのデザート類もカゴの隙間に詰め込む。


(くそっ、もうカゴが一杯になっちまうな……!)


俺はすぐ近くのレジカゴ置き場からもう一つを取り出し、2つのカゴに、飲料も大量に確保する。流石にこの状況でアルコールはやめておこう。

さらに、ハッと気づいて衣料品の棚へと方向転換する。


「彼女に羽織れる上着だな……あ、ちょうど良さそうなオフィスレディー用のカーディガンがあるな。あ、下着も……ついでに俺の下着も」。


さすがオフィスビルの中にあるコンビニだ。絶妙なラインナップに感謝しつつ、ついでに必要になりそうなオフィス用品に、救急用品、消毒液や絆創膏に、懐中電灯も、適当にカゴに放り込む。 気がつけば、両手に持ったカゴは2杯とも山盛りになっていた。急いでレジへ向かおうとしたその瞬間、頭の中に直接響くような電子音が鳴り響いた。


「――警告。マスター、残り時間が少なくなっています。直ちに帰還してください」

アマノの緊迫した警告音声が、脳髄を激しく揺さぶった。


次の瞬間には見慣れた異世界の1階ロビーへと強制送還されていた。

「――っ! 」


手には山盛りのカゴが2つ。ドサリとロビーの床にそれを下ろすと、半裸の女性冒険者が目を丸くして飛び起きた。

「き、急に現れたと思ったら、大量の荷物を持って……一体、どんな魔法なんですかそれ……!」


驚愕する彼女を放置し、俺は血走った目でアマノに向かって叫んだ。


「おい、アマノ! レジを通す間もなく強制送還されたぞ! これって完全に万引き、無銭飲食じゃねぇか!」

「マスターは欲張りですね。そんなにたくさん持ってくるとは想定外です」


「いや、これは、着替えとか、文具とか、必要かなと思ったから」


「お弁当だけでしたら15分で会計もして帰還できたと思いますが。やれやれ、エネルギー不足で、再度の同化はできません」


「いや、まて、まて、監視カメラの映像に、レジを通さず大量の商品を持ち去る俺の姿がバッチリ残ってるだろ! 俺は元世界で指名手配犯にでもなるのか!? ていうか、そもそも俺の存在ってどうなってんだよ。元世界じゃもう死んでる扱いなのか?」


俺の切実な疑問に対し、アマノは微塵も悪びれる様子を見せず、平然と言い放った。

「いいえ? マスターの世界での立ち位置は、何も変わりませんよ」


「は?」


「マスターはマスターです。今この瞬間も、あなたは日本のオフィスビルで働く、サラリーマンです。あくまで、ビルの1階ロビーとをこちらと一時的に同化させ、マスターをこちらに連れてきただけで、肉体自体が完全に消滅したわけではありませんので、戸籍が消えたり死亡扱いになったりすることはありませんよ」


「……ってことはだ」

頭の中で最悪の事実がパズルピースのようにカチリとハマり、俺は絶句した。

「俺は、勤務中にオフィスを無断で抜け出してサボっていた挙句、15分でコンビニの棚から商品を強奪し、そのまま無銭飲食をかましたドクズ社員ってことじゃねぇか……!」


どうしたものかと頭を抱えていると、タイミング悪く、ぐうぅ……と盛大に腹の虫が鳴り響いた。


「まあ、なるようになれだ……。考えても仕方ねぇ、まずは飯にしよう」


開き直ってカゴのコンビニ弁当に手を伸ばそうとしたが、先ほど強制送還された際にロビーの床に手をついてしまったため、指先がうっすらと埃が付いていた。食事の前に手を洗いたい。


「おいアマノ。このサバンナで、手を洗えるところはあるか?」

俺が尋ねると、アマノは即座に答えた。


「はい。西の玄関を出て右手に進みますと、綺麗で澄んだ小川がございます」


「よし、ちょっと行ってくるか」


「マスターお待ちください。出かける前に、玄関を直しておいてください。魔法は、ダンジョンリペアーです。散らばっているガラスと部品が、自動ドアに直るイメージを持って、慎重に唱えてください。くれぐれも変なイメージを持たないようにしてください」


そう言われて、普段目にする自動ドアのエントランスポーチを思い浮かべて、呪文を唱えた。

「ダンジョンリペアー」


まるで、映画の逆再生のように、破片が集まり自動ドアが元に戻った。異世界に来たことを、真に実感した。


気を取り直して、外の荒野へ足を踏み出し、オフィスビルの外壁に沿って歩くと、アマノの言った通り、さらさらと清らかな水を湛えた小川が流れていた。こんな荒野に不自然なほど美しい水流だ。 屈み込んで冷たい水で手を洗おうとした瞬間、脳内にアマノの緊迫した声が直接響いた。


「――マスター、警告いたします。ダン……ストラクチャーの境界から5メートル以上離れないでください」


「ん? 5メートル?」

「はい。外縁から5メートル以内であれば、マスターとコアのエネルギーのつながりは辛うじて保たれますが、それを超えて5メートル以上離れてしまいますと、現在の我が社のエネルギー備蓄では数分で強制帰還させられます。くれぐれもご注意を」


ビルの北西の角から、小川の岸までは3メートル、川幅は5mくらいで、ほぼ西から東に小川が流れているが、下流側が少しずつ北、ビルから離れる方向に逸れて行っている。

ここならまだセーフティ圏内である。安心して、冷たい水で丁寧に指先の汚れを洗い流した。


ふと気配を感じて振り返ると、女冒険者が、オフィスレディー用カーディガンを、ブカブカに羽織りながら、いつの間にか後ろをついてきていた。


「どうした、そんなところで」


俺が声をかけると、彼女はおずおずと裾を摘まみ、申し訳なさそうに答えた。


「あの……、アマノさんの冷たい視線と、あと気絶した亀がいつ起き出すかも怖くて……つい……」


トボトボと近づいてくる彼女を見て、俺は苦笑交じりに肩をすくめた。まあ、あんな化け物のすぐ傍に一人で取り残されたら、確かに生きた心地はしないだろう。


「そうか。まあ、危ないから勝手に遠くへ行くなよ」


言いながら、彼女が羽織っているカーディガンに目をやる。先ほどコンビニの棚から適当に掴んできたものだが、細身の彼女の体型には少し大きく、それがかえって守りたくなるような可愛さを引き立てていた。


「それと……その、これ。ありがとうございます。すごく暖かくて、安心します……」


彼女は両手でカーディガンの裾をキュッと握りしめ、ぽっと頬を染めながらお礼を告げた。

「まあ、いいさ。腹も減ったし、俺はここで飯にする。良かったら、少し食べるか?」


俺は小川のほとりの柔らかい草むらに腰を下ろし、コンビニ弁当の包みを開けた。

落ち着かない様子で近くにちょこんと座った彼女に、俺は少し気前よく、幕の内弁当から取り出した黄色い卵焼きを一つ摘まんで差し出した。


「ほら、食えよ」


「えっ……、あ、ありがとうございます……!」


彼女は恐縮しながらもそれを口に運び、次の瞬間、またしてもぽろぽろと大粒の涙をこぼした。


「ひぐっ……おいしいです……。こんなに甘くて優しい味がするもの、初めて食べました……」


「大げさだな……まあ、美味いならいいけど」


一通り弁当を平らげた後、俺はデザートのプリンの蓋をペリリと剥がし、スプーンと一緒に彼女へと差し出した。


「デザートもあるぞ。甘いものは好きか?」


「わぁ……ありがとうございます!」


一口すくって口に入れた瞬間、彼女は目を見開き、そして次の瞬間――すごい勢いで詰め寄ってきた。


「なっ……なんですか!この食べ物はぁぁっ!?」


「うわっ、なんだよ急に!」


彼女は俺の肩をガシッと掴み、瞳を限界まで見開き、興奮状態でまくし立てる。


「トロトロにとろけて、舌の上で消えました……!? なんですかこれ、魔法の秘薬ですか!? え、こんなの絶対体に悪いものが入ってます! でも美味しい!これの名前は何ですかぁっ!」


片手にプリンの容器もつ彼女に、ぶんぶんと揺さぶられながら、俺はなだめる羽目になった。


「おい、落ち着けって! そんなに揺するな、プリンがこぼれるだろ!」


俺が必死に彼女の腕を掴んでなだめようとすると、彼女はさらに興奮した様子で目を輝かせた。


「教えてください、マスター! これはいったい何でできているんですか!? そして、これほどの至高の食べ物は、どこの街に行けば手に入るんですかっ!」


「いや、どこって言われてもここは異世界だし、俺の世界に転移するでしか……」


「決めました!」


彼女はビシッと力強く宣言すると、勢いよくその場に立ち上がった。

だが、興奮のあまり足元がおろそかになっていたのか、草むらの縁で足を滑らせた。


「あっ……!」


「おいっ!」


体勢を立て直そうと腕を振り回したものの、あえなくバランスを崩し、彼女はそのまま小川へ向かって綺麗なフォームでダイブしていった。


バシャアァァンッ!


(続く)

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