悪役、勘違いに気づく
それは、俺の予想の範囲外だった。
まさか、あの気弱なカレンが俺を庇うために動くなど。
そのために一瞬の遅れを取ったが——。
「ウォォォォォォ!」
「キャァ!?」
全魔力を集中させ身体を無理矢理動かし、どうにかカレンを引き寄せる。
そのまま抱きかかえ——掌から魔力を解き放つ。
「アイスノヴァ——」
「ぐぁぁぁ!?」
「きゃぁ!?」
いくつもの氷の輪が形成され、それらが迫り来る炎の槍を相殺。
しかしその余波で、爆風が襲いかかる!
身体のあちこちに痛みが走り……やがて風が収まってくる。
「ちっ……平気か?」
「は、はい、わたしは平気です……あっ、リオン様の肩が」
確認をすると、右肩に火傷の跡があった。
おそらく、フレイムランスの余波を食らったのだろう。
咄嗟に放った氷魔法とはいえ、流石は主人公といったところか。
「ふん、これくらい大したことない」
「だ、ダメですよ、癒しの光よ——ヒール」
光が発生し、俺の肩を癒していく。
これが、光魔法が希少と言われる所以だ。
全属性の中、唯一回復魔法を使えるのだ。
「ほう、助かる。それよりも……お主の方がひどいな」
「うぅー……よく見えません」
大きな怪我はなさそうだが、爆風による髪や制服の汚れがひどい。
そして余波が完全に収まり、周りの景色が見えてくる。
そこには、焦った顔で駆けてくるセシリアの姿があった。
「リオン! カレン! 平気なの!?」
「ああ、俺は問題ない」
「わ、わたしも平気です……リオン様が庇ってくれたので」
「全くだ、俺なら食らっても問題なかったというのに」
「ご、ごめんなさい……身体が動いちゃって」
「まあ、過ぎたことは仕方あるまい……痛いのだが?」
何故か、セシリアに頬を引っ張られている。
その顔は困ったような、怒っているような……よくわからない感じだ。
「その前に言うことがあるんじゃないかしら?」
「……カレン、庇ってくれて感謝する」
「あっ、えっと……はい」
「ふふ、よく言えましたわ」
すると、セリーヌ先生もやってくる。
そして周りの生徒に被害がないことに気づく。
おそらく、セリーヌ先生が風の防壁を張ってくれたのだろう。
「セリーヌ先生、お手数をおかけしました。流石は宮廷魔術師のお一人だ」
「もう、びっくりしましたよー。でも、風の防壁が間に合ってよかったです」
「助かりました。それで、アークは無事ですか?」
「はい、アーク君ならあちらに。今は気を失ってますが……どうしますか?」
「どうするとは? これはただの模擬戦で、怪我人は俺と本人のみ。ただ、それだけのことです」
確かにアークのしたことは、この世界において普通なら罪に問われる。
そもそも、王子である俺に決闘を仕掛けることすら危うい。
しかし俺は王太子ではないし、ここは学園という建前だ。
だったら、そこまでしなくてもいい……それに、少し気になる点もある。
「優しいんですねー。でも、けじめは大事ですよ」
「ええ、そうですね。あの威力の魔法は模擬戦で使うべきじゃない」
「うんうん、あのクラスは上級生並みだしねー。それじゃ、後は先生に任せてちょうだい」
そう言い、平らな胸を叩く。
……そんなことを思ってるとバレたら殺されそうだな。
「お願いします。さて……カレン、そろそろ離れてくれるか?」
「ふぇ? ……ひやぁぁ!? ご、ごめんなさい〜!」
ずっと抱きついていたカレンが、ようやく離れる。
こちらは平らどころではないので、正直言って助かった。
「ちょっと、カレンってば汚れ過ぎよ。というより、髪の毛まで傷んでない?」
「むっ、少し火の粉がついてしまったか?」
「こ、これくらい平気です!」
「そういうわけにはいくまい。セシリア、すまんがカレンを頼む」
「ええ、もちろんよ。さあ、行きましょう」
カレンをセシリアに預け、俺も汚れを落とすためにその場を離れる。
最後に振り返ると、他の連中の模擬戦が始まろうとしていた。
俺は戻るのも面倒なので、建物内にある控え室で時間を潰すことにした。
「さて、どうしたものか」
結果的に、俺はアークを打ちのめしてしまった。
だが、状況的に俺が悪者になるようなことはないと思うが。
ただ、何となく嫌な感じだ。
「あの時の流れは流石に変だ」
いくら俺に悪評があろうとも、周りの生徒がアークの味方をした。
それに王族に剣を向けたことも許容していたし。
平民ならともかく、貴族の連中も気にしていなかったような。
「やはり……何かしらの強制力が働いてると思っておくべきか?」
アークが俺に敵対心を向ける理由や、俺を悪役にするための強制力のようなものが。
そうだとしたら、そのためにできることは何だ?
避けられないならば、それが来る前提で動かねばなるまい。
「はぁ……こんなんだったら姉さんに聞いておくんだった。ストーリーがわからないから、対処のしようがない」
「姉さん? セリカ様がどうかしたの?」
振り返ると、いつの間にかセシリアがいた。
その後ろには姿は見えないが、誰かがもじもじしている。
まあ、青髪が見えているのでカレンだろうが。
「おいおい、ノックくらいしろって」
「したわよ。だけど、返事なかったし」
「そいつはすまなかった。それで、何でカレンは隠れてる?」
「それが……見たら驚くわよ」
「うん? どういう意味だ?」
「ほら、カレン」
「は、はい……あぅぅ」
そして後ろから現れたのは、見たことのない美少女だった。
重たく長かった髪は整えられ、サイドテールにまとめられている。
前髪も多少目にかかってはいるが、その綺麗で大きな瞳は隠せていない。
そして、それがカレンだと理解した時——俺は自分の過ちに気付くのだった。




