第3話 死霧の森で出会った褐色の剣士カリナ
森の奥から、かすかな声が聞こえた。
『……ここだ……』
「……まただ」
さっきからずっと聞こえている謎の声。
ガルドが言っていた。
――死にたくないのなら、この森を抜けるしかない。
「……行くしかないよな」
自分に言い聞かせるように呟き、俺は恐る恐る森へ足を踏み入れた。
霧は濃く、視界は悪い。
木々の間から、何かがこちらを見ているような気配がする。
『……ここだ……』
声はどんどん近づいてくる。
その瞬間、白い影が視界を横切った。
「……ウサギか?」
白くて大きな耳。
だが次の瞬間、ウサギの口が裂け、体が裏返るように反転し――
グロテスクな魔物が姿を現した。
「ひいっ!」
魔物は四つ足で地面を蹴り、こちらへ突進してくる。
「うわあああああああああ!」
必死で逃げる。
足がもつれそうになる。
心臓が破裂しそうだ。
その時――疾風が吹き抜けた。
「……っ!」
風の中から現れたのは、一人の女性だった。
褐色の肌、引き締まった長身。
肩当て付きのワンピースに、背中には長剣、ブレスレットは銀色だ。
彼女は剣を抜き、魔物を一閃した。
斬撃は霧を裂き、魔物は悲鳴を上げる間もなく消滅した。
女性は剣を鞘に戻し、こちらを振り返った。
「……お前、こんなところで何やってんだ?」
「えっと……あの……」
「そのブレスレット…金色……追放勇者か?」
図星だった。
「はい……その通りです」
女性は深いため息をついた。
「まったく、あの王国ときたら……。まだ子供じゃねぇか。ここは死霧の森。高ランク冒険者しか入れない場所。酷い国王だな」
「ですよね!」
俺は激しく頷いた。
この人、めちゃくちゃ正論だ。
「私はカリナ。この森を抜けたら村がある。そこまで連れてってやる」
救いの女神に見えた。
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夜。
カリナは結界を張り、火を起こし、干し肉を分けてくれた。
「で、マコト。何で追放された?」
「スキルがゴミでして」
「そんなに使えないスキルなのか? 補助魔法みたいな?」
「いや……正確に言うと、使えない“ゴミスキル”です」
「……はぁ?」
俺はブレスレットを操作し、ステータスを表示した。
カリナは覗き込み――固まった。
「……え……ざんし……? リデジューリンク……?
効果は……ゴミの気持ちがわかる……? え……ぷ……ぷぷぷ……」
「え〜え〜、大体その反応です。ですよね」
次の瞬間、森中にカリナの笑い声が響き渡った。
「いや〜わるいわるい! 初めて聞いたわそんなスキル!
リデジューリンク! ゴミの気持ちがわかる! ぷっ……!」
「はいはい、笑ってください……」
涙目になりながら干し肉をかじる俺。
カリナは笑いすぎて腹を押さえながら言った。
「で、気持ちはわかったのか?」
「……どうかわかんないんだけど、森の奥から声が聞こえます」
俺は指を差した。
カリナはそちらを見て、眉をひそめる。
「あっちは遺跡の方角だな。ちょうどそこを抜けて村に行く予定だったし……
明日、ちょっと見てみっか」
そして、にやりと笑う。
「マコトが……ぷ……ゴミと喋るところ……ぷぷ……見てみたいし」
「やめてください……」
俺の異世界生活は、どうやら波乱の予感しかしない。
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