これからの目標
翌日の昼間、俺は自室にて久々に鍛錬をしていた。
重りをつけた木刀を振り、それをピタッと止める剣道スタイルの素振りだ。
単純に強くなるためにもだが、少し考えをまとめたかった。
幸いにして、今日から二日間休みなので時間はある。
「ふっ……せぁ……!」
ひとまず、昨日の出来事でただ避けているだけでは破滅ルートを回避出来ないかもしれないとわかった。
まずは何か起きてもいいように、身体を鍛えておく。
それと同時に、魔法の鍛錬もしなくては。
「随分と精が出ますね。どうせなら、私でスッキリしたらどうです?」
「ブハッ!? 人が真面目に鍛錬をしてる横で何を言ってる!?」
「いえいえ、随分と真剣な表情だったので」
シリアスが台無しだよ!
近くの椅子に座り、アンナがほえ杖をついて眺めていた。
さっきまではいなかったのに、相変わらず神出鬼没である。
「コホン……それで、どうだった? 周りの反応は」
「一部の生徒達の間では、御主人様が悪者になってますね。誰が言ったかはわからないですが、実はアークの親を殺してるとか」
「殺しとらんわ。全く、訳がわからん」
「そうですね、変な話です。後は王城でも御主人様が変なことを始めたり、平民の女の子に無理強いをしてるとか噂がありました」
「まあ、それについては無理もないか」
カレンは平民だし気弱そうだし、元の俺を知っていればそう思うだろう。
ただアークに関しては事実無根である。
少なくとも、リオンの記憶にはそんなことはない。
しかも、噂の手所がわからないというのが不気味だ。
「国王陛下や宰相様も、御主人様のことを訝しんでますし。やっぱり——全員、消しますか?」
「消すな消すな。そんなことになったら、さらに面倒だ」
「まあ、それは冗談として……何故、アークを消さないので? 流石にあれだけのことをしたら、死刑でも良いくらいです」
「しかし、誰もそうしろとは言わない」
「それは……御主人様が温情をかけたからでは?」
「まあ、それもある」
しかし、俺には恐れていることがあった。
何故、このゲームに酷似した世界に転生したのかはわからない。
しかしここがゲームと同じ世界だとして、《《主人公を殺したらどうなる?》》
俺としてはせっかく得た第二の人生、出来れば寿命を全うしたい。
かといって、試しで殺すわけにもいかん……そうなると、別の方法を考えねば。
「何故、御主人が躊躇うのかはわからないですが……まあ、私は従うだけですね」
「ああ、そうしてくれると助かる。アンナのことだから、奴についても調べたのだろう?」
「そうですね。経歴を調べましたが、これといって特別なことはなかったです。ただ、やたら独り言が多かったですね。やれ、こんなはずではとか、俺は主人公なんだとか。ただ、あんまり近づくと……始末したくなるのでそこまでにしました」
「お、おう……まあ、奴に関しては放っておいていい」
なるほど、これで一つ確定したな。
奴が転生者……あれ? 俺、めちゃくちゃ邪魔してね?
そりゃ、敵意を持たれるわけだ。
「まあ、過ぎたことを悩んでも仕方あるまい。別に奴が何者であろうと、俺のやることは変わらん」
「なんの話ですか?」
「いや、なんでもない……さて、この辺にしとくか」
「結局、今後はどうするのですか?」
「とりあえず、俺のイメージが悪いことが一因だろう。なので、それを払拭するための行動をする」
世界の仕組みとかそういうことは、考えてもわからない。
ただ俺が助けた相手や関わった相手は、俺に好印象を抱いてる様子。
ならば、そういった者達を増やしていけばいいのではないだろうか。
アークに関しては、変わらず避ける方向でいいだろう。
「確かに、それはそうですね。具体的な案はあるのでしょうか?」
「ふむ……俺にできる好感度を上げる方法か」
ここからが問題だ。
何せ今までのイメージが悪すぎて、中々人が寄ってこない。
仮に来たとしても、俺は冷たい印象を与える顔らしいし。
「御主人様の顔、中々に怖いですからね。私は好きですけど……笑顔の練習とかします?」
「なるほど……こうか?」
俺は自分の中での、満面の笑顔を見せる。
すると、アンナが苦虫を噛み潰したような表情になった。
「まるで『ふっ、薄汚い下民共が』という顔ですね」
「……酷くね?」
「ご自分の鏡で見たら良いかと」
そう言われたので、鏡を見てると……そこには凶悪な顔をした男がいた。
これなら、笑わない方がマシである。
「コホン……次の手を考えようか」
「それが良いかと。真面目な話、御主人の人となりを知る機会があれば良いかと。あとは恩を売るなどですかね」
「人となりを知る機会に恩か……ん? その手があるか?」
俺の脳裏に、一つの案が浮上した。
それは実益を兼ねているし、高感度アップに繋がるかもしれない。
「何か良い案でも浮かんだのです?」
「ああ、浮かんだ——スイーツを作ろう」
「……はい? 大丈夫です?」
「くくく、俺は至って冷静だ……そして、俺のスイーツで世界を変えればいい」
俺の破滅回避には、好感度を上げる必要がある。
俺は破滅回避してスイーツを作りたい。
ならば……皆をメロメロにさせるスイーツを作れば良いのだ。
「やっぱり、最近の御主人様は変ですね……まあ、楽しそうだから良いですか」
「ふはは! 見ていろ! 我が氷魔法を駆使し、至高のスイーツを作ってやろう!」
そう決めた俺は、拳を天高く掲げる。
アークよ、お前が何をしようが関係ない。
したいことがあるなら、勝手にすれば良い。
だが、俺の邪魔をするなら容赦はしない。
俺は、俺の道を歩んでいくのでな。




