作戦成功
カレンとセシリアは、ひたすらソース作りをしている。
俺はその横で、新しいものにチャレンジすることにした。
同じ味では芸がないし、種類は二つはあった方が見栄えも良いだろう。
鍋に水と砂糖を入れて弱火で煮詰めていく。
すると気になったのか、隣で作業をしているセシリアが覗き込んできた。
「リオンは何をしてるの?」
「これはな、新しいソースを作っている。バリエーションを増やさないと、すぐに飽きてしまうからな」
「それはそうね。でも、そんなに砂糖を使って大丈夫なの? 私たちが食べるくらいなら良いけど、生徒達に渡すってなったら大変よ?」
ファンタジー世界あるあるかもしれないが、この世界でも砂糖は貴重だ。
全く出回らないということはないが、無限にあるわけではないし値段も高い。
スイーツ作りにおいて砂糖はなくてはならない存在……こちらも対策を考えねば。
「そこだな……どうしたら良いと思う? この辺りは、セシリアの知恵を借りたい」
「そ、そう? 仕方ないわね……他国から輸入するか、自分で用意するかしら?」
「やはり、そうなってくるか。しかし、輸入はコストが高いな。そうなると、自分で育てる……手間と時間がかかる」
「そうね……蜂蜜とか取れたらいいんのだけれど」
「それだ……セシリア! 良くやった!」
その手があった!
砂糖がなければ、蜂蜜を使えばいい!
しかも砂糖より健康に良いから糖尿病にもなりにくい!
「別に大したことじゃないわよ。でも、蜂蜜こそ難しいわ。魔物や魔獣がいる森へといかないと取れないもの」
「それはそうだが……俺に名案がある。とにかく、今はこれを成功させよう」
蜂蜜に関しては後回しにして、作業を続ける。
それが終わったら粗熱をとり、《《カットしたメロン》》と混ぜ合わせる。
どろっとしてきたら一度冷やして完成だ。
「よし、これで準備完了だ。やはり、イチゴがあるならメロンもなくてはな」
「どういうこと? 別に共通点とか無いと思うけれど」
「そういうものなのだ」
多分、これは俺にしかわからない感覚かもなぁ……アークもいたか。
ソースができた頃、アンナが戻ってくる。
なのでソースを入れた器を持って、部活生達がいるグラウンドに向かう。
そこには屋台が置いてあり、アンナに手配していたものだ。
「アンナ、宣伝はばっちりか?」
「はい、ただ御主人様の悪評が酷いので逆効果かもしれません」
「……そういやそうだったな。道理で、人が並んでいないわけだ」
夕方なので、まだ部活生達がグラウンドに沢山残っている。
しかし、屋台回りには人っ子一人見当たらない。
「これは、デモストレーションが必要になるか」
「どういうことよ? 普通に売ってはダメってこと?」
「ああ、そうだ。味を知る前に、まずは人を呼べるモノを用意せねば」
「でもでも、わたし友達いませんし……」
俺は当然のこと、セシリアも友達は少ないだろう。
しまった、ぼっちしかいない部活だった。
これは友達が多い者を引き込む必要があるかもしれない。
「大丈夫だ、俺に良い案がある。作戦変更だ……アンナ、お前の出番だ」
「御意、何なりとお申し付けください」
「では命ずる——カレンとセシリアを脱がせろ」
「な、何言ってんのよ!?」
「ふぇ!?」
「承知致しました。お二人共、覚悟してくださいませ」
「ちょっ!? どこ触って……」
「はぇ〜!?」
何処にそんな力があるのか、アンナが二人を担いで消えていった。
そして待つこと十分適度……頬を赤らめた二人がやってくる。
タイツと生足が眩しいその姿は、アンナと同じ黒のメイド姿だった。
ただスカート丈は短く、二人の頭にはカチューシャまで付いている。
「うぅー……なんで私がこんな目に」
「あ、足がスースーしますぅ」
「ふむ、二人共よく似合っているぞ。さあ、その姿で宣伝だ」
「……あんたが、ただ見たかっただけじゃないでしょうね?」
「だ、断じて違うぞ!」
ほんの少し、ほんのすこーし……そう思わなかったと言ったら嘘になる。
何せ、二人共めちゃくちゃ似合うのは目に見えていた。
特に谷間のあたりが素晴らしい……俺とて、健全な男子なのである。
「さあ、お二人共お願いしますね」
「仕方ないわね、やるからには本気よ」
「が、頑張ります!」
そうして三人によるビラ配りが始まる。
すると、唯一の希望であるセシリアに人が食いつく。
セシリアは友達こそいないが、その男前な性格から女子生徒には人気なのだ。
「あっ、セシリア様! メイド姿可愛いです!」
「ほんとだ! 素敵! でも、今日は部活ないのにどうしたのですか?」
「え、えっとね、リオンの手伝いをしているわ。良かったら、食べていかない?」
「くくく……一度食べたら飛ぶぞ?」
「だから、その冷笑をやめなさいってば。というか、言い方……はぁ」
「何をいうか……コホン、とりあえず食べてくれると助かる」
こんなところで言い争いをしてはいけない。
そして二人は俺とセシリアを見比べて……静かに頷く。
きっと、断ったらひどい目に合うとか思ったのだろう。
まあ、俺としては食べてくれるなら問題ない。
「良かったわ。それじゃ、すぐに作るから待ってて。リオン、二人前お願い」
「ふっ、お安い御用だ……氷よ」
「じゃあ、わたしがソースをかけちゃいますね……はい、出来ました」
そうして出来た、二種類のかき氷の器を女子生徒に渡す。
二人の目はキラキラし、そのかき氷を凝視していた。
ふふふ、見たことないだろう。
「わぁ、これひんやりする」
「この白くふわふわしたのが氷なのでしょうか?」
「ええ、冷たくてふわふわしたのが氷よ。さあ、席について食べてちょうだい」
セシリアに促され、二人は用意したテーブル席に座る。
そしてスプーンを使い、恐る恐るかき氷を口に含む。
すると一転し、その表情が歓喜に包まれる。
「うぅ〜! 冷たくて頭がキンキン……あれ……でも美味しいわ! こちらはイチゴのジャムかしら? 甘酸っぱくて癖になるわ」
「本当に冷たくてふわふわで……美味しい。こっちは甘いメロンをかけた感じですか?」
「そっちも美味しそうね……あの」
「「交換しよう?」」
二人の生徒が顔を見合わせ、同じ言葉を口にした。
そしてクスクスと微笑み合う。
それを見たからか次々と人が集まってきた。
「ねえ、あれ何かな?」
「なんだろ? ちょっと行ってみるか?」
「気になるよね」
最初は躊躇っていたが、女子生徒が食べる姿に耐えきれず徐々に人がやってくる。
食べた者が目を見開き、それぞれシェアなどをして食べ進めていく。
「どうやら、俺の狙い通りにいったようだな」
「どういう意味よ?」
「人とは自分が美味しいと思った物を知ってほしいという欲がある。そして他人が食べている物が気になる」
「そういうこと……それを広めるし、一種類だけじゃ満足出来ないからリピーターになるわけね」
「そういうことだ。そして抜け出せなくなる……くくく、完璧だ」
いずれは、その味覚から逃れられなくなるのだ。
その時こそ、スイーツが世界を変えてくれるはず。
そして、俺を破滅ルートからも救ってくれるというわけだ。




