模擬戦
訓練場を静寂が包み込む。
他所で見ていた他のクラスも、話すことを辞めて注目している。
これは、対応を間違えると危険だろう。
「ちょっ、ちょっと待ちなさい。アーク君、相手は第二王子のリオン君なのよ? えっと、一応身分差は関係ないとはいえ……」
「はい、分かってます。でも、僕の相手を出来るのは彼くらいですから」
おそらく、その答えは間違ってない。
アークの魔法は見ての通り中々で、そもそも妹のラーラを救う際に賊を倒している。
実戦経験があるという意味でも、ここの生徒達では荷が重いだろう。
「リオン、どうするの? というか、何であんなに敵意を向けられているのよ?」
「そんなのは俺が聞きたいくらいだ」
「そ、それでどうするのよ? あんまり痛めつけるとイメージ悪いわよ?」
「そんなことはわかっている。まあ、任せておけ」
俺は立ち上がり、少し離れてアークの前に立つ。
実はこうして正面から顔を合わせるのは初めてだ。
アークは俺を親の仇のように睨みつけてくる。
「ほう、俺を睨み付けるとはいい度胸だ。今回に限っては不敬は問わないでおこう」
「……あれ? てっきり激昂するかと思ったのに……どうしよ?」
「何をぶつぶつ言っている?」
「と、ともかく、僕と戦ってくれるということですね?」
「ふっ、この俺と戦うか——断る」
「……へぁ?」
次の瞬間、アークが鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
しかし、こちとら戦う理由がない。
どれが破滅フラグかわからないが、間違いなくこれはその一環だろう。
「というわけで、他の者に頼むといい」
「ま、待ってくれ……逃げるのですか?」
「逃げる?」
背を向けた俺が振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべたアークが。
おいおい、その顔だとどちらか悪役かわからんぞ。
「ええ、そうです。僕に負けるのが怖いから逃げるのでは?」
「ああ、そうだな。俺はか弱い第二王子でな、戦いは向いてない」
「お、おかしい……なんでイベントが起きない?」
こいつは何をさっきからぶつぶつと……いい加減、腹が立ってきたな。
俺は平穏な生活を送って、スイーツ男子になるというのに。
その時、周りから声がしてくる。
「ねえねえ、リオン殿下が何かしたんじゃない?」
「そっか、だからあんなに怒ってるのかな?」
「じゃないと、平民が王族に喧嘩売るわけないよな」
「最近は平民の女の子を連れ回したり、セシリア様に無理を言って部活に入らせたりしてるとかって……」
「なんか、怪しい部活をやってるとかって」
……なるほど、周りからはそう見えるのか。
そうか、忘れていたが俺の評判は最悪だったな。
もしくは、これが主人公補正というやつだろうか。
「どちらにせよ……これは良くない流れだ」
「そ、そうだ! 身分を利用して女の子を侍らせている!」
その言葉を受けて、セシリアとカレンが動こうとするのが目に入った。
俺はそれを目線だけで制し、冷静に頭を回転させる。
この状況を丸く収めるためには、どう立ち回るべきかを。
(どうする? 断ったとしても、イメージは悪くなるか?)
その場合、アークのフラストレーションは溜まる一方。
そして逃げたという評判は、俺の悪評が真実だと思われかねん。
寛大な心で度量の広さを見せたとしても、強がりと言われるか。
「……仕方ない。おい、アークとやら」
「な、なんです?」
「いいだろう、その勝負受けてやる」
これが避けられないフラグなら、それを正面から受け止める。
そして被害を最小限にし、これ以上俺の印象を下げないように。
「そ、そうですか」
「リオン君、別に断ってもいいのよ?」
「いえ、セリーヌ先生。これも、自分が蒔いた種でしょう」
そもそも、俺の評判が良ければこうはならない。
今までしてきたことのツケというわけだ。
……だが、それでも破滅だけは回避してみせる。
「……わかりました、それでは私が審判を務めますね。それでは……始め!」
「いざ勝負!」
「かかってくるがいい」
アークは一気に踏み込んできて、剣を振り下ろす。
俺はそれを一歩下がって避け、横薙ぎを放つ。
アークは咄嗟にバク転をして、それを躱した。
「ほう、身軽な奴だ」
「リオン殿下こそ、いい剣筋ですね」
アークから焦りや怒りが消え、何やら嬉しそうだ。
そんなに、俺と戦いたかったのだろうか。
アークがゲームの記憶があってもなくても、別に俺に執着する理由は無かろうに。
「ふっ、これでも同世代では負け知らずでな」
「では、これなら!」
先ほどより鋭い斬撃が降り注ぐ。
俺は剣でガードしたり、身を捻ったりしながら対処する。
(剣の腕は悪くないが、俺の敵ではないか。現時点では、負けようがないな)
さて、倒すのは容易い。
おそらくリオンの性格上、正規ルートでは俺が一方的に痛めつけるはず。
それが破滅ルートに繋がるなら、その逆を行けばいい。
俺はわざと力を抜き、アークの攻撃を受ける。
「くっ!?」
「どうした!? そんなものかよ!」
「や、やりおる……!」
興奮からか、相手の口調が変わってくる。
そして俺は次第に追い込まれていき……転ばされて剣を突きつけられた。
はじめの余裕は何処やら、アークの目は焦りに染まっている。
「どうして本気を出さない!」
「……意味がわからんな」
「お前が本気を出して俺を倒さないと……こうなったら——くらえ! フレイムランス!」
その炎の槍は、中庭で相殺したものとは比べものにならない。
食らえばかなりのダメージだが……避けることはしない。
この勝負に負けることが、俺の目的なのだから。
「ちょっ!?」
「リオン!?」
「「きゃっ!?」」
先生やセシリアが動こうとするので、瞬間的に足元に氷を展開させた。
足をもつらせたので、時間稼ぎになるだろう。
そして、ゆっくりと炎が迫ってきて……。
「だめぇぇぇ!」
次の瞬間——カレンが俺の前に飛び込んでくるのが見えた。




