思いつく
そのまま俺が思案していると、やたら静かなことに気づく。
ふと横を見ると、ゴルバが泣いていた。
ちなみに、大のおっさんが泣いているとかなり怖い。
「ちょっ……どうした?」
「私は感動しております! まさか、我々飼育員と魔獣のことを気遣ってくれる方がいるなんて! それも王族の方が!」
「お、おう……」
「貴方様の実力であれば、倒すことなど容易かったでしょうに……最近は冒険者などもきますが、傷をつけてしまう者などもいる始末。騎士達も無理言って我々にとってこいと。そんな中ご自分で取りに行き、魔獣のことを気遣うなんて——感激いたしました!」
「い、いや、それはだな」
あまりの圧に、思わず後ずさりをする。
俺としては、単純に貴重なオーガバッファローを殺したくなかっただけなのだが。
俺が言い訳を言おうとすると、アンナが前に出る。
「そうなのです、御主人様は身を顧みずに魔獣を優先しました。それは、魔獣という貴重な存在を傷つけないため」
「おおっ! やはり!」
「御主人様は牛乳が世界を変えると思いになっております。こういう言い方はあれですが、お譲り頂くことは可能でしょうか?」
ふむふむ、確かにスイーツは世界を救う……のか?
ともかく、それを恩に着せて牛乳を頂くという作戦か。
我がメイドながら、中々に策士だな。
「無論、それが出来たら一番なのですが……最近、我々でも取るのが難しいのです。暑さで気がたっているのか、そもそも乳の量も減っておりますので」
「そういうことですか。御主人様、如何なさいますか?」
「ふむ、由々しき事態だ。解決できるかはわからないが、俺も考えてみよう」
「なんと……感謝いたします! あっ、そういえば……」
ゴルバが何かに気づき、後ろの方でゴソゴソし始める。
そして、俺に黄色い玉……いや、卵を差し出す。
大きさは野球ボール程度だろうか? ともかく、立派な卵に間違いない。
つまり……そういうことだァァァァ!
「この卵は!?」
「同じく飼育しております、ココンドラの卵でございます。未成熟なので孵ることはないので、食用として回収いたしました」
「……これを俺に? 売れば、かなりの額になるのでは?」
ココンドラ、それは竜のような頭に鶏の体を持つ魔獣。
イメージとしてはダチョウの体に近い。
その蹴りは大木をへし折り、竜の口からは火を吐くとか。
それだけに、卵を取るのは至難の業だろう。
「はい、確かにそうです。ですが、貴方様に受け取って欲しいと」
「……わかった。その代わり、必ずや約束は守ろう」
「感謝いたします!」
「なに、礼を言うのはこちらの方だ」
ふと外を見ると陽が暮れてある。
牛乳は手に入らなかったが、俺とアンナはひとまず城に戻ることに。
「さて、どうする?」
「牛乳がないと、御主人様の目的のモノは作れないのですか? ホワイトホースの乳とかダメなのでしょうか?」
ホワイトホース、それは家畜用になった馬の魔獣だ。
白い体に大きな巨体を持つが、性格は温厚。
それ故に狩り尽くされたところを、人が飼育し始めたとか。
ちなみに馬乳は、お世辞にも美味しいとはいえない。
「いや、出来ないことはない。ただ俺は、牛乳がいいのだ。馬乳を否定はしないが、あの濃厚さは牛乳以外では出せない」
「そうですか。そうなると、何か考えが必要ですね」
「うむ、我が願いを叶えるためにはな。とりあえず、父上にも報告しておこう」
「では、私がまとめておきます」
「ああ、頼む。それより、今大事なのはこの卵だ。卵だけあっても牛乳がなければ……ん? そうか、その手があったか」
「何か思いついたのでしょうか?」
「くく、見ておれ——とっておきのスイーツを作ってやろう」
俺の頭には、とあるメニューがある。
次の活動日に備えて、俺は卵を氷のボックスに入れて保管するのだった。
◇
その日の夜、御主人様には内緒で私は国王陛下の私室に呼ばれました。
目の前には陛下と、宰相様の姿があります。
「して、アンナよ……どういうつもりだ?」
「どういうつもりとは?」
「我々が送り込む密偵を悉く退けるではないか」
「だって、御主人様を監視しようとするから。それを排除するのが、私の役目です」
少し変わったけど、楽しそうにしている御主人様を見てると嬉しくなります。
そして何か特別なことを成そうとしている。
だったら、それを邪魔させるわけにはいかない——相手が誰であろうとも。
私の意思を感じ取ったのか、ゼノス様が前に出る。
「ゼノス、よさんか」
「しかし、陛下……これでは、リオン殿下が何をしているのかわかりません」
「それでも断片的なことはわかる。リオンは真面目に学校に行き、何やら平民を助けたり。部活を作ったりとしているそうだ」
「ええ、娘からも聞いております。娘はリオンは戻ったのよと言いますが……不気味で仕方がないですな」
いくら私とて、人の噂までは排除はできない。
そして今までの行動からしたら、可笑しいと思うのは無理もないこと。
私自身も、最初は戸惑ったくらいですから。
「それはそうだが……アンナよ、リオンは何を成そうとしている?」
「私にもわかりません。ですが、とても楽しそうです。よく笑うようになって、私にお礼を言ったり」
「楽しそう……笑う……お礼……あのリオンが」
「御主人様は確かにお変わりになられたかもしれません。ですが、根っこの部分は変わってないかと」
私は組織に暗殺者として育てられ、とある貴族に御主人様を殺すべく送られた。
そして見事に返り討ちにあい死を覚悟した時、御主人様は言った……『中々に強いな、俺に仕える気はあるか? そうであるなら、お前の身を俺に預けよ』と。
そんなこと言われたのは初めてだったし、この人は何を言っているのだろうと。
「変わっていないとは?」
「私が暗殺者だったのはご存知のはず。その後悔を見抜かれ、私を許してくれた上にお側に置いてくださいました」
気がついたとき、私は『はい』返事をしていた。
きっと、ずっと……誰かに助けて欲しかったのだ。
それに御主人様が気づいてくれたのだと思う。
暗殺者組織を壊滅させ、私を自由にしてくれた。
「それは……確かに懇願はされたが、単なる気まぐれの可能性もあるぞ」
「それでも良いんです、私が救われたのは事実ですから。私は、あの方が成すことを全力で支えるだけですので」
「……そうか」
「もし御主人様の邪魔をするなら——覚悟をしてくださいね?」
もう用は済んだと思い、私は部屋を出て行く。
例え国王陛下であろうと御主人様の邪魔はさせない。
その全てを排除し、御主人様の願いを叶えて見せましょう。
それが私に生きる意味を与えてくださった方に対する恩返しになると思うから。




