第72話《王子の慈悲、そして英雄の帰還》
倒れ伏したキングリッチの前に、
ルシファーが静かに歩み寄った。
その掌を、そっと掲げる。
「――起」
白い魔力が淡く揺れ、
キングリッチの身体に染み込んでいく。
「うわっ!」
キングリッチは跳ね起きるように目を覚ました。
胸を押さえ、荒い呼吸を繰り返す。
「帰還石で帰るんだ」
ルシファーは優しく言った。
キングリッチは震える声で答える。
「……わ、分かりました……
ありがとうございます……
この御恩は……一生忘れません……!」
帰還石を投げると、
光に包まれ、キングリッチは消えた。
その直後、ストレージが開き、
マコトとカリナが姿を現す。
マコトは目を輝かせて言った。
「すごいよルシファー、圧倒していたね」
カリナも腕を組んで感心する。
「魔法名もわからず、よく使えたな」
ルシファーは頭をかきながら笑った。
「いや〜、なんとなくのイメージで言ってました。
ホワイトクルセイダーのタケシを少し……パクりました」
ルナが呆れたように言う。
『ほとんど無詠唱魔法よ。
すごいとしか言いようがないわね』
その時、魔導カメラが復旧し、
メメの声が響き渡った。
『やっとカメラ復旧しました〜!
黒薔薇の翼が立っている〜!
ボスはいません!
……クリア判定出ました!
黒薔薇の翼、第5階層クリアです!!』
――出口三人が出口ゲートをくぐった瞬間、
すり鉢状の観客席から爆発のような歓声が上がった。
「黒薔薇の翼だ!!」
「翼ーー!!最高だったぞ!!」
「黒!薔薇!翼!黒!薔薇!翼!!」
中央広場の熱気が渦を巻き、
屋台の煙と歓声が混ざり合う。
カリナは大剣を掲げ、
ルシファーは照れながら手を振り、
マコトは苦笑しつつも嬉しそうだった。
その時――
観客の波を割るように、
ひとりの男が姿を現した。
鋭い眼光、整った立ち姿。
蒼紋騎士団の副団長――アーサー。
彼は飛翔し黒薔薇の翼の前に立つと、
静かに言った。
「……やっとお目にかかれたな…黒薔薇の翼……いや……マコトとカリナ!」
観客のざわめきが一段と大きくなる。
黒薔薇の翼と蒼紋騎士団――
ついに、正面から向き合う瞬間が訪れた。
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