世界の仕組み
俺は馬鹿か、何故気づかなかった。
カレン……いや、目の前の女の子が聖女カレンティアだと。
聖女カレンティア、それは光魔法の達人にして教会認定の聖女である。
その鉄壁の防壁は俺の魔法を防ぎ、回復魔法は他の追随を許さない。
猪突猛進の多い主人公のパーティーにて、貴重な後衛キャラだったとか。
ちなみに俺の知る知識では、《《ティア》》と呼ばれていた。
「……まじか」
「ふふ、驚いたわよね? まさか、こんな可愛い顔を隠してるなんて。髪が傷んでいたから、ついでに整えちゃったわよ」
「へ、変じゃないですか? うぅー……視界が開けてます」
セシリアはドヤ顔、カレンは恥ずかしそうに両手で顔を隠す。
しかし、気づかなかった理由……確かに俺も馬鹿だが、あまりに違いすぎるだろ。
見た目だけではなく、俺の知るカレンティアはもっと凛としていた。
「そうか、そうなる前のカレンティアということか」
「カレンティア?」
「いや、なんでもない」
主人公に出会い、変わっていく中で成長した姿を俺は知っているのか。
そして俺が気づかなかった一番理由は……リオンと関わりがないからだ。
ゲームの記憶は朧気でも、《《リオン》》としてセシリアやセリーヌ先生はある程度知っている。
しかし、カレンのことは当然ながら知らない。
「ちょっと、何を考え込んでいるのよ? なにか、言うことがあるんじゃない?」
「あ、ああ……カレン、無事で良かったな。それと、似合っているぞ」
「あ、ありがとうございます……」
「リオンにしては上出来ね」
「放っておけ」
落ち着け……つまりは、そういうことだ。
俺は気づかぬうちに、アークの邪魔をしてしまったわけだ。
しかも、最初のイベント……あれが本来ならアークとカレンの出会いだったのでは?
「ァァァァァ!?」
「ど、どうしたの!?」
「やっぱり、まだ傷が!」
「い、いや、気にするな。少し混乱しているだけだ」
俺としたことが……問題は、これからどうするかだ。
今からカレンを遠ざける? ……それはそれで、悪評が立つな。
自分で部員に誘ってしまっているし、セシリアとも仲良くなってる。
そうすると、二人を敵に回すことに。
「……こわっ」
「今度は何よ? 本当に休んだ方がいいんじゃないかしら?」
「そうですよ。回復魔法だって、万能じゃないって言いますし」
「そうだな……すまんが、そうさせてもらおう。セリーヌ先生には、よろしく伝えといてくれ」
俺は頭を整理するためにも、その場を離れる。
そしてしばらく廊下を歩いていると、恐ろしいオーラを纏ったアンナを発見した。
手には短剣を持ち、今すぐにでも誰かを殺しそうだ。
「コロシマス……よくも御主人様を……ユルサナイ」
「何か物騒なことを言ってる!?」
どうやら、本当に殺す気だった!
俺は慌てて駆け寄り、その肩を揺さぶる。
「おい、しっかりしろ」
「あっ、御主人……お怪我はありませんか!?」
「ああ、問題ない。それより、何をしている?」
「もちろん——アークという不届き者を始末に」
「……ふむ」
その手を考えなかったと言えば嘘になる。
いっそのこと、始末して仕舞えば俺の破滅は回避できるのではと。
しかし、それはあまりにもエゴが過ぎる。
何より、今回のことで少し考えが変わった。
「では、許可も取れましたので——いざ」
「待て待てーい、いざじゃねえ」
「何をするのです?」
「こっちのセリフだ。というか、許可なんて出してない」
走り出そうとするアンナの首根っこを捕まえる。
ほんと、危なっかしい奴だ。
「沈黙は肯定とも言いますし」
「少し考え事をしていたのだ。アンナ、とりあえず場所を変えるぞ」
ここはアークが休んでいる部屋の近くだし、セシリア達とまた会うのも困る。
幸いにして俺は怪我人扱いなので、そのまま早退することにした。
王城に帰ってきて、ようやく一息つく。
「ふぅ……」
「お疲れ様でした。それで、どうしたのですか?」
「いや、まずはお前の行動を教えてくれ。どうせ見てただろうが、よく我慢出来たな?」
こいつのことだから、何処かであのやり取りを見てたに違いない。
客観的に見ている者がいるのはありがたい。
「はい、見ておりました。一応、御主人様に何か考えがあるかと思いましたので」
「ああ、その通りだ。それで、お前の目から見ても状況は変だったか?」
「そうですね……何故、大半の生徒がアークに味方するのかわかりませんでした。無論、私が御主人様贔屓ということもありますが。ただ、全体の空気感というか……うまく言えませんが、御主人を悪者にする流れが出来ていたような……すみません、説明が下手ですね」
やはり、客観的に見てもそうなのか。
全体の空気感……何かの力が働いてると思った方が良さそうだ。
あとは、それをどうすれば解消できるか……ん? 待てよ?
「いや、十分だ。さっき、大半の生徒と言ったな? つまり、そうじゃない生徒もいたってことだ……そいつらは、具体的に誰かわかるか?」
「……カレンさんセシリア様とセリーヌ様、それと何人かの生徒……待ってください、その生徒は……気のせいじゃなければ、御主人様がお昼休みに助けた者達もいたような。流石に全ては把握出来ていませんが」
「ふむ……アンナ、良くやってくれた。とりあえず、どんだけ俺を見てたということは置いといて」
「私が御主人を見てるなんて当たり前です。それで、何かわかったのですか?」
「ああ、確証はないが試してみる価値はある」
まずは前提として、この世界は何らかのルールがあると仮定しよう。
そしてそれは、俺の不利になるようになっていると。
もしそうなら、その不利を覆せばいい。
破滅フラグよ、俺のスイーツ男子という夢を潰すつもりなら覚悟するがいい。




