作戦開始
退屈な午後の授業も終わり、放課後になる。
ちなみに何が退屈かというと、この世界の学力が前の世界に比べると高くはない。
それも当たり前の話で、ゲーム世界の勉強難易度が高かったらそれだけでゲーム離れしてしまうだろう。
故にそんなに学歴がない俺でも、わかるような問題ばかりというわけだ。
「ふぁ……終わったか」
「ちょっと、寝てばかりじゃない。そんなんで、テストは平気なの?」
「まあ、多分平気だろう。無論、油断はしない」
今となってはクラスを下げるわけにはいかない。
だが、これくらいなら問題ないだろう。
そんなことより、考えることは山ほどある。
「もう……私は、一緒に卒業したいわ」
「卒業か……」
「どうかしたのかしら?」
「いや、なんでもない。さあ、では行くとしよう」
俺が卒業できるということは、死亡フラグを回避したということ。
それまで生き残って見せなくては。
そう決心して立ち上がると、アークが道を遮ってくる。
「待ってください」
「なんだ? 俺に何か用なのか?」
「二人を連れて何処に行くんです?」
「無論、部活だ」
己のフラグのために向かってきたか。
だが、今の俺を止めることは出来んぞ。
これから俺は、己の夢を叶えるために行動を起こすのだから。
「その、二人を解放してあげてください」
「ちょっと、別に私達は……」
「セシリア、下がっていろ」
「……っ!? は、はぃ……やだ、何これ」
俺は前に出ようとするセシリアを、手を伸ばして遮る。
セシリアの立場的に、表立って俺の味方をするのは困るだろう。
最初の考え通り、この子を板挟みにさせるような真似はさせたくない。
例えそれで、俺に悪評が広がろうとも。
「権力で縛り付けて楽しいですか?」
「そう見えるのか? だとしたら節穴もいいところだ。俺は彼女達に、きちんと報酬を与えている」
「報酬……ですか?」
「ああ、そうだ。つまり、これは正当な取引の元に成り立っている。これから行うのも、その一貫だ。さあ、邪魔なので退いてもらおうか」
流石に最後の言葉には、アークも渋々ながら従う。
俺はセシリアとカレンを連れて、教室から出るのだった。
しばらく歩くと、二人が話し出す。
「あ、あの、わたしは自分で望んで……」
「私だってそうよ。どうして、あんな言い方したのよ?」
「ああ言っておいた方が、周りから何か言われた時に言い訳が出来るだろう。何せ、俺は怠惰で傲慢な王子で有名だからな」
俺は別にアークのヒロイン攻略を邪魔するつもりはない。
というより、ヒロイン達の幸せの邪魔をするつもりがないか。
なので、こうした方がアークも関わり易いだろう。
ともかく俺は、自分の破滅さえ回避できれば良い。
「リオン様……わたし、リオン様の良さをみんなに伝えますね!」
「確かに私はお父様の件があるけど……それでも幼馴染を下げてまで、自分を守るつもりはないわ」
「ふっ、強情な女性陣なことだ。まあ、好きにするが良い」
職員室で鍵を受け取った俺は、部室に入って早速作戦を練る。
この行動で、俺の破滅フラグ回避が決まると言っても良い。
「これより、スイーツ布教活動を行う」
「さっきのやつね。確かに、あの美味しさを知らないのは人生を損してるわ」
「正直、少し勿体ない気がしますけど……みんなにも食べて欲しいですね」
「ふふ、わかるわ。自分達だけが知ってる特権というのは蜜の味だもの」
「くくく、安心しろ。二人には最優先で試食をしてもらう」
「ふふふ……」
「えへへ……」
テーブルを囲んで不気味な笑いが漏れる。
この二人も、スイーツの魅力に取り憑かれたようだな。
「今から、世界征服でもするんです?」
「おっ、アンナか」
振り返ると、いつの間にかアンナが……まあ、いつも通りだ。
アンナには食べさせてないと思い、今日は呼んでおいたのだ。
それに、これからの作戦には人手が足りないのもある。
「アンナちゃん、久しぶりね」
「え、えっと……メイドさん?」
「セシリア様、お久しぶりでございます。カレンさん初めまして、アンナと申します。リオン様の専属メイドで、何でもご奉仕させて頂く者です」
「ご、ご奉仕……?」
「それはもう、朝だ……もがっ」
俺は咄嗟にアンナの口を塞ぐ。
あぶねえ! 何を言おうとした!? 朝のアレはただの生理現象だ!
というか、カレンが無知で助かった。
ちなみに、横でセシリアがオロオロしてるのは見て見ぬ振りをしよう……意外と耳年増だったらしい。
「おい、初対面の人に変な先入観を埋めるな」
「ですが、側妻になる方には言っておかないと」
「そ、側妻!? わ、わたしが……」
「ならんわ。そもそも、妻をとるつもりもない。ほら、時間がないからさっさとやるぞ」
自分が死ぬかもしれないのに妻など取れるか。
それに王位継承で揉めるに決まってる。
俺は鍋を用意し、作業を開始する。
「カレン、かき氷ソースの作り方はわかるな?」
「はい! メモを取ってました!」
「では、セシリアに教えてやってくれ。アンナ、お前は……ビラ配りと設置の準備を」
「私も料理を手伝い……」
「いや、お前はビラ配りだ」
数回の問答の後、どうにかアンナをビラ配りに行かせる。
アンナに任せたら、スイーツ布教作戦が失敗してしまうところだった。
むしろ、死人が出てもおかしくない……こんなところで躓いたら笑えん。




