第110話《黒炎牙・飛行艇と山頂の罠》
夜の雲海を切り裂きながら、
黒炎牙の飛行艇はゆっくりと高度を上げていた。
下には黒炎牙戦艦の灯りが点々と並び、
そのはるか上空に飛行艇が停泊する。
ジャンコは窓から戦艦を見下ろし、
薄く笑った。
「くくく……セレスティア以外は万事予定通り……」
ペリーが報告する。
「後は明日の潜水艦の人質交換を待つだけです」
「よし……」
乗組員が声を上げる。
「間もなく着きます!」
飛行艇が戦艦の真上に位置すると、
甲板に拘束されたリリアーナの姿が見えた。
豪華客船クリムゾン・マジェスティ号での惨劇から数時間。
彼女は自分以外の全員が殺され、
憔悴しきっていた。
「……うう……なんでこんな目に……
全部……全部セレスティアのせいよ……」
その時――
リリアーナの身体が淡く光り始めた。
「……な……なにこれ……?」
次の瞬間、
彼女の身体は空中へ勢いよく引き上げられた。
「いやああああ!!
高い!! 怖い!!
いやぁぁぁぁぁ!!」
ペリーは冷静に言った。
「泣き叫んでますな……」
ジャンコは口元を歪める。
「……ふふ」
リリアーナは泣きじゃくりながら飛行艇内へ転移され、
床に崩れ落ちた。
ジャンコがゆっくりと近づく。
「これはこれはリリアーナ様……
変わり果てたお姿で……」
リリアーナは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら懇願する。
「……う……う……助けて……
許して……」
ジャンコは鼻で笑った。
「はっはっは……見る影も無いですな……
あれだけ威張っていらっしゃったのに……」
「……お……お願いします……
殺さないで……」
ジャンコはリリアーナの頬を軽く叩いた。
「……大丈夫ですよ。
優しいお父様が助けてくれますよ……
多分な」
リリアーナは震えながら叫ぶ。
「いやぁぁぁぁ!!」
ジャンコは兵士に命じた。
「連れていけ」
兵士たちは乱暴にリリアーナを引きずっていく。
「いやぁぁぁぁ!! 離して!!」
リリアーナの叫びが飛行艇内に響いた。
ジャンコは深く息を吐き、
ペリーへ向き直る。
「さて……不安材料が一つだけある」
ペリーは即答した。
「あいつらですね。
セレスティアを護衛している 黒薔薇の翼」
ジャンコは眉をひそめる。
「あいつらは我々の軍艦の位置も特定した……
必ずここにも来るはず……
だが――化け物には勝てまい……」
ペリーは静かに頷く。
「……バルカス山山頂の準備は完了しております」
ジャンコは口元を歪めた。
「そこで黒薔薇の翼を迎え撃つぞ」
飛行艇は進路を変え、
ボルケーノアイランド――
島の中心にそびえる バルカス山 へ向かっていった。
黒炎牙の罠は、すでに完成していた。
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