カレンはいい子
……何故、こうなったのだ?
俺はただ、平穏に過ごしたかっただけなのに。
食堂に入った俺は、注目の的であった。
俺も王子なので目立つが、それ以上にセシリアは綺麗なので目立つ。
「おい、リオン殿下がいらっしゃったぞ」
「隣にいるのはセシリア様よ。相変わらず、お綺麗ね」
「隣にいるのは平民の女の子? なんでだ?」
「まさか、愛人かな? まさか……奴隷に?」
待て待て! 俺は愛人、ましてや奴隷など持っていない!
確かに、そういう風に思われても仕方ないが!
……そもそも、この体は童貞である。
「ふぇ? 何か注目されてます?」
「カレンといったかしら? 当たり前よ、リオンは第二王子なのだがら」
「す、すみません。王族が偉い人っていうのはわかるんですけど、小さいな村で育ったので」
「まあ、仕方ないわね。これも貴族の役目、私が色々と教えてあげるわ」
そのやり取りに、思わず苦笑してしまう。
そうだ、セシリアは面倒見の良い女の子だった。
それもあって、俺にもアレコレと世話を焼こうとしたのだったな。
「何を笑っているのよ?」
「いや、面倒見が良いと思ってな」
「べ、別に普通よ」
「ふっ、そうか……とりあえず、並ぶか」
「へっ? 並ぶの?」
「当たり前だ、俺は順番を抜かすような真似はしない」
驚くセシリアを他所に、トレイを持って列に並ぶ。
その間に、上に貼ってあるメニュー表を眺める。
うどんやパスタ、丼系など様々だ。
この辺りはゲーム基準なので、慣れ親しんだメニューなのが助かる。
「わぁ〜いっぱいあります」
「好きなのを頼むと良いわ。基本的には、無料になってるから」
「まあ、学費のうちに入ってるしな。さて、俺は何するか……ん?」
その時、俺たちの前の方に貴族の生徒達が現れた。
そいつらは並んでいる平民の生徒達に話しかける。
「おい、俺達に場所を譲れ」
「えっ? ぼ、僕らずっと並んでたんだけど……」
「口答えをするな」
「そうだ、我々を誰だと思ってる」
どうやら、割り込みをしようとしているらしい。
俺は割り込みをする奴が、前世の頃から嫌いだ。
怒りから、拳を握りしめる。
「許せん」
「リ、リオン?」
限定何食とかのラーメンだと、最悪商品がなくなる。
俺はそのせいで、何回か酷い目にあっていた……何時間も並んだのに。
なんか思い出してムカついてきたぞ。
気がつくと、俺は魔法を放っていた。
「ラーメンの恨みを思い知れ——アイスフォール」
「イタっ!?」
「な、なんだ!?」
頭に氷の玉を食らった男達が頭を抱えて蹲る。
その間に俺は近づき、怒りをぶつけた。
「貴様ら順番は守れ! それがルールだ!」
「リ、リオン殿下!?」
「し、しかし、我々は子爵家の者で……」
「ほう? 王子の俺が並んでいるのに、そこに割り込むと? ……良い度胸だな」
「「ヒィ!? すみませんでしたー!」」
二人は蜘蛛の子を散らして、一番後ろの列に行った。
それを見送った後、絡まれていた平民達が頭を下げてくる。
「「リオン殿下、ありがとうございました!」」
「感謝される謂れはない。単純に、俺の怒りが収まらなかっただけだ」
ふん、食い物の恨みは恐ろしいのだよ。
スッキリした俺は、二人の元に戻る。
すると、セシリアがニヤニヤ見てきた。
しかも、カレンは目を輝かせているし。
「なんだ?」
「ふふ、リオンの方がよっぽど面倒見いいじゃない。あんな風にして、平民を庇ってあげるなんて」
「す、素敵でした!」
「……ただの気まぐれにすぎん」
真っ直ぐに褒められ、俺はどうしていいかわからない。
結局俺は、二人から視線を逸らして他所を見るのだった。
その後、商品を受け取ったら席を探す。
そんな中、カレンがとあるテーブル席に指をさした。
目で追うと、奥の方にまだ空いてるスペースがあった。
なのに不思議と、誰も席についていない。
「あっ、あそこ空いてます!」
「あそこはダメよ。リオンも、絶対に行かないように」
「ん? 何か問題があるのか?」
「えっ? どうしてですか?」
「とにかくダメ……うん、あそこにしましょ」
カレン俺も頷き、ひとまずセシリアについていく。
そして真ん中付近の空いてるテーブルに座る。
「あ、あの、それで何がダメだったんでしょうか?」
「あそこは上級生……それも貴族御用達のテーブル席とされているわ。ただ暗黙の了解だから、間違って座っちゃう人もいるみたい。平民が座ったら、面倒なことになるかと思って」
「ほう、そうなのか」
「もう、なんで貴方が知らないのよ」
いや、そんなこと言われても知らん。
というか……以前のままのリオンだったら、あの席に向かっていたのでは?
そして向かっていたら、何か問題を起こしていた可能性がある。
もしかしたら、セシリアに助けられたかもしれない。
「セシリア、感謝する」
「わ、わたしもありがとうございます!」
カレンも、律儀にきちんと頭を下げる。
ふむ、どうやら生真面目で良い子そうだな。
礼儀を知らないという割に、こういう行動が自然とできるのだから。
「べ、別にこれくらい大したことないわ」
「すまんな、カレン。こう見えて、此奴は照れ屋でな」
「な、なにを言ってんのよ!」
すると、激しい右ストレートが俺の肩を打つ。
なかなかの威力で悶絶しそうになるが、男の矜持でどうにか耐える。
「……おい、痛いのだが?」
「アンタが、いきなり変なこと言うからでしょ」
「一応、俺は王子なのだかな」
「だからなに? 私に敬語で話せとでも?」
「いえ、なんでもないです」
その睨みつける眼力に、思わず俺の方が敬語になってしまう。
全く、最近は暴力ヒロインは流行らないと言うのに。
これでは、嫁の貰い手も難しい……アークに頑張ってもらうか。
「えへへ、仲がいいんですね」
「どこをどう見たらそうなる?」
「そ、そうよ、別に……ただの腐れ縁よ」
「まあ、それは言えてるな」
「良いですね……わたしも友達出来るかなぁ」
ぼっちの辛さは、リオンも前世の俺も身に染みていた。
なるほど……カレンは別にメインキャラじゃないし平民だ。
イメージアップのために、恩を売っておくのも悪くないか。
何より、俺に対する先入観がないのが良い。
俺とて、ぼっちは辛いのである。
「俺で良ければ友達になるが?」
「……ふぇ?」
「ダメなら良いがな」
「い、いえ! よろしくお願いします!」
そういうと、花が咲いたように笑う。
なんだ、可愛らしい女の子じゃないか。
しっかりと整えたら化けそうな気がする。
「ちょ、ちょっと!?」
「なんだ? 俺の友達作りの邪魔をするな」
「ほ、本当にどうしたのよ? こういうことは言いたくないけど、相手は平民なのよ?」
「どうもしない。平民だろうと、ここでは関係ない」
その言葉に、セシリアが目を見開く。
確かにこのゲームにおいて、身分差というのは大きい。
だが建前上、学園のルールは身分差は関係ないとされている。
だったら、別に良いだろう。
「……そうよね、リオンのいう通りだわ。うん、私が間違っていた」
「え、えっと……」
カレンがオロオロしていると、セシリアが手を差し出す。
「私とも友達になってくれるかしら?」
「も、もちろんです! えへへ、初日から二人もお友達ができちゃいました。それに、お二人とも凄く良い方達で嬉しい」
「……俺でも心配になるレベルだな」
「……珍しく意見が一致したわね」
こんなに純粋では、誰かに騙されてしまいそうだ。
何せこちとら怠惰で傲慢な王子、セシリアは苛烈な性格で知られているが、この子は思いもしなそうだ。
これは、流石に放って置けないな。
俺とセシリアは顔を合わせ、無言で頷きあうのだった。




