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屍と生きる  作者: 碧空
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道を逸れる

 街道を逸れれば、そこにあるのは鬱蒼とした森だ。道なりに行くより、これを突っ切った方が断然近い。

 ガサガサと森の中にある獣道を踏み分ける。ついでに、森の中にしか自生しない薬効の高い草を見つければ、引っこ抜いて束にしていく。


「宿代くらいは、稼げるか」


 足跡や草が荒らされている形跡がない。最近、人間は入っていないだろう。まあ、入るにしたってあまり深くまで踏み込むのは、それなりの準備がが無ければ厳しい。

 自然の恩恵は遠慮なく頂く。引き抜いては束にまとめ、それなりの数にまとまれば、魔法鞄に放り込んで先を急ぐ。


「やっぱり、いるな」


 つかず離れず、何かがいる。ただ、何がいるかだけが分からない。とことん、何を考えているかが分からないのが気味が悪い。それがずっと後ろからついてくる。

 悪意はない、殺気もない。好意もなく、訝しげでもない。ただ、見ている。恐らくそれだけだから、掴めない。

 害が無ければ、放置だ。襲われたら考えればいい。視線は感じながら、振り切って進む。ふと、前で音がした。生き物が出す、特有の足音だ。無造作に出していた足をとめ、腰を低くしてその先へ視線をおくる。


「これが、門番の奴が言ってた奴らか」


 茂みの向こうにいるのは、狼型の魔獣だった。見えるだけでも3頭は確認できる。街道に出たという群れは恐らくこれだ。

 数は少ないが、このタイプは群れて数を増やし、縄張りをもつ。暖かくなる時期の前に、子供を増やすから今、正に子供が成長しきったに違いない。


「狩るか」


 色は灰色がかっているから、売値は高くないだろうが、ないよりはマシだ。背中の留め具を外し、鞘から抜刀して、乾いた唇を舐める。

 気づかれれば、面倒が増す。向こうに気取られる前に間合いを詰めるため、低い姿勢のままぐっと脚に力を込めて、茂みを突っ切った。


「ギャウン」

「グルゥッ」


 走るまま、手前の狼に肉薄し、柄で狼の頭を殴打する。殴られた狼は木の幹に叩きつけられてぐったりとしているが、勢いを殺さないまま、回転して長剣で薙ぎ、隣の狼の首を落とす。

 少し離れていた1体が体勢を低くして、飛びかかってきたのを左脚で蹴り飛ばす。転げた狼が体勢を整える前に走り寄り、止めを差した。木の幹でぐったりとしている狼も、慌てずに首を落とす。

 損傷箇所は多くないとは思う。後は、買い取り価格がそこそこである事を祈るばかりだ。

 最低限の処理をして、あとは魔法鞄に放り込む。放り込めば、嵩張ることも重さもない。魔法鞄はこれが楽でいい。以前、処理をしないまま持ち込んだら肉屋にも毛皮屋にも素材を無駄にするなと怒鳴られた。


「もう少し、何かあれば」


 美味い肴で酒を呑むためには、多少欲も出る。立ち上がると、後方からガサガサと音を立て、何かが近づいてくる。

 長剣を再び構え、対する様に構える。茂みから抜け出た瞬間を仕留めようと全身に力をためると、転げるように、小さな生き物が走り出た。

 灰色の髪に、透き通った黄石のような瞳。何故ここにお前がいる。


「お前」

「ごめんなさい」


 ガサガサという音は止まらない。膨れるような圧力が、前方の茂みを揺らし続けている。


「話は後で聞かせてもらうぞ」


 細い枝をへし折りながら、それは姿を現した。


「お前が群れのボスだな」


 先程の狼より、2周りは大きな体躯に、白銀の毛並み。コチラを睨みつける隻眼は殺気に満ちている。その怒りは、仲間を殺されたものに対するものか、それとも縄張りを荒らされた事に対するものか。

 どちらにせよ、こうなったらもう穏便には済まない。


「お怒りだな」


 久々に背筋がゾワリと粟立つ。

 巨狼は、唸り声を上げながら、覆いかぶさる様に立ち上がり、その太い脚で叩きつける様に振りかぶる。

 半歩身体をずらし、避けざまに脚を切り飛ばす。


「ギャウン」


 巨狼は悲鳴を上げながらも引かなかった。大きな口蓋を開いてこちらの頭を噛み砕こうと上から向かってくる。


「遅い」


 身を沈ませて、下からその身を貫く。肉を裂き、突き抜けたことで、一度大きく痙攣したあと、動かなくなった。長剣を抜き、その身体を地面に横たえると、

 白銀の毛並み、先程よりも大きいことも含め値は高くつくだろう。これも魔法鞄に納める事に決めて、早速処理を開始する。

 巨狼に向かいあったまま、その小さな生き物に問いかける。


「なんで着いてきた? 馬車に轢かれただけじゃ、飽き足りなかったか?」


 命が助かったのに、何故また街を出て着いてきたのか。街を出た所から感じていた視線は間違いなくコイツだ。


「あなたが、わたしを助けたので」

「はん?」


 手を止めて、その小さな生き物を見返す。よく見ればカタカタと震えているが、言葉に揺れはない。透き通った黄石の輝きが、こちらをじっと見つめている。


「あなたが、私を助けたので」


 深い溜め息で胸を空にした。視線を巨狼に移し、作業に戻る。処理を進めながら、考えていた。理解を超えた者と、どう話すべきかを。

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