第65話 《バーサーカーモード》
ヴァルガの咆哮がストレージ内を震わせた。
その声は獣とも人ともつかず、ただ“狂気”だけが宿っていた。
『我、降臨!!
久しぶりだなマコト!!
またパワーアップしているな!
感心であるぞ!』
マコトは息を整えながら、低く問いかけた。
「今回の敵、わかってる?」
『ああ、全て聞いていた。
マリオと黒ゴーレムだな。
時間が無い……行くぞ、マコト!』
「レジデューストレージ! 俺、出る!」
黒い炎が爆ぜ、ヴァルガが姿を現した瞬間、
呪空間の空気が一変した。
重く、冷たく、まるで“生き物の胃袋”の中にいるような圧迫感。マリオが目を見開く。
「……誰だ貴様。
なぜこの空間に出現できる!」
ヴァルガは鼻で笑った。
『ヴァルガだ…知らぬか…まぁいい…。
まずは黒ゴーレムからだ……狂剣』
「…ヴァルガ…あのヴァルガ?…伝説の…か?…」
黒い霧が渦を巻き、
ヴァルガの手に漆黒の大剣が形成される。
刃は光を吸い込み、周囲の空間が歪むほどの禍々しさを放っていた。
ヴァルガは一瞬で跳躍し、
黒ゴーレムよりも高く舞い上がる。
「――狂斬!!」
黒い軌跡が空間を裂き、
ゴーレムの巨体を斜めに切り裂いた。
だが、切断面はすぐに再生する。
ゴーレムの胸に光陣――“再”の文字が輝いた。
マリオは狂気じみた笑い声を上げる。
「クハハハハ!!伝説のヴァルガだろうが
この空間において、勝つことは不可能だ!!」
黒ゴーレムが拳を振り上げ、
地面を叩きつけた。
「――震槌衝!!」
床が爆ぜ、衝撃波がヴァルガを直撃する。
黒い身体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。
それでもヴァルガは笑った。
『……我にダメージを与えるとはな……』
ルナの声が響く。
『マコト! 残り時間70秒よ!』
「ヴァルガ! いけるのか!」
ヴァルガは静かに答えた。
『笑止。見ておれ――
ブラックフィールド』
漆黒の球体が発生し、
その中に閉じ込められたのはヴァルガ、マリオ、黒ゴーレムだけ。
マリオは震えた。
「……なんだ……
俺たちの作った空間の中に、空間が……?
バカな……!」
ヴァルガはゆっくりと振り返る。
『周りに被害が及ぶのでな。
フィールドを展開させてもらった。
――マコトよ。
“本物の狂戦士”を見せてやる』
マコトは息を呑む。
「本物……?」
ヴァルガの声が低く響く。
『――バーサーカーモード発動』
ヴァルガの剣が霧散し、
代わりに手足から巨大な黒い爪が生える。
背中の羽根が逆立ち、
瞳は完全に“理性”を失っていた。
喉の奥から、
獣のようなうなり声が漏れる。
次の瞬間――
ヴァルガは消えた。
いや、速すぎて見えなかった。
黒ゴーレムの喉元に噛みついていた。
「ギャァァァァ!!」
噛み砕きながら、
四肢の爪でゴーレムの身体を引き裂く。
再生が追いつかない。
肉片が飛び散り、黒い液体が床に広がる。
マリオは震えた。
「……バカな……
“再生”が……追いついていない……!」
ゴーレムは悲鳴を上げる。
「やめ……やめて……
痛い……痛い……!!」
だがヴァルガは止まらない。
噛み砕き、引き裂き、
黒ゴーレムは“残骸”となった。
ヴァルガはゆっくりとマリオへ向き直る。
「や、やめろ……!」
ヴァルガの一撃。
マリオは壁に叩きつけられ、瀕死。
震える手で帰還石を投げ、
光に包まれて消えた。
マコトは叫ぶ。
「よし! ヴァルガ! やったな!!」
だが――
ヴァルガは止まらない。
死んだゴーレムの残骸を、
なおも切り刻み、噛み砕き続けている。
「ヴァルガ!
終わったぞ!
ヴァルガ!!」
返事はない。
狂気だけが残っていた。
そして――
70秒が経過した瞬間、
ヴァルガは霧のように消えた。
黒い球体も消滅し、
静寂だけが残った。
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