決闘の約束
そのまま部屋に戻ろうとした俺だが、途中で立ち止まる。
何故なら、後ろから兄上と宰相殿が駆けてきたからだ。
俺が振り返ると、そこには焦った二人がいた。
「リオン、アレ美味しかったよ!」
「ええ、それは間違いないですな。しかし、由緒ある氷魔法をそのような……」
「まさか、氷魔法を食べ物に使うなんて……考えもしないよ」
二人の意見の方が普通だ。
初代国王が使ったとされる氷魔法は強力な魔法で恐れられている。
故に俺は恐れられていたし、それをスイーツに使う者などいなかったろう。
「それは良かったです。まあ、不敬かもしれませんね」
「いや、君が受け継いだのだから好きにしたらいいと思う。それで、あの他にもあるんだね?」
「ええ、今は色々と考えております」
「へぇ……僕も食べたいって言ったら?」
その目は、俺を伺うような視線だった。
兄上はいつも俺とは一線引き、基本的には関わってこなかった。
というより、リオンが良い子ちゃんな兄上を毛嫌いしていたからだろう。
そして、今思い出したが……ゲームのシーンで殺す時に兄上は『すまない』と。
きっと、俺のことを嫌ってはいなかったのだろう。
「もちろん、喜んで差し上げましょう」
「ほんとかい? ……うん、楽しみにしてるね」
「では、ご期待に添えるように善処いたします」
今世では、兄殺しなどしてなるものか。
そう決心すると、ずっと黙っていたゼノス殿が一歩前に出る。
この人だけは、俺への姿勢を崩さない。
それは当然の話だが俺は出来れば敵対したくない。
板挟みになるセシリアは見たくないから。
「リオン殿下、不敬を承知でお尋ねしても?」
「ああ、お主にはその資格がある」
「では、本当の目的は何ですか? 氷魔法を使って何をするのです?」
「だから言っているだろう。俺はスイーツ男子になると……まあ、言ってもわからんか」
俺はそこで剣を抜き、ゼノス殿に突きつける。
ゼノス殿は兄上の前に出て、腰にある剣に手を添えた。
「……何の真似です?」
「なに、昔のように剣でも交えたらどうかと思ってな」
「ふむ、剣を交えれば人となりがわかりますか。では、日を改めてお願いしてもよろしいかな?」
「ああ、俺はいつでも構わん。そうだな……決まったらセシリアに伝えてくれ」
それだけ言い、今度こその場を去る。
そして部屋に帰り、アンナから紅茶をもらい……深く息を吐く。
「ふぅ……疲れたな。いやはや、あの三人相手はしんどい」
「御主人様、お疲れ様でした」
「全くだ。それに、お前……刺客は排除しなくていい。おかげで、冷や汗かいたぞ」
「それは失礼しました。では、今後は遠くから見る分には許します」
「そうしてくれ」
これで、父上達の警戒も少しは溶けるだろう。
後は兄上の母親と妹、ゼノス殿のことか。
前者二人はともかく、ゼノス殿は敵に回したくないものだ。
そんなことを考えていると、再びノックがする。
「やれやれ、今日は来客が多いな」
「ほんとですね。とりあえず、見てきます」
アンナが扉を開けて対応をする。
すると、慌てて俺の元にやってきた。
「御主人様! 私の手の者より情報が!」
「私の手……お前、自前の部隊でも持ってんの?」
「情報は命ですから、秘密部隊を持つことなんて当たり前じゃないですか。それより、これを見てください」
「いや、それはそうだが……まあ良い、どれどれ……なんだと?」
そこには秘密部隊のことなど吹き飛ぶ情報が……いや、それはそれで気にはなるが。
ともかく、今の俺にとっては看過できない情報がある。
「アンナ、確かなんだな?」
「はっ、たまたま私の手の者が受け取ったので。なので、校閲もされておりません」
「つまり、この情報を知るのは我々だけということか。ククク……よくやった、褒めてつかわす」
「ふふふ、ありがとうございます。これで、上手くいきますか?」
「ああ、おそらくな」
二人きりの部屋、静かな笑いがとまらない。
この情報が確かなら、俺のスイーツ革命の夢に一歩近づくであろう。




