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屍と生きる  作者: 碧空
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旅路へ

 久々に向かう街は、ここから更に南にある。海に面するから、港もあり交易で栄えている。

 魚を当てに一杯やるのも良い。そうと決まれば貸馬屋だ。貸馬屋で馬を借りて行けば徒歩よりは早く、楽が出来る。そう算段をつけたところで、思わず眉間にシワが寄った。


「無かったな」


 勿論、金のことだ。あの魔法鞄は勿論掘り出し物ではあったが、思わぬ出費だ。


「まぁ、仕方ないか」


 そもそも、自分が飢えない程度に稼げれば良く、素材とて己の装備にする予定が無ければ手元に残さなかったはずの物だ。

 急ぐ旅でもない、仕方が無いので徒歩で向かう事とする。


「よお、あんた。今日は、いつ頃戻るんだ?」


 声を掛けてきた門番に、苦笑しながら手を挙げる。戻ると信じてやまないその姿勢に、随分居着いてしまったのだと気付かされた。


「いや、街替えだ。そろそろ移ろうと思ってな」

「そうなのか? 残念だなぁ。アンタが来てから、随分珍しい肉が卸されてたり、魔獣も早く討伐されたり、ありがたかったのにな」


 面と向いて話した事はなかったはずだ。だが、どうやら向こうにとっては馴染みの相手のように思われているらしい。

 こちらは依頼の魔獣を斬り捨てただけ。それに大した会話をした覚えもない。不思議なものだ。


「アンタほどの人には要らんかもしれない情報だが、一応伝えとくな」

「なんだ?」

「どうやら、この先の街道で魔獣の群れが目撃されたらしい。気をつけろよ」

「ああ」


 情報に感謝し、手を振る門番にヒラリと手を振る。

 自分以外にも街を出るものがチラホラといた。大体は荷馬車に山と荷物を積んだ行商人らしき人物と、その護衛に何人かの屈強な男達の一団か、人を乗せた幌付きの馬車か、どちらかだ。

 大きな背負いカバンを持った旅人の一団もいるが、少ない。まあ、一番異質なのは間違いなく自分だ。ベルトに通した小さな鞄に、背負った大剣。荷物らしい荷物もなく、明らかに軽装すぎる。

 そのせいか、コチラをジロジロと見てくるものもいるが、慣れたものだ。

 皆が各々の速度で進む中、地面を踏みしめて南へ向かう。

 突然風が吹き抜けて、髪が攫われる。この旅路は、どうなるだろうか。行く先を見据え、歩き始める。

 元々急ぐ旅ではない。天候に恵まれた事を喜びつつ、ふと後ろを振り返る。


「…いない、か?」


 先程からヤケに熱心な視線がこちらに向いていた気がしたが、そちらを見ても誰もいない。殺気というような物騒なものではないが、訝しんで投げられてくる視線とも違う。

 ただ、見られている。それが何だか掴めないのが、どうもむず痒い。


「まぁ、行くか」


 接触があるなら、人がばらけた辺りだろう。まずは久々の遠出に、緑の匂いを肺に満たし、らしくもなく浮足立った気持ちを抑えながら、行くのだ。

 

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